いいこと思いついちゃった
ある日の放課後。
学園よろずやでは、部長の一ノ瀬虎太と晃星の二人が、教室の照明や備品の確認をしていた。
「なんでこういう時は俺たちばっかなんだよ!」
晃星がぼやく。
「仕方ないだろ。奈緒は部室に残って、また依頼が来るかもしれないって待機してるんだから」
虎太は淡々と答える。
「それに、天川ちゃんはお前の担当だから、お前がなんとかしろよ」
「なんで俺があの問題児担当なんだよ!!」
「妻の管理は夫の役目だろう」
「誰が夫だ!?」
そんなやり取りをしている頃。
生徒会室では、真央が最後の仕事を終えていた。
「真央ちゃん、一緒に帰ろ?」
梨愛が声をかける。
「うん。じゃあ……よろずや寄ってっていい?」
「……別にいいよ」
梨愛は少しだけ口を尖らせた。
二人はそのまま、学園よろずやの部室へ向かった。
部室に入ると、奈緒が一人で残っていた。
「……あれ? 今日、奈緒だけ?」
真央が声をかける。
「うん。虎太先輩とあきくんは、教室の照明とか備品の確認に行ってるよ」
「そっか」
その時、部室の扉が開いた。
「終わったー!」
晃星と虎太が戻ってくる。
「あ、お疲れ様」
真央が声をかける。
虎太は真央の姿を見ると、嬉しそうに表情を緩めた。
「真央、もう仕事終わったのか?」
「うん。梨愛と一緒に帰ろうと思って」
「そっか。じゃあ俺も――」
虎太が言いかけたところで、ふと思い出したように資料を見る。
「……あ、でも俺、まだやることあったわ」
「そうなの?」
「うん。今日の確認したやつ、まとめないといけないから。二人は先に帰っていいよ」
「そっか」
真央が頷く。
そして奈緒を見る。
「じゃあ、奈緒も一緒に帰ろう?」
「うん……」
奈緒が返事をしながら、ちらっと晃星を見る。
その視線に気づいた晃星が声をかけた。
「奈緒ちゃん、俺も帰るから。一緒に帰ろ」
「……うん!」
奈緒の表情がぱっと明るくなる。
その様子を見ていた梨愛は、奈緒と晃星を交互に見る。
「……あれ?」
梨愛の口元が、ゆっくりと緩んだ。
「これって……」
奈緒が晃星と並んで帰る。
その光景を見ながら、梨愛は何かを思いついたように目を細める。
「奈緒、もしかして……」
「?」
奈緒が振り返る。
「ふふっ」
梨愛は楽しそうに笑った。
「いーこと、思いついちゃった♪」
――その日の帰り道。
真央、奈緒、梨愛の三人は、学校を出て並んで歩いていた。
しばらく歩いたところで、梨愛が奈緒の顔を覗き込む。
「ねえ、奈緒」
「ん?」
「奈緒ってさ〜、あっき〜のこと好きなんじゃない?」
「えっ!?」
奈緒の顔が一気に赤くなる。
「ち、違うよ!」
「またまた〜」
梨愛はニヤニヤしながら奈緒を見る。
「だってさっきも、あっき〜が一緒に帰ろって言ったら、すっごい嬉しそうだったじゃん?」
「そ、それは……!」
奈緒は言葉に詰まる。
「よろずやの後輩だし……一緒に帰るだけだよ」
「でもさー」
梨愛は楽しそうに続ける。
「ああ見えて、あっき〜の周りってかわいい女の子多いじゃん?」
「……」
奈緒の表情がわずかに曇る。
「いおりんもいるし、姫ちゃんもいるし。奈緒がモタモタしてたら、早くしないと取り返しつかなくなっちゃうよ?」
「……!」
奈緒の胸がドキッとする。
(……確かに、伊織ちゃんも月姫ちゃんも、あきくんとすごく仲いいもんな……)
自分でも驚くほど、その言葉に焦りを感じてしまう。
(……私、やっぱり……)
奈緒は、自分が晃星に抱いている気持ちをすでに知っている。
だからこそ、梨愛の言葉が妙に胸に刺さった。
「そ、そういうのじゃないから大丈夫だよ……」
それでも奈緒は、恥ずかしさから必死に否定する。
すると梨愛が、にっこり笑った。
「じゃあ、私が手伝ってあげる!」
「え?」
「奈緒とあっき〜がもっと仲良くなるように、私が色々やってあげる!」
「いや、だから……!」
「いいからいいから!」
「梨愛、聞いてる?」
「大丈夫! 私に任せて!」
「だから違うんだって……」
奈緒は困ったように言う。
けれど梨愛は、まったく聞く耳を持たない。
そんな二人のやり取りを聞いていた真央が、少し遅れて口を開く。
「……えっと」
二人が真央を見る。
「奈緒って、本当に晃星くんのこと……?」
「違うよ、お姉ちゃん!」
奈緒が慌てて否定する。
「そ、そういうんじゃないから!」
「そ、そうなの?」
真央は少し困惑したような顔で奈緒を見る。
「うん!」
奈緒は即答する。
けれど、その言葉とは裏腹に、胸の奥では梨愛の言葉が何度も繰り返されていた。
――いおりんもいるし、姫ちゃんもいるし。
――早くしないと、取り返しつかなくなっちゃうよ?
