なんでウチに泊まるのか!?
晃星が家に帰ると、玄関に見慣れた靴があった。
「ただいまー」
リビングに入ると、伊織がいた。
「あ、おかえり! 遅かったね」
「そりゃ、歩いて小学校回れば遅くなるよ」
「藤宮先輩が、もうすぐ帰ってくるから先に帰ったら?って言ってたから、私先に帰ってきたんだよ」
「あー、そうなんだ」
晃星は鞄を置く。
「あと、奈緒ちゃん送ってったから、それもあるかな」
「あー、確かにあっきーならそうするかも」
「今日どうだった?」
「ん? ああ、結構大変だった」
「へぇ〜。あっきーは何してたの?」
「俺? 子供たちと遊んでた」
「へぇ〜。じゃあ、あっきーはずっと子供たちと遊んでたんだ」
「そうそう。あいつらめちゃくちゃ元気でさ。結構疲れたよ」
「そっかー。大変だったね」
伊織が少し考えてから聞く。
「二人で小学校回って、帰りも一緒だったんでしょ?」
「うん」
「奈緒先輩に、もちろん変なことしてないよね?」
「い、いや、何もするわけねえだろ!?」
伊織は晃星の頬をつまむ。
「痛い痛い!」
「なんで!?」
「うーん。なんとなく」
――コイツ……なんか人の頭の中を覗き込める特殊能力でも持ってるんじゃなかろうか?
「はい」
伊織が和菓子を差し出す。
「何これ?」
「和菓子!」
「私が商店街に聞き取りに行った時にもらったんだよ!」
「ええ!? それで俺の分、残しておいてくれたの?」
「そりゃあね!!」
伊織は自信満々に答えた。
……珍しいな。
いつもなら全部食べてそうなのに。
その時、キッチンから母親の声が聞こえてきた。
「もうすぐご飯できるから、テーブルの上片付けて〜」
「はーい!」
伊織が動き出す。
晃星はその様子を見ながら思った。
――コイツ、人の家で晩ご飯を美味しく食べるために、ちゃんと腹八分目にしてやがったんだ。
その後、三人で夕食を食べた。
伊織は料理を一口食べるたびに、嬉しそうに頬を緩ませている。
「おいしい!」
その様子を見て、母親も幸せそうに微笑んだ。
伊織が美味しそうにご飯を食べてくれることが、なんだか自分まで幸せな気持ちにさせてくれる。
「いっぱい食べてね、伊織ちゃん」
「うん!」
伊織は嬉しそうに頷き、また美味しそうに箸を進める。
食事が終わると、伊織が食器を洗い始める。
「あー、伊織ちゃん手伝ってくれるのに、息子は何やってんだろ?」
「ねー。息子の顔が見てみたい」
「はいはい。じゃあ手伝うよ」
晃星も立ち上がった。
「ただいまー」
父親が帰ってきた。
二人が並んで食器を洗っているのを見ると、父親が声を上げる。
「え!? 何? 加奈ちゃん?」
「何が?」
「若夫婦で皿洗いしてるけど?」
「「誰が若夫婦だ!?」」
「真似すんな!」
「そっちでしょ!?」
父親は二人を見て、楽しそうに笑う。
「もう夫婦の息の合い方じゃん」
「「うるさい!!」」
「ははははっ!」
父親が二人の反応を見て笑う。
「で、今日は伊織ちゃん泊まってくんでしょ?」
「お前、何バカなこと言ってんだよ」
「え? 言ってなかったっけ?」
「え!? 何が?」
「え? 言ってなかったっけ?」
「どゆこと!?」
伊織が何でもないことのように説明する。
「今日、明日とウチのママが単身赴任してるパパのところに行ってるから泊めてもらうんだよ?」
「あぁ、そうなんだ!」
晃星は頷いた。
「……いや、待て待て!」
「おかしいだろ?」
「「「え? なんで!?」」」
「いや、伊織ちゃんもお父さんのところ行けばよかったんじゃない!?」
