初めて見るタイプ
二人はしばらく歩き、やがて奈緒の家が見えてきた。
「え!?」
晃星が目の前の家を見上げる。
「奈緒ちゃん、家でけえ!!」
「え!? そうかな?」
奈緒は不思議そうに家を見る。
「へぇー……」
晃星は少し驚いた様子で、家を眺める。
すると、家の中から真央が出てきた。
「あ! 奈緒、おかえり!!」
「お姉ちゃん!」
真央は二人のところまで来る。
「晃星くん、本当にありがとう」
「いや、夜くらいだと危ないんで、全然大丈夫です!」
「家の方向も違うのに」
真央が言う。
「いや、こっちの方あまり来ないから、新鮮でいい散歩になったし……」
そう言いながら、晃星は何気なく自分の掌を見る。
「……ふふっ」
思わずニヤける。
「……あきくん?」
奈緒の顔が赤くなる。
「何思い出してるの?」
「いや、何も思い出してませんが!?」
晃星が慌てて手を下ろす。
「ふふっ」
奈緒はそんな晃星を見て、少し笑う。
「でも、本当にありがとね」
「いや、気にしないで!」
晃星は笑って答える。
「また遅くなったら、こうやって送ってくから!」
「え? でも、それは悪いよ」
奈緒が遠慮する。
「好きでついてきてるから、気にしないで!!」
「…………え?」
真央が固まる。
「好きで……ついてきてる?」
真央の目が大きくなる。
その少し離れた場所では、梨愛も物陰に隠れながら二人の様子を見ていた。
距離はあったが、二人の会話は聞こえている。
「…………!」
梨愛も目を丸くする。
――今……好きでついてきてるって言った!?
梨愛は思わず口元を押さえる。
晃星は何も気にせず、奈緒に笑いかけている。
その隣で、奈緒は一瞬だけ目を丸くした。
けれど、すぐに言葉の意味に気づく。
「……ふふっ」
奈緒の口元が、ほんの少し緩む。
「……あきくんらしいな」
奈緒は少し照れたように笑う。
その表情を見た真央は、さらに目を丸くする。
――もしかして……本当に奈緒のこと……?
そして梨愛も、物陰から奈緒の表情を見つめる。
「…………」
――奈緒、嬉しそうじゃん。
――やっぱり……あっき〜って奈緒のこと好きなの?
梨愛の中でも、さっきの言葉が強く残った。
「じゃあ、また明日!」
「うん。また明日」
晃星は笑顔で手を振ると、駅の方へ向かって歩き出した。
奈緒はその後ろ姿を見送る。
「…………」
真央は、そんな奈緒をじっと見る。
「奈緒……」
「ん?」
「……いや、なんでもない」
真央は何か聞きたい気持ちを必死に抑えた。
一方、梨愛は晃星が歩き出したのを確認すると、慌てて距離を取る。
――やばっ。
――このままじゃ、尾行してたのバレる!
梨愛は晃星から見えないように先回りして、少し離れた場所へ移動する。
しばらくして、晃星がふと足を止めた。
「……ん?」
何かに気づいたように、晃星が振り返る。
「…………!」
そこにいたのは梨愛だった。
梨愛の顔が一瞬で固まる。
――バレた!?
尾行していたことがバレたかと思い、梨愛は焦る。
しかし、晃星はそんなことには気づかない。
「あー、ミニスカ先輩って奈緒ちゃん達と地元一緒だから、この辺なんだ!?」
「そ、そうなんだ〜」
梨愛はホッとしながら答える。
「ミニスカ先輩、一人なの?」
「そうだよ?」
梨愛が答える。
晃星は少し考える。
「じゃ、近くまで送ってくよ」
「え!? なんで?」
梨愛が驚く。
「さっき自分でも女の子一人で帰るのは危ないって言ってたじゃん」
「…………」
梨愛は晃星を見る。
――え?
――この子、なんで私まで送ってくれようとしてるの?
梨愛は混乱する。
「で、でも……そんなに仲いいわけでもないから」
「まあ、そうだけど」
晃星は笑う。
「これでミニスカ先輩になんかあっても嫌じゃん」
「…………」
梨愛は晃星を見つめる。
「もしかして私に優しくして、何かいいことしてもらえると思ってんじゃない?」
「え?」
晃星がきょとんとする。
「いや、俺、別にミニスカ先輩に興味ないけど」
「…………」
――何コイツ、失礼なんだけど。
梨愛はムッとする。
「じゃあ、お構いなく!」
梨愛は一人で帰ろうと歩き出す。
しかし――。
「いや、俺も行くよ」
晃星が普通についてくる。
「だから大丈夫だって!!」
梨愛が振り返る。
「いや、俺が好きでやってるから、気にしないで!」
「…………」
梨愛の動きが止まる。
「……え?」
その瞬間、梨愛の頭に、さっき奈緒の家で聞いた言葉が蘇る。
――『好きでついてきてるから、気にしないで!!』
「…………」
梨愛は晃星を見る。
「……あ」
今、晃星が言ったことと、さっき奈緒に言ったこと。
まったく同じ意味だった。
「……そういうことか」
梨愛の目が少し大きくなる。
――あっき〜が言ってた「好きでついてきてる」って、そういう意味だったんだ。
――奈緒のことが好きだから、って意味じゃなくて……。
自分が好きでやってるから、相手は気にしなくていい。
梨愛はようやく理解した。
「あ、あきらめた?」
晃星が笑う。
「どっちでもいいし!!」
梨愛はぷいっと前を向く。
「はいはい」
晃星は笑いながら、梨愛の隣を歩く。
しばらく歩くと、梨愛が再び晃星に話しかける。
「ねえ、あっき〜ってさ」
「ん?」
「奈緒、どう思う?」
「奈緒ちゃん?」
「うん」
梨愛は晃星の顔を見る。
「さすがに真央ちゃんには敵わないけど、顔もいいし、スタイルもいいし」
少し間を置いて、梨愛は続ける。
「あっき〜は奈緒ちゃんみたいな年上がいいと思うけど」
そう言いながら、梨愛は晃星の反応を探る。
しかし――。
晃星は梨愛の話を聞いている様子がない。
スマホを取り出して、何やら文字を打っている。
「…………」
よく見ると、奈緒にメッセージを返しているようだった。
――コイツ……話聞けよ。
梨愛はジト目になる。
――ていうか、本当に私に興味ないんだ。
じゃあ、なんで?
