頑張ったらいい事ある!!
晃星がゴールテープを切った瞬間――。
「うおおおおおおおお!!」
会場中から、大歓声が巻き起こった。
紅団も白団も関係なく、観客席から大きな拍手が起こる。
「すげぇ!!」
「一年のあいつ、めちゃくちゃ速えぞ!」
「陸上部じゃないのか!?」
そんな声が飛び交う中――。
「あっきー凄い! 足速いじゃん!?」
伊織が晃星の背中に飛びついてきた。
「俺、遅いなんて言ってないぞ」
「だって、こんなに速いと思わないじゃん!」
背中に乗った伊織の感触に、晃星は思わずニヤッとする。
「……」
それに気づいた伊織が、晃星の頭を軽く叩いた。
「スケベ!」
「痛っ!」
「まぁ、頑張ったから許したげる」
「何だよそれ……」
そこへ風間と楓も駆け寄ってくる。
「桐生くん! 見事なジャイアントキリング! 本当に凄かったよ!!!」
「桐生くん、本当に凄かった! びっくりしたよ!」
「いやいや、俺も自分でこんなに走れるとは思わなかったですよ」
すると――。
「あっき〜、凄い〜!」
梨愛がやって来る。
「おい、ミニスカ先輩――」
梨愛が晃星に抱きつこうとした瞬間、伊織が前に出て止めた。
「させない!」
「え〜! やめて! いおりんは後ろから抱きついてたのに〜!」
「うっさい!!」
そこへ虎太、奈緒、月姫もやってくる。
「あっくん凄いよ!!」
月姫の目はキラキラしている。
「うーん、地元だと俺より速いやついるから、そこまで速いと思ったことないけどね」
「どんな地元だよ」
虎太が笑う。
「本当に凄かったよ、あきくん」
奈緒も笑顔で言う。
すると梨愛が紅団の三人を見る。
「頑張ったけど残念だったね!!!」
得意げな笑顔だった。
しかし――。
「まあ、最後はみんなで盛り上がれたからいいんじゃない?」
虎太は気にしていない。
「うん。あきくんのおかげで、最後すごく盛り上がったし」
奈緒も笑う。
「私も楽しかった!」
月姫も嬉しそうだ。
「ふん!」
梨愛はそっぽを向くと、白団のテントへ戻っていく。
そして――。
「みんな頑張ったね〜! おめでとう〜!」
優勝旗を持った梨愛が、白団の前で跳ねるように喜ぶ。
その姿を見たみんなは、思わず苦笑する。
一方、河野は息を切らしながら悔しそうにしていた。
「……くそっ」
岩田が肩を叩く。
「あれは仕方ない」
「……はい」
白団のところへ戻ると、周囲から次々と声をかけられる。
「一年! 凄かったぞ!!」
「めっちゃ速かった!!」
「最後の追い上げ、ヤバかったな!」
「……しまった!!」
晃星は青ざめる。
「目立ちすぎた……どうしよう?」
その隣で伊織が呆れたように言う。
「堂々としてなよ」
「無理だって……」
やがて閉会式が始まる。
教頭が壇上に立った。
「皆さんの、とても熱気のあるいい体育祭でした」
そして優勝旗が渡される。
「白団、優勝!」
「いえーい!!」
梨愛が優勝旗を掲げる。
「みんなほんと頑張ったよ〜!!」
白団から大きな歓声が上がった。
こうして、長かった体育祭は幕を閉じた。
――しかし。
閉会式が終わっても、まだ熱気は残っている。
応援団のメンバーたちが集まり、打ち上げの話をしていた。
「いおりん行くよね?」
梨愛が伊織に声をかける。
「ううん! いかない!」
即答だった。
一方、紅団では虎太が奈緒を見る。
「奈緒、行くのか?」
「私は行かないかな」
「そっか」
そんな中――。
晃星は人目を避けるように、こそこそと帰ろうとしていた。
「……よし。今のうちに帰ろう」
今日一日、あまりにも目立ちすぎた。
これ以上目立つ前に、さっさと帰りたい。
すると――。
「あっきー!」
「あっくん!」
楽しそうに話をしながら、伊織と月姫が近づいてくる。
「一緒に帰ろ!」
「え?」
晃星は足を止めた。
「一緒に帰る? どゆこと?」
「打ち上げだよ!!」
伊織が笑う。
「明日は休みだから」
月姫も楽しそうに笑う。
「昨日から約束してたから」
伊織がそう言った瞬間――。
「……あ」
晃星がハッとする。
「もしかして?」
伊織と月姫は顔を見合わせる。
そして二人で笑った。
「……なるほどね」
察した晃星は、二人と一緒に帰路についた。
そして地元の駅に着いたところで――。
「おーい!」
手を振る人物を発見する。
「……」
晃星は納得した。
「だろうね!!」
そこにいたのは、晃星の母だった。
「お疲れ様!」
母は三人を笑顔で迎える。
「疲れた〜」
伊織がぐったりする。