「え? 今日学校あったじゃん?」
「あぁ、そうか」
「……いや、でも!」
「なんでウチに泊まる?」
「「「え? なんで!?」」」
「いやいやいや!」
「伊織ちゃんのお母さんも、男の子の家に泊まるなんて心配になるだろうよ!?」
「え? 助かる〜って言ってたけど?」
「あ、そんな感じっぽいお母さんだった気がする……」
「部屋も空いてるから、ちょうどいいよ」
「え!? 部屋までいいの? 私あっきーの部屋であっきー下で寝るんだと思ってた!」
「そんなわけねぇだろ!?」
「だってあっきーの布団でよくお昼寝するから慣れてるし」
「……まぁ、確かに」
――コイツ、なんだったら親戚とかよりも図々しいな。
「布団も洗って干してあるけど、あっきーの布団でねる?」
「うん!」
「俺の部屋無くなったんだが……」
「まぁ、寝る時は下で寝るか」
夜。
風呂も終わり、家族がリビングで過ごしていると、父親が伊織に声をかけた。
「伊織ちゃーんトランプやろ!?」
「それかテレビゲームする?」
「おい、お前楽しそうだな」
「は!? 別にお前は誘ってねえんだけど!? 関係ない奴が口出すの止めて!!」
「うぜえ」
「伊織ちゃん、付き合ってあげて!」
「はーい!」
晃星は自分の部屋へ向かった。
いつものようにスマホを手に取り、ゲームアプリを起動する。
「やっほー」
月姫の声が聞こえた。
その声を聞いて、晃星はなんとなくホッとした。
「あれ? あっくん今日伊織いるんじゃないの?」
「月姫も知ってたの?」
「え? 逆にあっくん知らない方が意外なんだけど」
月姫が笑う。
「私も誘われたもん」
「もっと早く聞いてれば行けたんだけどなぁ」
「伊織今日の朝急に言うんだもん」
「いや、月姫、俺聞いたのついさっきだからね」
「そうなの?」
「そうだよ」
「伊織は?」
「どっかのおじさん、おばさんとテレビゲームとかトランプやって楽しんでるよ」
「私もやりたかったー」
「いや、月姫があっち行ったら俺の味方が誰もいなくなっちゃうからダメ!!」
――私がいないと困る。
――私にいてほしいってこと?
――しかも「味方」って……なんか特別な感じしない?
(あっくん……私がいてくれると嬉しいんだ……)
(いや、待って。これって結構……)
(私だけが味方……?)
(じゃあ、もし私がずっとあっくんの味方だったら……)
(……ふふっ)
「月姫?」
「……えっ!?」
「どうした?」
「な、なんでもない!」
「そ、そう?」
「う、うん!」
「今日、奈緒ちゃんと一緒に小学校の聞き取りに行ってきたんだよ」
「へぇ〜、学童のやつだ!? 大変だったね!」
「それで、帰り暗くなったから奈緒ちゃんを家まで送ってった」
「へぇ〜」
「あっくん?」
「なに?」
「もちろん奈緒先輩に変なことしてないよね?」
「し、してない! してない!」
「なんで伊織ちゃんも月姫もそれを疑うんだ?」
月姫が笑う。
「あ、あと帰りにミニスカ先輩に会って、ミニスカ先輩も送ってったよ」
「え?」
「何かされなかった?」
「何も! 俺ミニスカ先輩に興味ないからって言ったらなんか怒ってた気もするけど」
月姫は大笑いする。
(藤宮先輩がどんなこと考えて、あっくんに何か悪巧みしたとしても……)
(あっくんには、たぶん全然通じないんだろうなぁ)
(むしろ、悪巧みしてる本人の方が振り回されてそう)
「ふふっ……」
「まだ笑ってんのかよ」
「だって面白いんだもん!」
――その時。
ガチャッ。
部屋の扉が開いた。