なんで本当に、こんなふうに送ってくれたりするの?
――本当に奈緒とかいおりんが言うように、優しい男ってこと?
「いやいや」
梨愛はすぐに首を横に振る。
――そんなわけ無い。
男なんて、下心しか持ち合わせてないんだから。
梨愛はこれまでの経験から、そう強く思っていた。
そんな梨愛が、ふと晃星に顔を向ける。
「ねえ、あっき〜ってさ」
「ん?」
「例えば、私があっき〜のこと好きだからなんでもさせてあげるよって言ったらどうする?」
梨愛は上目遣いで、少しからかうように囁く。
――これでどうせ、顔色変えて食いついてくるぞ。
梨愛は内心で笑っていた。
ところが――。
「いや、だから俺、ミニスカ先輩に興味ないから」
晃星は、むしろ嫌な顔をする。
「…………」
――本当コイツ……。
ここまで興味を持たれない経験のない梨愛は、思わず食ってかかる。
「私、その辺の子よりかわいいと思うんだけど!?」
「あー、まあ確かに?」
晃星はあっさり頷く。
「そこは俺も同意する」
「でしょ!?」
「うん」
「私、ほんとモテるし、男にも困ったことないんだけど?」
「へー、そうなの?」
「…………」
あまりにも普通の反応だった。
「そんな女と二人でいて、なんか気になることないの!?」
梨愛は、つい意地になって言ってしまう。
すると晃星が突然、何かを思い出したように顔を上げた。
「あ! ある!!」
「え?」
「ミニスカ先輩に聞きたかったこと!」
「え? あるんじゃん?」
梨愛が少し嬉しそうに振り向く。
「何何〜?」
晃星は少し考えてから口を開く。
「あのさ、俺、前に急いで学校行って制服が着崩れてて、会長に怒られたんだけど」
「うん」
「なんでミニスカ先輩って、こんなに短いスカートでも怒られないの?」
「…………」
梨愛は無言になる。
――は?
――知らねえよ……本人に聞けよ……。
梨愛は大きくため息をつく。
「……男って、短ければ短い方が嬉しいもんでしょ?」
「いや、そうじゃない!」
晃星がすぐに否定する。
「あのね、短ければいいって話じゃないんだよ!」
「…………」
「普段は普通なのに、動いたときとか何かあったときに、まさかって感じでふと見える感じがいいんだよ!」
晃星は妙に真剣な顔で語る。
「…………」
梨愛はしばらく晃星を見つめる。
――いや、コイツ何?
そう思うのに、あまりにも真剣に語る晃星がおかしくて、梨愛の口元が少し緩む。
「……ふふっ」
「何笑ってんだよ」
「いや……あっき〜って、ほんっと変なところにこだわるなぁって」
「だってそこはこだわりがあるだろうよ」
「あんただけのこだわりでしょ!?」
梨愛は思わず笑った。
「じゃあ、私んちこの辺だから、もういいよ〜」
梨愛が立ち止まる。
「そうなの?」
晃星も足を止める。
「じゃあ、俺も帰るか」
「うん」
晃星は笑って、梨愛に手を振る。
「じゃね! ミニスカ先輩!」
「はーい! バイバイ」
梨愛も手を振り返す。
晃星はそのまま駅の方へ歩いていく。
「…………」
梨愛はしばらく、その後ろ姿を見つめていた。
そして、ふと気づく。
――あれ?
そういえば私、奈緒とあっき〜をくっつける話、全然してないじゃん。
本来はそのために尾行してたはずなのに。
気づけば、晃星とくだらない話をしながら一緒に歩いて帰ってきてしまった。
「…………ふふっ」
梨愛は小さく笑う。
今日は、ちょっと楽しかった。
そして――。
もしかしたら、本当に下心なんてなくて、ただ人に優しくできる男っているのかもしれない。
「……変なやつ」
梨愛は遠ざかっていく晃星の背中を見る。
今まで出会ってきた男とは、なんだか少し違う。
何を考えているのか分からないのに、なぜか嫌いになれない。
むしろ、もう少し知ってみたい。
そんな不思議な感覚を覚えながら、梨愛はもう一度、晃星の後ろ姿を見つめた。
――あの子、やっぱちょっと特別なやつかも。
梨愛はそんなことを思いながら、自分の家へ向かって歩き始めた。
少しだけ、晃星のことが気になった帰り道だった。