「ちゃんと着替え持ってきた? 帰ったら先にシャワー浴びたら?」
「ええ? 着替えまで準備してんの?」
晃星が驚く。
「帰りに来るっていうから、ウチでシャワー浴びたら帰ってから楽じゃん!」
母は当然のように答える。
すると伊織が笑う。
「でもママに応援団の衣装見せたいから、その後にシャワーする!」
「うん!」
月姫も頷いた。
こうして三人は、晃星の家へ向かった。
* * *
家に着くと、伊織と月姫はさっそく着替え始めた。
しばらくして――。
「じゃーん!」
二人が揃ってリビングに入ってくる。
「えー、二人ともかわいい〜!」
ママが嬉しそうに声を上げる。
伊織は白団のチア衣装。
月姫は、晃星が貸した学ラン姿だった。
晃星も改めて伊織のチア姿を見る。
「……うん。確かにみんなが騒ぐのもわかる」
月姫は学ランの袖を見ながら笑う。
「私はあっくんの学ランだけど」
そして、嬉しそうに続ける。
「あっくんの匂いするから、一緒に応援してるみたいだった」
「そ、そう?」
晃星が照れくさそうに答える。
伊織はそんな月姫を、少し羨ましそうに見ていた。
「……」
すると突然、伊織の顔がパッと明るくなる。
「月姫!」
「ん?」
「衣装交換して着てみようよ!」
「うん! いいね!」
二人はまた楽しそうに着替えに行ってしまう。
「……なんで体育祭終わったばっかりであんな元気なんだ?」
晃星が呆れる。
「女子はそういうもんなの!」
母が笑う。
「そういうもんなのか……」
しばらくすると――。
「どう?」
伊織が戻ってくる。
今度は学ラン姿だ。
いつもの伊織とは違う雰囲気で、晃星には新鮮に映った。
「かわいいよ〜」
ママが嬉しそうに言う。
「うん! 似合ってるよ」
晃星も素直に答える。
「ほんと?」
伊織が嬉しそうに笑う。
その後ろから――。
「お待たせ〜」
月姫が入ってくる。
今度はチア衣装姿だ。
「……」
晃星は固まった。
「……確かにこれは、男子は見たがるわけだ」
納得してしまうほど、月姫のチア衣装はよく似合っていた。
「どうかな?」
月姫がその場でくるっと回る。
「……」
晃星は完全に固まっている。
伊織が月姫を見て、慌てた。
「ちょっと! 月姫!!」
「え?」
「スパッツ履いてないって!!」
「あっ!?」
月姫が顔を真っ赤にする。
晃星も真っ赤になっている。
「……あっくん、見えた?」
「い、いや見えてない!」
晃星は慌てて答える。
伊織が晃星を睨む。
「……」
すると伊織が、ふと思いついたように聞く。
「今思いつく色は?」
「ピンク……」
晃星は即答してしまった。
「……」
月姫は恥ずかしそうに顔を赤くする。
「ヤバい!」
晃星自身も、自分が何を即答したのか理解して頭を守るように抱える。
「伊織、ダメだよ!」
月姫が慌てて言う。
「だってあっきーが即答するから!」
「わ、私が悪いから仕方ないよ!」
月姫は恥ずかしそうに俯いた。
晃星も顔を真っ赤にしたまま固まっていた。
「ほんとこのドスケベは!?」
伊織が呆れたようにため息をつく。
「きっと今日頑張ったご褒美だと思う!」
ふと、晃星は笑いながら言う。
「バカなの?」
「月姫って、なんかそういう感じじゃん?」
伊織は一瞬だけ晃星を見る。
「はいはい」
いつものことだと言わんばかりに聞き流す。
一方、月姫は恥ずかしそうに笑った。
「こんなのがご褒美?」
「そうだよ!」
晃星は笑顔で答える。
「俺にとっては女神様からのご褒美みたいなもん!」
「……っ!」
月姫の顔が一気に赤くなる。
「め、女神様……?」
「うん!」
晃星は何気なく頷く。
「……ふふっ」
月姫の口元が緩む。
――女神様。
――あっくんにとって、私は女神様……。
――じゃあ、今の私は……あっくんにご褒美をあげた女神様……?
「……ふふっ」
月姫は嬉しそうに笑う。
「月姫?」
「な、なんでもないよ!」
慌てて顔を逸らす月姫。
けれど頭の中では、またどんどん想像が膨らんでいく。
――あっくんが頑張ったら、ご褒美をあげる……。
――私が、あっくんに……。
「……ふふっ」
その様子を見ていた伊織が、少し首を傾げる。
「……月姫、最近なんか変な時多いな」
「えっ!?」
月姫が慌てて振り返る。
「そ、そうかな?」
「うん。なんか急にニヤニヤしてる時あるし」
「そ、そんなことないよ!」
月姫はさらに顔を赤くする。
「ふーん?」
伊織は少し不思議そうに月姫を見る。
晃星はそんな二人のやり取りを見ながら、何も気づかず笑っていた。




