そんな男いるわけない!
「じゃあ、行ってきまーす!」
伊織は元気よく部室を出ていった。
晃星と奈緒も、最初の小学校へ向かう。
「でもさー、これめっちゃ大変じゃない?」
歩きながら、晃星が資料を見る。
「これ、一日じゃ無理だろ」
「うん。小学校同士も結構距離があるし、無理に全部今日やらなくてもいいんじゃないかな」
「だよねえ。じゃあ今日は行けるところだけにしよっか」
二人は資料を確認しながら、今日回る小学校を決めていく。
しばらく歩いたところで、晃星がふと思い出したように口を開く。
「そういえば奈緒ちゃん、ミニスカ先輩と仲良いの?」
「私よりお姉ちゃんの方が仲いいかな。昔はよく遊んだりしたんだけど」
「ヘぇ〜。昔から友達だったんだ。奈緒ちゃんとミニスカ先輩ってタイプ違うから、なんか珍しいね」
「うん。中学校の頃なんて全然話もしなかったかな」
「そうなんだ? なんで?」
「昔、私が内気で……」
奈緒はそこで言葉を止めた。
「うーん、なんか自然に? みたいな感じかな。高校になってからは少し話すようになったかな」
「へぇ〜、そうなんだ」
二人はそのまま最初の小学校へ向かった。
小学校では奈緒が先生から話を聞き、晃星は休憩時間になると子供たちと遊んだり、勉強を見たりしていた。
子供たちともすぐに打ち解け、まるで友達のように一緒になって遊ぶ晃星。
奈緒はそんな晃星の様子を見ながら、自然と笑顔になっていた。
そんな中、子供の一人が奈緒のスカートの裾を引っ張った。
「きゃっ!」
奈緒が驚いて声を上げる。
「こらこら、ダメだよ!」
晃星がすぐに注意する。
「そういういたずらはしちゃダメだぞ」
「はーい!」
子供は素直に返事をする。
「もう……びっくりしたよ」
奈緒が苦笑する。
そして、少し恥ずかしそうに晃星を見る。
「あ、あきくん……見た?」
「えっ!?」
晃星の顔が一瞬で固まる。
「み、見てない見てない!」
「本当に?」
「ほ、本当だって!」
晃星は明らかに慌てながら答える。
奈緒はそんな晃星を見て、少しだけジト目になる。
「……本当に?」
「本当だって!」
その後も二人は聞き取りを続け、次の小学校へ向かった。
二つ目の小学校でも聞き取りを終えた頃には、辺りはもう日が暮れる直前になっていた。
「はぁー……やっぱり時間かかるね」
晃星が空を見上げる。
「子供たちは元気いっぱいだなー。あんなにずっと遊んでるのに、全然疲れてないもんな」
「ふふっ。確かにそうだね」
奈緒も笑う。
晃星は少しだけ奈緒の方を見る。
「まあ、そのおかげでいいもん見れたけど」
「……あきくん!?」
奈緒がすぐに反応する。
「えっ!? な、何?」
「今、何て言ったの?」
「いや、別に!」
「いいもんって何?」
「そりゃ、奈緒ちゃんの……いやいや!子供たちが元気に遊んでるところ!」
「奈緒ちゃんのって言わなかった!?」
「言ってない!!気のせいだって!」
晃星は慌てながら答える。
奈緒は晃星をジト目で見つめる。
「…………」
「な、なんでしょう……?」
奈緒はしばらくジト目のまま晃星を見つめていたが、やがてふっと笑った。
「……まあ、いっか」
「なんだよ、それ」
晃星はホッとしたように息を吐く。
「……よかった」
「何が?」
「いや、なんでもない!」
二人はそのまま部室へ戻った。
部室に戻ると、そこには誰もいなかった。
「……あれ? 誰もいないな」
「今日はもう暗いし、生徒会にはとりあえず、今日はここまでで、続きはまた別の日にするって話しに行こうか」
「うん。そうしよう」
二人は生徒会室へ向かった。
生徒会室に残っていたのは、梨愛だけだった。
「お疲れ〜♫」
梨愛が二人を見て、にこっと笑う。
「お、ミニスカ先輩だけ?」
「うん。みんなもう帰ったよ〜」
