ハロウィン以外でコスプレしない!!
「ふふっ、はいはい。みんな、そろそろご飯にしよっか!?」
カボチャの被り物をした母は、楽しそうに笑いながら、出来上がった料理を次々とテーブルへ運んでいく。
テーブルの上には、ハロウィンらしく飾り付けられたご馳走が並んでいった。
「わぁ! おいしそう!」
伊織の顔が、ぱあっと明るくなる。
さっきまでプンスカ怒っていたのが嘘のようだった。
「……ほんと、わかりやすいやつ」
晃星が呆れたように呟く。
「なにか言った!?」
「いえ、何も!」
伊織に睨まれ、晃星はすかさず視線を逸らした。
そんな二人を見て、月姫がくすくすと笑う。
「ふふっ、二人とも仲良しだね!」
「どこが!?」
「どこがだよ!?」
二人の声が見事に重なった。
「ほら、息ぴったり!」
「「だから違うって!!」」
またしても声が重なる。
「ふふふっ!」
月姫は楽しそうに笑った。
やがて全員がテーブルにつき、目の前の料理に手を合わせる。
「それじゃあ……」
母が嬉しそうに声をかけた。
「いただきます!」
みんなの声が揃った。
さっそく料理を口に運ぶ。
「ん〜! おいしい!!」
伊織が目を輝かせた。
「ほんとだ! めちゃくちゃうまい!」
晃星も思わず声を上げる。
「ママの料理、やっぱり最高だね!」
月姫も満面の笑みを浮かべた。
ハロウィンパーティーのために母が用意してくれたご馳走は、どれも絶品だった。
見た目も華やかで、味も申し分ない。
料理を囲みながら、みんなの会話も自然と弾んでいく。
「そういえば、もうすぐ文化祭だよね」
月姫がふと思い出したように口を開いた。
「あー、そうだね!月姫のクラスって何やるの?」
晃星が尋ねる。
「……メイド喫茶らしいよ」
月姫は少しため息をつきながら答えた。
「メイド喫茶!?」
晃星の目が輝く。
「うわぁ、絶対男子たちが月姫のメイド姿見たいんだろうな」
「だよねぇ。月姫、絶対似合うもん!」
晃星と伊織は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。
「ちょっと! 私はやらないけどね!」
月姫は慌てて否定した。
「えー、なんで?」
晃星が不思議そうに首を傾げる。
「なんでって……! そんなの絶対やらないよ!」
月姫は頬を膨らませた。
「いやいや、ハロウィンのコスプレでもめっちゃかわいいんだからさ」
晃星は月姫の猫耳と尻尾に目を向ける。
「メイド服なんか着たら、めっちゃ人気出ちゃうだろうなー!」
「うんうん! 絶対みんな見に来るよ!」
伊織も大きく頷いた。
「だから、やらないってばぁ!」
月姫は顔を赤くして抗議する。
けれど――。
――えっ……。
――あっくん、私のメイド姿……見たいってこと?
月姫の頬が、じわじわと赤く染まっていく。
――しかも、かわいいって……!
――ハロウィンの衣装も、そんなにかわいいって思ってくれてるの……?
――メイド服を着たら、あっくんはどんな反応をするんだろう……。
ザクッ。
月姫は、考え込んだままフォークで料理を一刺しした。
――「月姫、かわいい!」って言ってくれるのかな……!?
ザクッ。
――いやいやいや! 何を考えてるの、私!?
ザクッ。
月姫の頭の中は、すっかり大混乱。
頬を真っ赤に染めたまま、料理に視線を落としている。
その一方で――。
「…………」
晃星の箸が止まった。
向かいに座る伊織も、月姫の手元をじっと見つめている。
カボチャを被った母も、料理を取り分けようとした手を止めていた。
食卓に、なんとも言えない沈黙が流れる。
「……月姫?」
晃星がおそるおそる声をかけた。
「えっ? な、なに?」
月姫はきょとんと顔を上げた。
「いや……なんか、さっきから料理にフォークを刺してるけど……」
「…………え?」
月姫が自分のお皿に目を落とす。
料理には、フォークで刺した跡がいくつも残っていた。
「~~~~っ!!」
一瞬で顔を真っ赤にする月姫。
「ち、違うの! これは、その……!」
「いや、何が違うんだよ!?」
「月姫、何をそんなに真剣に考えてたの……?」
伊織がニヤニヤしながら尋ねる。
「な、何でもないっ!!」
月姫は慌てて首を横に振った。
その様子を見て、母がカボチャの下でくすくすと笑う。
「ふふっ。月姫ちゃん、ずいぶん楽しそうなことを考えていたのね?」
「ママまでぇぇぇ!!」
月姫の悲鳴が食卓に響き渡る。
晃星と伊織は顔を見合わせた。
そして、二人そろって月姫のお皿をちらりと見て――。
「「……メイド服、そんなに嫌なの?」」
「だから、そういうことじゃないのぉぉぉ!!」
月姫は真っ赤な顔で叫ぶのだった。
「はははっ! そんなに嫌なら、やらない方がいいね」
晃星は笑いながら、伊織と顔を見合わせた。
「だね! 月姫が嫌がってるのに、無理にやらせるわけにもいかないしね」
伊織もくすくすと笑う。
「うぅ……やらないってば!」
月姫は赤くなった頬を膨らませた。
「まあ、似合うとは思うけどね」
晃星が何気なく口にする。
「……っ!」
月姫の肩がぴくっと跳ねた。
――あっくん、やっぱり似合うって思ってくれてるんだ……!
