手握るだけで落ち着くんです
「――その時。」
ガチャッ。
部屋の扉が開いた。
「なーに、楽しそうに話してんの?」
「うわ、来た!?」
「うわ!? って何?」
伊織は晃星の頭をポカッと叩いた。
「こら! 伊織! 殴っちゃダメだよ!?」
月姫が慌てて注意する。
「あー、やっぱ月姫だ!!」
伊織はスマホの画面を覗き込んだ。
「ゲームしてんの?」
「そうだよ」
「そうだよ」
二人が答えると、伊織の顔がパッと明るくなった。
「私もやる!!」
「いいけど、覚えてんの?」
「失礼だな! あれから一人でもやってたんだから!」
伊織はそう言って、二人の間に加わった。
そのまま三人でゲームを楽しむ。
――確かにコイツ、前も思ったけどゲーム下手じゃねえ! つか、上手いぞ? なんで?
晃星は伊織のプレイを見ながら、内心驚いていた。
「伊織、ほんと器用だよね」
月姫も楽しそうに笑う。
三人はしばらくゲームを続けた。
やがて、月姫が時計を確認する。
「しばらく楽しんだし、明日の準備もあるから今日はこれくらいにしよっかな!」
「なるほどね! 楽しみだよね」
「明日一緒に遊ぶんだ?」
晃星が尋ねると、二人は顔を見合わせてふふっと笑った。
「……どうしたんだ?」
晃星は首を傾げる。
「じゃあ、またね!」
「じゃあ月姫、明日ね!」
「うん! 明日!」
月姫との通話が終わると、晃星は伊織を見た。
「嬉しそうじゃん」
「しししっ!」
伊織は楽しそうに笑った。
「早いけど、もう寝る?」
「え? そんなわけないじゃん! 早く行こ?」
「え!? どこへ?」
「決まってんじゃん! お菓子買いに行くんだよ!?」
「へ!? お菓子?」
「そだよ? お泊まりなんだから、まだまだ寝ないっしょ? ネット番組で映画とか見ようよ」
「え? 親父とゲームやってたんじゃないの?」
「うん。パパ、ゲームやりながら寝ちゃって」
「あいつ……」
晃星は呆れたように呟いた。
「ま、確かに喉も乾いたし、行くか!?」
「そうこなくっちゃ!」
「コンビニ? スーパー? どっちがいい?」
「スーパーの方が色々ありそう!」
「じゃあ、行こっか」
二人は家を出た。
夜風がひんやりと肌に触れる。
部屋着のまま出てきた二人には、少し肌寒かった。
「寒いから着なよ」
晃星は自分の上着を伊織に差し出した。
「ええ? ありがとう! これ、前に二人で買いに行った時のやつだ!」
「あ、そうそう! 覚えてた?」
伊織は嬉しそうに上着を羽織った。
「でも、短パンだから寒そうだけど」
「足はスカートで慣れてるから」
「そういう問題か?」
そんなことを話しながら、二人は近くのスーパーへ向かう。
普段なら何ともない道でも、夜に歩くと少し雰囲気が違う。
「な、なんかお化けとか出ないよね?」
伊織が周囲を気にしながら尋ねた。
「人の家の近くで失礼だな」
「だ、だって……」
本当に怖がっている様子の伊織を見て、晃星は手を差し出した。
「ほら、これでマシになるでしょ?」
「……!」
伊織は一瞬驚いたものの、その手をそっと握った。
「ありがと」
それからは、どこか安心したように晃星の隣を歩いていた。
⸻
スーパーに着くと、伊織は真っ先にお菓子売り場へ向かった。
「これ欲しい! これも食べたい!」
目を輝かせながら、次々とお菓子を手に取っていく。
「寝る前なんだから、考えて買えよ!」
「わかってるよ!」
そんなやり取りをしていると――。
「あ、あっきーだ!」
「本当だ! 久しぶり〜!」
晃星が振り向く。
「あー、久々!」
そこには、同級生の女子二人が立っていた。
二人は晃星の隣にいる伊織を見ると、目を丸くする。
「え!? あっきーの彼女?」
「めちゃくちゃかわいいんだけど!?」
「ほんとだ!」
一気に騒ぎ始める二人。
「え!?」
伊織は驚いたように目を丸くする。
けれど、どこか嬉しそうだった。
「彼女じゃないけど」
晃星がさらっと否定する。
「え!? こんな時間に二人で買い出し来てるのに?」
「そうだよ。同じクラスの伊織ちゃん」
晃星が紹介する。
「この二人は地元が一緒の――」
「ねえ! 付き合ってないのになんで二人とも部屋着スタイルなのさ?」
話を遮られ、晃星がそちらを見る。
「ああ、伊織ちゃん、今日ウチ泊まるからだよ」
「……」
女子二人が固まる。
「あのね、あっきー」
「普通、付き合ってもない男の家泊まらないよ?」
「ほんと昔からそんなだから、あんた彼女できないんだよ?」
「ええ? どゆこと!?」
晃星が本気で分からない顔をする。
「伊織ちゃん、あっきーよろしくね! バイバーイ!」
「バイバーイ!」
二人は言いたいことだけ言うと、そのまま去っていった。
「……なんだったんだ?」
晃星は呆然と二人の背中を見送る。
その隣では、伊織が楽しそうに笑っていた。
