お姉さんの部分は確かにある!
「じゃあ帰ろ」
晃星が奈緒に笑顔を向ける。
「え? でも悪いよ」
「いや、奈緒ちゃんビビリだし、何よりミニスカ先輩の言う通り女の子だから、何かあっちゃいけないから!」
「……あきくん……」
奈緒は赤くなった顔のまま、晃星を見つめた。
「じゃあ、失礼します」
奈緒が生徒会室を出ようとした、その時だった。
「ちょっと待って!」
梨愛が奈緒の手を引っ張る。
「え?」
振り返った奈緒に、梨愛は誇らしげな笑顔を向けた。
「どう? 私、いい仕事するでしょ?」
「え、いや……でも、本当に違うから大丈夫だよ?」
奈緒が苦笑する。
「その割に二人とも楽しそうじゃん」
梨愛はニヤニヤしながら奈緒を見る。
「帰りもめんどくさがらずに送ってくれるなんて、まんざらじゃないんじゃない?」
「いや、あきくんはそういう人だから……」
奈緒は晃星の方をちらっと見て、微笑む。
「何それ?」
梨愛が呆れたような顔をする。
「そんな男いるわけない!」
「いるよ」
奈緒は笑いながら答える。
「あきくんは、それが普通なんだよ」
「普通?」
「うん。みんなが『そこまでしなくてもいいんじゃない?』って思うようなことでも、あきくんにとってはそれが普通なんだよ」
奈緒は少しだけ晃星を見つめる。
「それが普通って思えるのが、凄いんだけどね」
「…………」
梨愛は納得していないような顔をする。
「うーん……」
「本当だって」
「はいはい」
梨愛は軽く手を振る。
「とりあえず、手繋ぐなりキスするなり、進展してきて!」
「えっ!?」
奈緒の顔が一瞬で真っ赤になる。
「ちょ、ちょっと梨愛ちゃん……!?」
「ほらほら、あっき〜待ってるよ?」
「…………!」
奈緒は真っ赤な顔のまま、廊下の先にいる晃星を見る。
晃星は何も知らずに、奈緒が来るのを待っていた。
「……もう」
奈緒は恥ずかしそうに呟くと、慌てて晃星のところへ戻っていった。
「お待たせ、あきくん……」
「おう。じゃあ帰ろっか」
「う、うん……!」
奈緒はまだ顔を赤くしたまま、晃星の隣に並んだ。
二人は学校を出て、並んで帰り道を歩き始める。
「わ、私バス乗るから、本当に大丈夫だよ?」
奈緒が改めて言う。
「いや、俺も大丈夫だから」
晃星は何でもないように答える。
奈緒は晃星の隣を歩きながら、少しだけ俯いた。
いつも通りでいなきゃ。
そう思えば思うほど、顔がどんどん赤くなっていく。
「…………」
さっきまで普通に話していたのに、次第に口数も少なくなっていった。
そんな奈緒の様子に、晃星が気づく。
「奈緒ちゃん、お腹すいたんでしょ?」
「えっ?」
奈緒が顔を上げる。
「ち、違うよ?」
「そう?」
晃星はそう言うと、近くのコンビニに入っていった。
「え? あきくん?」
奈緒も慌てて後を追う。
晃星はレジの前で商品を見て、何かを見つける。
「あ、あれにしよ!?」
晃星がフライドポテトを頼む。
会計を済ませ、二人はコンビニの外へ出る。
晃星は買ったポテトを奈緒に渡す。
「はい」
「え?」
「わかるよ〜。今日結構歩いたから、お腹空くよね〜」
「……でも、私……」
「いいからいいから」
「……ありがとう」
奈緒はポテトを受け取る。
「美味しいね」
晃星が笑う。
「……うん」
奈緒はその笑顔を見て、胸がキュンとする。
「…………」
二人はそのまま、ポテトをつまみながら帰っていく。
「そういえば、俺あんまりこっちの方来ないから新鮮だなー」