「……伊織だって、似合うと思うけど」
月姫は照れ隠しのように、隣の伊織へ話を振った。
「えっ、私!?」
突然名前を出された伊織が目を丸くする。
「確かに、伊織ちゃんも似合うかもな」
晃星はそう言って、改めて伊織の顔をじっと見つめた。
「…………」
「……な、なに?」
晃星の視線に、伊織が少し身構える。
晃星は真剣な顔でしばらく伊織を観察していた。
――うん、確かに見た目は良さそうだけど……メイドなんてやるキャラじゃないな。
「ぶっ……!」
晃星は思わず吹き出した。
「なっ……!!」
伊織のこめかみが、ぴくりと動く。
「今、何か失礼なこと考えたな!!」
「いやいや、そうじゃないって!」
晃星は笑いをこらえながら、慌てて手を振った。
「じゃあ、どういう意味よ!?」
「いや、ほら! なんでもないって!」
「絶対ウソ!! 今、絶対なんか考えてたでしょ!!」
伊織が身を乗り出して詰め寄る。
「あはは!ごめんね!」
「笑いながら謝るなぁっ!!」
食卓に伊織の怒声が響き渡る。
その様子を見て、月姫はとうとう吹き出した。
「ふふっ……あははっ! 二人とも、ほんと仲良しだね!」
「「仲良くない!!」」
またしても声が重なる。
「ほら、また息ぴったり!」
月姫は楽しそうに笑いながら、再び料理に手を伸ばすのだった。
「そういえば、あっくんたちのクラスは何やるの?」
月姫が思い出したように晃星たちへ尋ねた。
「……なんだっけ?」
晃星は首を傾げると、隣に座る伊織へ顔を向けた。
「射的だよ」
伊織は呆れたように答えた。
「みんなで景品を持ち寄ってやるって決まったじゃん!」
「あー、そうだったっけ?」
晃星は思い出したような、思い出していないような顔で頷く。
「知らなかった……」
「いや、あんたもクラスで話し合いに参加してたでしょ!?」
伊織がすかさずツッコんだ。
「まあまあ。とりあえず、景品準備しなきゃな」
晃星は気にした様子もなく、腕を組んで考え込む。
「うーん……かなり前の週刊誌とかでいいかな?」
「それ、ただのゴミじゃん!!」
伊織の鋭いツッコミが飛んだ。
「えー、でも射的の景品なんて、そんなもんじゃないの?」
「そんなわけあるかぁっ!」
「じゃあ、伊織ちゃんは何持ってくの?」
晃星が何気なく尋ねると、伊織は顎に手を当てて考え始めた。
「うーん……使いきってない香水とか化粧品?」
「ゴミじゃん」
晃星が即答した。
「ゴミじゃん」
月姫も笑いながら続ける。
「ゴミじゃん」
カボチャを被った母まで、楽しそうに便乗した。
「ちょっとぉぉぉ!! なんでみんなしてゴミ扱いするの!?」
伊織がテーブルを叩いて抗議する。
「だって、使いかけなんだろ?」
「まだ使えるもん!」
「じゃあ、自分で使いなよ!」
月姫が笑いながら言うと、晃星も大きく頷いた。
「確かに!」
「~~~~っ!!」
伊織は悔しそうに二人を睨みつけた。
「もういい! あっきーには絶対、景品の相談しないから!」
「えー? 俺、いいアイデア出したのに」
「どこがよ!!」
「週刊誌とか!」
「それがゴミだって言ってんの!!」
「はははっ!」
晃星が笑い出すと、月姫もつられて笑い、母もカボチャの下で楽しそうに肩を揺らした。
ハロウィンパーティーの食卓は、文化祭の景品の話だけで、すっかり賑やかになっていた。




