カボチャis No. 1 !!
玄関の扉が開いたのは、ちょうど三人がリビングで盛り上がっていたときだった。
「ただいまー! いやー、今日も疲れた!」
そんな声とともに、晃星のパパがリビングへと顔を出す。
そして、彼の視線が真っ先に捉えたのは、ハロウィンの仮装をした伊織だった。
「おっ!? おおおっ! 伊織ちゃん、その衣装めっちゃ可愛いじゃん!」
「でしょー? 気合い入れたんだから!」
伊織はくるりとその場で回り、衣装をアピールする。
「いやー、いいねぇ! ハロウィンって感じだな! 写真撮っていい?」
「いいよー! あっきーパパ、いっぱい撮って!」
「よっしゃ、任せろ!」
パパはすっかり上機嫌でスマホを取り出した。
そんなパパを見ながら、晃星は呆れたようにため息をつく。
「おい、帰ってきて早々、何やってんだよ……」
「何って、可愛い伊織ちゃんの撮影会だろ?」
「いや、知らねぇよ……」
いつものことだと言わんばかりに、伊織も晃星も気にしていない。
しかし、写真を撮ろうとしたパパの視線が、伊織の隣に立つ月姫へと移った瞬間。
「……ん?」
パパの動きが止まった。
「えっ、ちょっと待って。もしかして……君が月姫ちゃん?」
「あっ、はい! 美空月姫です。初めまして!」
月姫が丁寧に頭を下げる。
するとパパは、目を輝かせながら月姫へと近づいていった。
「あーっ! やっぱり! あっきーから話は聞いてるよ! いやー、実際に会うのは初めてだけど……」
パパは月姫の顔をまじまじと見つめる。
「……噂以上に可愛いねぇ!」
「えっ!? そ、そんな……!」
月姫の頬がみるみる赤くなる。
「いやいや、本当に可愛い! あっきー、こんな可愛い子と友達なの!? お前、パパにもっと詳しく話してくれよ!」
「いや、何でだよ!?」
「月姫ちゃんならいつでも大歓迎だよ!!」
「は、はい! ありがとうございます……!」
「いやー、いいねぇ! 若いっていいねぇ!」
パパは満面の笑みで、すっかり月姫にデレデレだった。
その様子を見ていた伊織が、じとーっとパパを横目で見る。
「……あっきーパパって、ほんと可愛い女の子に弱いよねぇ」
「ん? そうか?」
「そうだよ。あっきーがああなのって、絶対あっきーパパの遺伝だよね」
「おい、伊織ちゃん! 俺とあっきーを一緒にしないでくれよ!」
「えー? どこが違うの?」
「いや、ほら……!」
パパは言葉に詰まった。
「い、いや! 違うぞ、伊織ちゃん! 伊織ちゃんはほら、もうさ、あの〜、ね!!」
「……何?」
伊織が笑顔のまま圧をかける。
パパは慌てて両手を振った。
「いや、だから! 伊織ちゃんはもう娘みたいなもんだから! な! そういう感じ!」
「ふーん?」
伊織は疑わしそうに目を細めた。
そして、何かを思いついたようにニヤリと笑う。
「じゃあさ、月姫が娘になるって言ったら?」
「それはもう是非とも!!」
「即答かよ!!」
晃星のツッコミがリビングに響いた。
「えっ!? あ、いや! これは、その……!」
パパは一瞬で慌て始めたが、月姫は顔を真っ赤にして俯いてしまっている。
「も、もう……! お父さん、からかわないでください……!」
「いやいや、月姫ちゃん! 俺は大歓迎だからね!?」
「おい、お前は少し黙れ!」
晃星がパパの肩を叩く。
その横では、伊織がパパをじーっと睨んでいた。
「……あっきーパパ?」
「は、はいっ!?」
「へぇ〜……?」
「い、伊織ちゃん?」
「月姫は娘になってほしいんだ?」
「そ、それは……!」
パパが助けを求めるように晃星を見る。
しかし、晃星は肩をすくめるだけだった。
「いや、伊織ちゃんも負けじと可愛いだろ? 性格がちょっとアレだけど」
「はぁっ!? あっきー、今なんて言った!?」
「いや、可愛いって言っただろ?」
「その後!! その後が余計なんだよ!!」
伊織が晃星へと勢いよく振り向く。
「性格がちょっとアレって何!? どこがアレなのよ!?」
「いや、今の反応とか?」
「このぉ……!」
伊織が拳を握りしめる。
「おー、あっきー!それはよくないぞ!」
「お前が乗っかってくるなよ!」
パパまで面白がって笑い始めたものだから、月姫もとうとう我慢できなくなった。
「ふふっ……あははっ!」
「ちょっと、月姫まで笑わないでよー!」
「ご、ごめん!伊織……! でも……ふふっ!」
三人の笑い声がリビングに広がる。
その中心で、伊織だけが不満そうに頬を膨らませていた。
「もう! あっきーのバカ!」
「はいはい」
「はいはいじゃない!」
晃星が適当に受け流すと、伊織はさらに不機嫌そうな顔をする。
そんな伊織を見て、肩にポンと手を置かれる。
「まあまあ、伊織ちゃん。落ち着いて?」
「……ん?」
伊織が振り返る。
そこにいたのは、カボチャだった。
パパはその存在に、ようやく気づいた。
「……え?」
カボチャの顔が、ゆっくりとパパの方を向く。
そして。
「へぇ〜? 自分の娘くらいの歳の子に、そんなにデレデレするんだ?」
「…………」
パパの顔から、みるみる血の気が引いていった。
「いやいやいや! 違う違う! 親目線のデレデレね!? そりゃあ二人ともめっちゃ可愛いけど、若い頃の加奈ちゃんに比べたら、そりゃあ加奈ちゃんが一番だよ!?」
「…………若い頃?」
カボチャがぴたりと動きを止めた。
その瞬間。
晃星、伊織、月姫の三人も同時に固まった。
(あ、終わった……)
三人の心が、見事に一つになる。
パパは自分の失言に気づいたのか、慌てて両手を振った。
「いや! 違う! 違うぞ、加奈ちゃん! 今現在ももちろん加奈ちゃんが一番!! 昔も今も、ずーっと一番だから!!」
「…………」
カボチャは何も答えない。
「ね!? ほら! 俺、加奈ちゃん一筋だから!」
「…………」
「ほ、ほら! 加奈ちゃん、世界一可愛いし! 今日のカボチャも最高に似合ってるし!」
沈黙。
パパの額に、じわりと汗が浮かぶ。
そして、カボチャがゆっくりと首を傾げた。
「……加奈ちゃん?」
「は、はいっ!」
「私、カボチャだけど!?」
「う、うん! カボちゃんが一番!」
「ぶっ……!」
晃星が吹き出した。
「ちょっ……カボちゃんって……!」
伊織も腹を抱えて笑い始める。
「やばっ! あっきーパパ、必死すぎ!! カボちゃんが一番って何よ!!」
「ふふっ、あはははっ! お父さん、最高です……!」
月姫まで笑いを堪えきれず、目尻に涙を浮かべている。
「お前ら笑うなぁぁぁ!!」
パパの悲痛な叫びがリビングに響く。
しかし、三人の笑いは止まらない。
そんな中、カボチャの被り物をした母――加奈は、パパの肩にぽんと手を置いた。
「……ねえ?」
「は、はい……」
「あとで、ゆっくりお話ししようね?」
「…………はい」
パパはがっくりと肩を落とした。
その姿を見て、三人はまたしても大爆笑するのだった。




