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青春分岐点が増えていく  作者: こむぎ


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子供に嫌な顔はさせられない

 放課後。


 学園よろずやの部室。


 この日は伊織が予定で不在、虎太も別の依頼を担当しているため、部室には奈緒と桐生の二人だけだった。


「奈緒ー! いるー?」


 廊下から元気いっぱいの声が響く。


「あ、美穂」


 扉が勢いよく開いた。


「やっぱりここだ!」


 顔を出したのは、奈緒のクラスメイトの佐藤美穂だった。


「どうしたの?」


「奈緒にお願いがあるんだけど!」


「よろずやの依頼?」


「そう!」


 美穂は元気よく頷く。


「実はさ、もうすぐお父さんの誕生日なんだよね!」


「お父さんの?」


「うん! サプライズでプレゼント買ってあげたいんだけど、今度大会あるでしょ?」


「うん。バスケ部、大会近いもんね」


「そう! 練習ばっかりで買い物に行く時間がないの!」


 美穂は困ったように笑う。


「だから、私の弟の悠馬と一緒にプレゼントを買いに行ってくれない?」


「悠馬くんと?」


「うん。まだ小学一年生だから、一人で買い物なんてできないし」


 奈緒が頷く。


「それなら私が一緒に行くよ」


「ほんと!? 助かる!」


 美穂が嬉しそうに笑う。


「一年くんもお願い!」


「俺もですか?」


「うん! 奈緒一人だと悠馬を連れて歩くの大変だと思うから!」


「そうですね。分かりました。俺も一緒に行きます」


「ありがとう!」


「何を買うかは決まってるんですか?」


「それがまだなの!」


「じゃあ、悠馬くんと一緒に選ぶところからですね」


「そう! 悠馬にも選ばせてあげたいんだ」


 美穂は少しだけ表情を柔らかくする。


「お父さん、私と悠馬のためにずっと頑張ってくれてるからさ。今年はちゃんと喜ばせたいんだ」


「……うん」


「お母さんが二年前に病気で亡くなってから、お父さんが私たち二人を育ててくれてるから」


 奈緒と桐生が静かに頷く。


「だから、今年は私と悠馬からちゃんと『ありがとう』って伝えたいんだ」


「じゃあ、絶対いいプレゼント探そう」


 奈緒が笑う。


「うん!」


 美穂はすぐにいつもの明るい顔に戻った。


「じゃあ土曜日、部活に行く前に悠馬連れてくるね!」


「分かった」


「よろしくね、奈緒!」


「任せて、美穂」


「桐生くんも!」


「はい」


「じゃあ私、部活戻るね!」


 美穂は元気よく手を振って部室を出ていった。


⸻


 土曜日。


 駅前。


「奈緒ー! 桐生くーん!」


 美穂が悠馬の手を引いて走ってくる。


「お待たせ!」


「おはよう、美穂」


「おはよう」


「今日は本当にありがと!」


 美穂の隣にいる悠馬は、少し恥ずかしそうに二人を見ている。


「悠馬くん、おはよう」


 奈緒がしゃがんで目線を合わせる。


「奈緒ちゃん!」


 悠馬の顔がぱっと明るくなる。


「久しぶり」


「うん!」


 以前にも少し会ったことがあるため、悠馬は奈緒には少し懐いている。


 一方、桐生を見ると美穂の後ろに隠れた。


「悠馬、桐生くんにも挨拶」


「……こんにちは」


「こんにちは」


 桐生は少し笑った。


「悠馬くん、ゲームとかする?」


「……する」


「何やってるの?」


 悠馬が小さな声でゲームのタイトルを答える。


「お、俺もやってるよ」


「ほんと?」


「うん。どこまで進んだ?」


「ここ」


「そこ難しいよなー。俺も何回か負けた」


「僕、勝てるよ!」


「マジ? じゃあ今度俺と一緒にやる?」


「うん!」


 そこからゲームの話、漫画の話へ。


「これ知ってる?」


「知ってる!」


「このキャラ好き?」


「うん!」


「俺も好き」


 いつの間にか悠馬は、美穂の後ろから出て桐生の隣を歩いていた。


 奈緒はその様子を見て少し驚く。


「桐生くんって、子供の扱い上手なんだね」


「そうですか?」


「うん。悠馬くん、私と会った時より早く慣れてる」


 桐生は少し笑った。


「俺が精神年齢低いんで」


「ふふっ、何それ」


「いや、悠馬くんと話してると普通に楽しいからかな」


「それなら納得」


 奈緒が笑う。


 美穂が時計を見る。


「じゃあ私、そろそろ行くね!」


「うん。大会頑張ってね」


「任せて!」


 美穂は悠馬の頭を撫でる。


「悠馬、お姉ちゃん行ってくるからね」


「うん!」


「二人の言うことちゃんと聞くんだよ?」


「分かった!」


「帰ったらパパにプレゼント渡そうね!」


「うん!」


「じゃ、お願いね!」


 美穂は元気よく手を振って部活へ向かっていった。


⸻


 三人はまず靴屋へ向かった。


「パパ、いつも同じ靴履いてるんだ」


「じゃあ新しいの買おう」


「うん!」


 悠馬は楽しそうに靴を見て回る。


「これ!」


「お、いいじゃん」


「パパ、黒い靴が好きなの」


「じゃあ黒で探そう」