「……」
奈緒は小さく息を吐く。
そんな奈緒を見て、梨愛はニヤッと笑った。
「ふふっ♪ まあ、任せてよ」
「だから、任せなくていいってば……」
奈緒は困ったように笑った。
その横では、真央がまだ少し混乱した表情で二人を見ていた。
——翌日の放課後。
学園よろずやの部室に、梨愛がやってきた。
「みんな〜、いる?」
「お、梨愛か」
虎太が顔を上げる。
「生徒会から正式に依頼お願いしたいんだけど〜?」
梨愛は資料を机の上に置いた。
「昨日話してた、古い校舎を使った放課後の学童保育の件ね」
「おお、あれか」
虎太が資料を手に取る。
「まだ正式に決まったわけじゃないんだけど、まずは候補になってる小学校の学童に行って、先生や利用してる子たちから話を聞いてきてほしいの」
「なるほど。まずは聞き取りってことか」
「そうそう」
梨愛が頷く。
虎太が資料を広げる。
そこには、いくつもの小学校の名前が並んでいた。
「うわ、めっちゃあるじゃん!?」
晃星が目を丸くする。
「手分けして当たるか?」
虎太が言う。
「そうだね〜」
梨愛は全員の顔を見回す。
そして、何気ない様子で言った。
「じゃあ、発案者のあっき〜と奈緒で行って!」
「なんで!?」
伊織がすぐに反応する。
「だって、この案を出したのはあっき〜でしょ? 奈緒と二人で聞き取りしてきてよ」
「まあ……確かに」
晃星は特に疑うことなく頷く。
「よろしくね、あきくん」
奈緒も笑顔で答える。
「了解!!」
梨愛は二人を見て、こっそり笑った。
「それで、いおりんには商店街のほうお願いしたいんだよね」
「商店街?」
「うん。学童の子たちが体験できるような仕事をお願いできないか、商店街のお店をいくつか回って聞いてきてほしいの」
「どんなお店?」
「和菓子屋さんとか、八百屋さんとか、他にも色々あるでしょ?」
「和菓子屋さん!?」
伊織の目が輝く。
「ねえ、もし好意で出してもらえたら……食べていいの?」
「もちろん。お店の人が好意で出してくれたならね」
「じゃあ、任せて!」
伊織は一気にやる気になった。
その横で、虎太が資料を見ながら顔を上げる。
「……え? 俺は?」
梨愛は少し考えるような顔をする。
「部長さんは、その間グラウンドでも走ってればいいんじゃない?」
「なんでだよ!?」
虎太が即座に突っ込む。
「俺、部長だぞ!?」
「うん」
「うんじゃないだろ! 普通、部長にも仕事振るだろ!」
「じゃあ……部室で待機?」
「それも仕事になってない!」
「じゃあ……やっぱりグラウンド?」
「なんで俺だけ運動部みたいになってんだよ!」
梨愛はくすっと笑う。
「ふふっ、冗談だよ〜」
「お前なぁ……!」
虎太が呆れたようにため息をつく。
「ちゃんと部長さんにも仕事あるって。全体の取りまとめ、お願いね」
「最初からそう言え!」
虎太が資料を受け取りながら言う。
「各自で聞き取りした内容をまとめて、最終的に生徒会へ報告するのは俺ってことだな?」
「そうそう!」
「だったら俺が一番重要じゃねえか!」
「うん。だからグラウンド走ってる暇ないね」
「最初からそう言えって!!」
部室に虎太のツッコミが響く。
「じゃあ、役割はこれで決まりだな」
虎太が資料をまとめる。
「俺が全体の進行と報告を担当する。晃星と奈緒は学童への聞き取り。伊織は商店街の店を回って、職業体験について聞く。梨愛は生徒会側との調整だな」
「うん、よろしく〜♪」
「よし。じゃあ、みんな頼んだぞ」
「おう!」
「うん!」
「任せて!」
それぞれが返事をする。
梨愛は晃星と奈緒をちらっと見る。
「ふふっ」
小さく笑う梨愛の頭の中では、昨日思いついた作戦が着々と動き始めていた。