梨愛は二人を交互に見ながら、ニヤニヤする。
「それにしても、遅かったね〜?」
「まあ、聞き取りに時間かかったからな」
「ふ〜ん?」
梨愛はさらにニヤニヤする。
「もしかして、デートしてたんじゃないの〜?」
「……っ!」
奈緒が「やめて!?」と言わんばかりの顔をする。
「ちゃんと聞き取りしてきてますけど!?」
晃星がすぐに突っ込む。
「二つの小学校に行ってきたからな」
「へぇ〜」
「まあ、奈緒ちゃんと二人だったし、楽しかったけど」
「……っ!」
奈緒の顔が一気に赤くなる。
「そ、そうだね……」
嬉しさを隠しきれず、口元が少し緩む。
それを見た梨愛はニヤニヤする。
「いい感じじゃん」
「何が?」
「ふふっ。じゃあ、またよろしくお願いね!?」
「おう」
「うん……」
梨愛は二人を見ながら言う。
「私は、いおりんとか姫ちゃんより奈緒の方がオススメだけどなぁ〜」
「え!? 何が?」
晃星がキョトンとする。
「…………!」
奈緒は顔を真っ赤にしながら、梨愛に「本当にやめて」と言わんばかりに必死にジェスチャーする。
「ふふっ、はいはい♪」
梨愛は楽しそうに笑った。
「とりあえず今日はもう暗いから、あっき〜、奈緒を家まで送ってってあげてね?♫」
「いや、帰る方向違うし大丈夫だよ?」
奈緒が遠慮する。
「うん!そのつもりだったから全然大丈夫だよ」
晃星は迷うことなく答える。
「……え?」
梨愛がキョトンとする。
この子、めんどくさいとかそういうこと思わないの?
なんで即答で言えるんだろ?
そのつもりだったってどゆこと?
梨愛は晃星と奈緒を交互に見る。
もしかして……奈緒が本命なんじゃない?
「じゃあ帰ろ」
晃星が奈緒に笑顔を向ける。
「え? でも悪いよ」
「いや、奈緒ちゃんビビリだし、何よりミニスカ先輩の言う通り女の子だから、何かあっちゃいけないから!」
「……あきくん……」
奈緒は赤くなった顔のまま、晃星を見つめた。
「じゃあ、失礼します」
奈緒が生徒会室を出ようとした、その時だった。
「ちょっと待って!」
梨愛が奈緒の手を引っ張る。
「え?」
振り返った奈緒に、梨愛は誇らしげな笑顔を向けた。
「どう? 私、いい仕事するでしょ?」
「え、いや……でも、本当に違うから大丈夫だよ?」
奈緒が苦笑する。
「その割に二人とも楽しそうじゃん」
梨愛はニヤニヤしながら奈緒を見る。
「帰りもめんどくさがらずに送ってくれるなんて、まんざらじゃないんじゃない?」
「いや、あきくんはそういう人だから……」
奈緒は晃星の方をちらっと見て、微笑む。
「何それ?」
梨愛が呆れたような顔をする。
「そんな男いるわけない!」
「いるよ」
奈緒は笑いながら答える。
「あきくんは、それが普通なんだよ」
「普通?」
「うん。みんなが『そこまでしなくてもいいんじゃない?』って思うようなことでも、あきくんにとってはそれが普通なんだよ」
奈緒は少しだけ晃星を見つめる。
「それが普通って思えるのが、凄いんだけどね」
「…………」
梨愛は納得していないような顔をする。
「うーん……」
「本当だって」
「はいはい」
梨愛は軽く手を振る。
「とりあえず、手繋ぐなりキスするなり、進展してきて!」
「えっ!?」
奈緒の顔が一瞬で真っ赤になる。
「ちょ、ちょっと梨愛……!」
「ほらほら、あっき〜待ってるよ?」
「…………!」
奈緒は真っ赤な顔のまま、廊下の先にいる晃星を見る。
晃星は何も知らずに、奈緒が来るのを待っていた。
「……もう」
奈緒は恥ずかしそうに呟くと、慌てて晃星のところへ戻っていった。
「お待たせ、あきくん……」
「おう。じゃあ帰ろっか」
「う、うん……!」
奈緒はまだ顔を赤くしたまま、晃星の隣に並んだ。
その二人を、生徒会室の入口から梨愛がニヤニヤしながら見送っていた。