晃星が周囲を見ながら言う。
「そうだよね」
奈緒も答える。
その二人を、少し離れた場所から一つの影が追っていた。
梨愛だった。
二人に見つからないように、適度に距離を取りながら尾行している。
梨愛は二人の様子を見ながら、スマホを取り出した。
「まだ足りないなぁ〜」
梨愛は協力者へ連絡を入れる。
しばらくすると――。
二人の後ろから、自転車が猛スピードで近づいてきた。
「危ない!!」
晃星が気づいた瞬間、奈緒の手を取って引っ張る。
「えっ!?」
突然引っ張られた奈緒の足がもつれる。
「きゃっ!」
二人はバランスを崩した。
晃星は咄嗟に奈緒が傷つかないように支え、そのまま地面へ倒れ込む。
「……っ」
晃星がふと目線を上げる。
すぐ横に、奈緒の顔があった。
「…………」
「…………」
二人の目が合う。
一瞬で、二人とも顔が真っ赤になった。
そして晃星は、倒れた拍子に自分の掌に触れている柔らかな感触に気づく。
「……っ!」
「ご、ごめん!」
奈緒が慌てて立ち上がる。
「大丈夫だった!?」
晃星もすぐに立ち上がる。
「……うん」
奈緒は真っ赤な顔のまま答える。
「よかった」
晃星はホッとしたように笑う。
少し離れたところから、その様子を見ていた梨愛は――。
「大成功!!」
思わず小さくガッツポーズをした。
——二人はゆっくりと起き上がった。
「……大丈夫だった?」
晃星が奈緒の顔を覗き込む。
「……うん」
奈緒はまだ顔を赤くしたまま、小さく頷く。
「よかった」
晃星もホッとしたように笑う。
二人とも、さっきのことを意識してしまい、少し気まずい空気が流れる。
そんな時、奈緒のスマホが鳴った。
「……あ」
画面を見ると、真央からだった。
「もしもし?」
『奈緒? 今どこにいるの?』
「どうしたの?」
『もう結構遅いから。大丈夫かなって思って』
真央の声には心配している様子が滲んでいた。
「今日はあきくんが送ってくれてるから大丈夫だよ」
『えっ!?』
真央が驚いた声を上げる。
「どうしたの?」
『あきくんが? でも、奈緒の家とあきくんの家って方向違うよね?』
「うん。でも、送ってくれるって」
『……そうなんだ』
真央は少し黙る。
やっぱり……付き合ってるのかな?
「お姉ちゃん?」
『あ、ううん。なんでもないよ。気をつけて帰ってきてね』
「うん。ありがとう」
奈緒が電話を切る。
「お姉ちゃん?」
晃星が聞く。
「うん。心配して電話してきてくれたみたい」
「そっか」
二人は再び歩き始める。
しばらくして、晃星がさっきの出来事を思い出したように口を開く。
「それにしても、さっきの自転車危なかったよね」
「うん。びっくりした……」
「奈緒ちゃん、しっかりしてるのにドジだもんね」
晃星が笑う。
「えっ!?」
奈緒が晃星を見る。
「私の方がお姉さんなのに!」
「そこは関係ないだろ」
「関係あるよ!」
奈緒は少しむっとした顔で言い返す。
「私の方が一個上だから、お姉さんだからね!」
「……」
晃星は何気なく自分の掌を見返す。
「……確かに」
そう呟いて、思わずニヤける。
「ちょっと?」
奈緒がジト目で晃星を見る。
「何か違うこと考えてない?」
「えっ!? いや、何も!」
晃星は慌てて手を下ろす。
「ほんとかなぁ……」
奈緒は疑わしそうに晃星を見る。
「本当だって!」
「……ならいいけど」
奈緒はまだ少し怪しむような顔をしながらも、晃星の隣を歩き続けた。