「あっきー、やっぱ地元では人気者だね」
「そうか?」
晃星は首を傾げた。
そしてふと、自分たちがまだ手を繋いだままだということに気づく。
「……あ」
二人の手に目を落とし、晃星は笑った。
「だから彼女って言ってたのか」
「ごめんね、伊織ちゃん」
「全然!?」
伊織は慌てて首を振った。
「早く帰って映画見よ!」
「なんの映画だよ」
「人気ランキング3位のにしよう! 何か決めない方が面白いから」
「確かにそれいいな!」
「恋愛物とか嫌いだから、その時は変えるのあり?」
「いやダメ! 3位って決めたらそれ見なきゃ!」
「まぁ、それでいいか」
晃星は笑いながら頷いた。
⸻
家に帰ると、二人は晃星の部屋へ向かった。
「じゃあ、何が3位なのか見てみようか」
ネットテレビを開き、人気ランキングを確認する。
「……え?」
表示された作品を見て、伊織が固まった。
「ホラー映画じゃん……」
「まさかのホラーだな」
「ねえ、これ変えよう?」
伊織が恐る恐る晃星を見る。
「ダメって言ったじゃん」
「でも……」
「3位って決めたんだから、これ見よう」
晃星はそのまま再生した。
映画が始まると、伊織は布団を頭まで被り、晃星の腕にしがみついてきた。
――あ、伊織ちゃんは伊織ちゃんでなかなかだな。
晃星は思わずニヤける。
そんな晃星に伊織が気づいた。
「……」
伊織は拳を握る。
けれど、画面から聞こえてきた不気味な音に、また晃星の腕へしがみついた。
「……怖い」
泣きそうなほど怯えている。
「もう違うのにしようか?」
「……でも、決めたんだから最後まで見る」
しばらくすると、伊織が思い出したように言った。
「後からだと怖いから、先に歯磨いて寝る準備だけする!」
「じゃあ俺も」
二人で部屋を出る。
けれど、廊下に出ても伊織は晃星の服の裾を握ったままだった。
「……歩きにくい……」
そう言いながらも、晃星はそのまま歩く。
「まぁいいや」
二人で歯磨きを済ませ、伊織は母親にも挨拶をした。
「おやすみなさい!」
そして再び晃星の部屋へ戻った。
続きを再生すると、伊織は晃星のベッドに座って映画を見る。
晃星は床に寝転がりながら画面を見ていた。
「うわぁ!!」
突然、伊織が声を上げる。
「……ぷっ」
晃星は思わず吹き出した。
「もう寝たら?」
「最後まで見るもん!」
伊織は意地になって画面を見続ける。
けれど、やっぱり怖いのか、しばらくするとベッドから降りて晃星の隣に座った。
そして、そのまま晃星にくっついて映画を見る。
「やれやれ……」
晃星は手を差し出した。
伊織はその手を握った。
すると、少し落ち着いたのか、伊織が笑顔になる。
二人でそのまま映画を見続けていると、いつの間にか伊織の体が少しずつ晃星にもたれかかっていく。
「……」
晃星は横を見る。
伊織は目を閉じていた。
「……寝た?」
静かに確認すると、伊織から小さな寝息が聞こえてくる。
「やれやれ」
晃星は苦笑する。
そして伊織をそっと抱き上げると、ベッドまで運び、そのまま布団に寝かせた。
⸻
下に降りると、母が父を起こしていた。
「いつまでここで寝てんの!? さっさと寝室で寝て!」
「……う〜ん……」
寝ぼけながら起きた父は、そのまま寝室へ向かっていった。
「あ、どうした?」
母が晃星に声をかける。
「伊織ちゃん寝たから、下で布団引こうと思って」
「上の空き部屋に置いてあるから、そこで寝る?」
「テレビあるからリビングで寝る」
布団を下に運ぼうとしていると、晃星の部屋のドアが開いた。
そこには、寝ぼけながら泣きそうな顔をした伊織が立っていた。
「え!? 伊織ちゃん、どうした?」
「……一瞬目が覚めて、あっきーがいなかったから……。さっきの映画の印象が強くて、怖かった……」
今にも泣き出しそうな伊織。
「大丈夫、大丈夫」
晃星は子供をあやすように伊織を部屋に戻し、布団をかけてトントンしてあげた。
「あっきーもここで寝てよ!」
「えぇ!?」
思わず驚く晃星。
「寝るまでここにいるから大丈夫だよ」
「今みたいに目が覚めたら怖いから嫌!!」
「いや、だから……」
「嫌なの!!」
「いやいや、でもさ……」
二人がわちゃわちゃと言い合いをしていると、母がやってきた。
「伊織ちゃんが怖い映画見たから、一人じゃ寝れないって駄々こねてるんだよ」
「じゃあ、ここであんたが寝てあげればいいじゃん」
母はニヤニヤしながら言った。
「布団別なんだし、何意識してんの?」
「まぁ、そりゃそうだけど……」
晃星は少し困ったように答える。
「はい、じゃあ早く寝るんだよ」
そう言って部屋を出ていく母。
そして、出る間際に振り返った。
「変なことしないようにね!」
「「するか!!」」
二人の声が見事に重なった。