「うん!」


 何足か並べる。


「桐生くん、これとこれどっちがいい?」


「こっちかな」


「じゃあ、こっち!」


「決めるの早いな」


「だって桐生くんが選んだんだもん」


「そっか」


 悠馬が嬉しそうに靴を見る。


「これ、パパ喜ぶかな?」


「喜ぶと思うよ。悠馬が選んだんだし」


「うん!」


⸻


 次に三人は雑貨店へ向かった。


「パパ、朝いつもコーヒー飲む!」


「じゃあマグカップとかどう?」


 奈緒が棚からいくつか取り出す。


「これ?」


「うーん……こっち!」


「こっちか」


「うん!」


「じゃあ、これにしよう」


「やった!」


 靴とマグカップ。


 悠馬は満足そうに頷いた。


「これでパパ喜ぶ!」


「よし、買おう」


⸻


 買い物を続け、三人はエスカレーターに乗った。


 その時――。


「……あっ!」


 奈緒が足を取られる。


「神崎先輩!」


 桐生が咄嗟に腕を伸ばし、奈緒を支えた。


「大丈夫ですか?」


「う、うん。ありがとう、桐生くん」


「危なかったですね」


 桐生が手を離す。


(……今、手触れたな)


 胸がドキッとする。


(……って、何ドキドキしてんだ俺(笑))


 自分で少し可笑しくなる。


 その時、下の段にいた悠馬が二人を見る。


「奈緒ちゃんと晃星、ラブラブじゃん!」


「えっ!?」


 奈緒の顔が赤くなる。


「ち、違うよ! 今のは転びそうになったから!」


「でも助けた!」


「奈緒ちゃんドジだから……」


「もう……」


 奈緒が少しむっとする。


「だって本当じゃん」


 桐生は苦笑する。


 悠馬は二人を交互に見た。


「奈緒ちゃん、晃星好きだよね?」


「えっ!?」


 奈緒の顔がさらに赤くなる。


「な、何言ってるの、悠馬くん!」


「だって晃星、奈緒ちゃんのことすぐ助けるし」


「それは、助けないと奈緒ちゃんケガするじゃん」


 桐生は笑う。


「好きじゃないの?」


「俺に聞かれても(笑)」


 奈緒は恥ずかしそうに桐生を見る。


「……もう」


 すると悠馬が、


「じゃあ手繋いだら?」


「……え?」


 奈緒が悠馬を見る。


「これなら嬉しい?」


「うん!」


 奈緒は少し考えたあと、桐生へ手を差し出した。


「……桐生くん」


「ん?」


「手、繋ぐ?」


「まあ……悠馬が喜ぶなら」


 桐生が奈緒の手を取る。


(うわ、またドキッとした)


(……まあ、悪くないけどな(笑))


 悠馬が嬉しそうに笑う。


「ラブラブ!」


「悠馬くん、声大きいよ!」


「だって手繋いでる!」


「……まあ、いいか」


 奈緒も苦笑する。


⸻


 そのまま三人で歩いていると、悠馬が奈緒を見上げた。


「ねえ、奈緒ちゃん」


「ん?」


「なんで奈緒ちゃんは桐生くんって呼んでるの?」


「え?」


「僕は晃星って呼んでるよ」


 奈緒が少し考える。


 そして桐生を見る。


「……じゃあ、晃星くん」


「……え?」


 名前で呼ばれた瞬間、晃星の胸がドキッとする。


(おお……名前で呼ばれた)


(……まあ、悪くないな)


「晃星くん?」


「あ、うん」


「これからそう呼ぶね」


「うん」


「晃星くん、行こう」


「はーい」


⸻


 そして、その少し離れた場所。


「ねえ、虎太」


「ん?」


「あれ、奈緒じゃない?」


 真央が足を止める。


「ああ。本当だ」


「隣にいるの、桐生くんだよね?」


「そうだな」


 二人を見ていた真央の視線が、繋がれた手に止まる。


「…………え?」


「どうした?」


「手……繋いでる」


「本当だな」


「……え、桐生くんとそんな関係なの?」


 虎太も二人を見る。


「俺は桐生って、天川とそういう関係なのかと思ってたからな」


「伊織ちゃん?」


「ああ。いつも一緒にいるし」


「確かに……」


 真央は明らかに動揺している。


「奈緒から桐生くんとの話は聞いてたけど……そんな仲だとは聞いてない」


「意外だな」


「……あとで聞こうかな」


「何を?」


「桐生くんと、どういう関係なのか」


「聞くの?」


「でも……」


 真央は腕を組んで考える。


「私がそんなこと聞いたら、シスコンみたいじゃない?」


「今さらじゃね?」


「……うるさい」


 コツッ。


「痛っ!」


 真央が虎太の脛を軽く蹴る。


「何すんだよ」


「調子に乗らないで」


 真央は平然と前を向く。


「でも、普段こんな真央見ることないからな」


「……そう?」


「新鮮でかわいい」


「…………」


 真央の頬が少し赤くなる。


「……うるさい」


 コツッ。


「また!?」


「二回目」


「分かった、もう言わない」


「そうして」


 真央は冷静を装う。


 それでも、虎太と繋いでいた手はそのままだった。


 そして真央はまだ、奈緒と桐生の関係を完全に誤解したまま。


 過保護な姉のモヤモヤは晴れない。



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