トリックオアトリート!!
翌朝。
「……ん」
伊織がゆっくりと目を覚ます。
そして、すぐ目の前にある顔を見て――。
「……えっ!?」
思わず目を見開いた。
隣にいるのは、気持ちよさそうに眠っている晃星だった。
しかも、そこはベッドの上ではない。
晃星が下で寝るために用意していた布団の中だった。
「……え、なんで?」
伊織は状況を確認しようとする。
すると、自分の胸元に何かが触れていることに気づいた。
「……っ!?」
顔が一気に赤くなる。
よく見ると、晃星の手が触れていた。
伊織はそっとその手を元の位置に戻す。
「……あっきーのバカ……!」
思わず拳を握り、殴ろうとする。
けれど、そこで伊織はハッとした。
――いや、待って。
――この場合、多分……。
――私があっきーの布団に自分から入っていったってことだよね?
伊織はもう一度、晃星の寝顔を見た。
すやすやと、実に気持ちよさそうに眠っている。
「……ふふっ」
自然と笑みがこぼれた。
――ほんと、気持ちよさそうに寝てるなぁ。
そう思っていると、再び眠気が襲ってくる。
「……ん〜……」
伊織はそのまま目を閉じた。
そして、再び夢の中へと落ちていった。
⸻
「朝ごはんだよ〜!」
階下から母の声が聞こえてくる。
「……ん〜」
晃星が目を覚ました。
ぼんやりと目を開け、隣に視線を向ける。
そこには、すやすやと気持ちよさそうに眠っている伊織がいた。
「うわぁ!!」
晃星は飛び起きた。
「……ん?」
伊織も目を覚まし、眠そうに晃星を見る。
「あ、あっきー、おはよ」
「いや、なんで俺の布団の中にいる!?」
晃星は思わず叫んだ。
「あ〜……多分、なんか寝心地よくて……」
伊織は大きなあくびをしながら、のんびりと答えた。
「いやいや、だからってダメだろ!? 俺、寝てる時に伊織ちゃんに変なことしてないよね!?」
晃星は焦った様子で自分の手を確認する。
すると、伊織はふと思い出したように顔を赤くした。
「……してる!!」
「えっ!?」
「私の胸、触ってた!」
伊織は恥ずかしそうに訴えた。
「嘘つけ!! そんなわけないだろ!?」
「嘘じゃないし! 私が布団に入ったんだろうと思って、我慢しただけだし!!」
「えぇ〜、絶対嘘だ!!」
晃星は疑いの目を向ける。
「……もし本当なら、勿体ないことした」
「はい? なんか言った!?」
「言ってませんけど!!」
「まぁでも、潜り込んできた伊織ちゃんが悪い!」
「そう思ってるから我慢したって言ってるじゃん!!」
「……うん?」
晃星は伊織の顔をじっと見た。
――妙に素直だな。
――これなら本当に惜しいことした。
晃星は悔しそうに呟いた。
「おーい、顔がドスケベになってますけど〜?」
伊織がジト目で突っ込む。
「なってねえよ!」
そんなやり取りをしていると、母が部屋の外から声をかけてきた。
「伊織ちゃーん! 早くご飯食べないと!」
「あ、はーい!」
伊織が返事をする。
「え? なんか予定あんの?」
晃星が不思議そうに尋ねると、母と伊織は顔を見合わせた。
「私たちはね!」
母も伊織も、なぜか笑顔だった。
「ふーん」
晃星は特に気にする様子もなく頷く。
「じゃあ俺はもう少しゴロゴロするか」
そう言うと、晃星はリビングへ向かい、ソファでダラダラと過ごすことにした。
「あっきー、今日夜には帰ってくるよね?」
母が出かける準備をしながら尋ねた。
「誰とも遊ばなかったらな。一人なら本屋か模型屋くらいしか行かないから」
「はーい! じゃあ、いってきます!」
母と伊織は、二人で車に乗って出かけていった。
「……さて」
一人残された晃星は、ソファに寝転がった。
「とりあえず午前中はダラダラして、昼から本屋でも行くか」
そう呟くと、晃星は再び目を閉じた。
――そして。
「……ん?」
目を覚ました晃星は、スマホで時間を確認した。
「……あー、めっちゃ寝た!」
昼どころか、すっかり時間が過ぎていた。
「まぁ、いいか。とりあえず出かけるか」
晃星は身支度を整え、家を出た。
まずは本屋へ。
その後は模型屋へと足を運び、自分の趣味を満喫する。
気づけば、外は夕方になっていた。
「……そろそろ帰るか」
買い物を終えた晃星は、家へと戻った。
玄関の前まで来ると、家の中から賑やかな声が聞こえてくる。
「……ん? なんだ?」
不思議に思いながら玄関を開け、リビングへ向かう。
すると、母と伊織、そして月姫の三人が、何やら楽しそうに飾り付けをしていた。
どうやら、ハロウィンパーティーをするつもりらしい。
「ただいまー」
晃星がリビングに入ると、月姫がパッと顔を上げた。
「あ、あっくん! おかえり〜!」
「おう、ただいま」
晃星は月姫の姿を見て、ふと思う。
――うん、いつも思うが私服も可愛い。
とりあえず自分の部屋に戻った晃星は、ベッドに寝転がってゴロゴロしていた。
――やっぱり自分の部屋が一番落ち着くな。
そう思いながらくつろいでいると――。
バンッ!
勢いよく部屋の扉が開いた。
「「トリック・オア・トリート!!」」
「うおっ!?」
驚いて体を起こした晃星の目の前には、ハロウィンを基調とした衣装に身を包んだ伊織と月姫が立っていた。
二人とも猫耳をつけ、腰のあたりにはふわふわした尻尾までついている。
「……え?」
晃星は二人を見つめたまま固まった。
黒やオレンジを基調としたハロウィンらしい衣装。猫耳と尻尾も相まって、普段とは違う可愛らしさが際立っている。
――え、何これ……。
――可愛い。
晃星は思わず二人の姿に見惚れた。
顔から衣装、猫耳、尻尾まで、じっくりと眺めてしまう。
「……ふへへ」
いつの間にか、晃星の口元が緩んでいた。
――いや、可愛いな!?
――二人ともめちゃくちゃ似合ってるじゃん!
ニヤニヤしながら、すっかりデレデレになっている晃星。
その様子を見た伊織は、ジト目になった。
「……あっきー?」
一方、月姫はというと――。
「えへへ……」
晃星が嬉しそうに見てくれるのが、どうやら素直に嬉しいらしい。
対照的な二人の反応に気づかないまま、晃星は相変わらずデレデレしていた。
「二人とも可愛い!!」
晃星は思わず声に出していた。
「えっ……!」
伊織が頬を赤くする。
「えへへ……あ、ありがとう、あっくん!」
月姫も嬉しそうに照れ笑いを浮かべた。
しかし、そんな二人を前にした晃星の顔はというと――。
ニヤニヤ。
完全にスケベ顔だった。
「……あっきー、顔!!」
伊織がジト目で指摘する。
「え? 何が?」
「いいから! 準備できたから下行くよ!」
伊織は晃星の腕を引っ張り、部屋から連れ出した。
「え、ちょ、ちょっと!?」
そのままリビングへ向かうと――。
「……えっ?」
晃星は母の姿を見て、思わず立ち止まった。
普通の服装。
ただし、頭には大きなカボチャが被せられていた。
「いや、コエーよ!!」
「「あはははははっ!!」」
伊織と月姫が大笑いする。
母はそんな二人を見ながら、カボチャを被ったまま堂々と立っていた。




