湧き上がる大歓声!!!
午後の競技も進み、気がつけば体育祭も終盤に差し掛かっていた。
紅団と白団の点数は、ほぼ拮抗したまま。
そして――。
「最終競技、一年生団対抗リレー!」
グラウンドにアナウンスが響いた。
「……ん?」
晃星が首を傾げる。
「なんで最終競技が一年のリレーなんだ?」
「そういえば、そうだね?」
伊織も不思議そうにする。
「なんでだろ?」
そこへ風間と楓がやってきた。
「気になるよね」
楓が笑いながら言う。
「うちの学校の体育祭は、いつも一年のリレーで締めなんだよね」
風間が話す。
「なんでも、一年生っていう新しい風を持った子たちが頑張って締めるのがいいって言った教師がいて、その案が影響してるんだって」
「へぇー……」
晃星は少し呆れたようにグラウンドを見る。
「めんどくさいことにしやがって」
「どんな教師だよ……」
晃星は一人でその教師の姿を思い浮かべる。
「……おばちゃんぽいな……」
そして、教頭を探す。
すると――。
少し離れたところで、教頭が楽しそうに手を叩いていた。
「……絶対おばちゃんだ」
晃星は確信した。
その時――。
『ここで、一年生団対抗リレーについて変更のお知らせです!』
アナウンスが響く。
『一年、白団の三浦誠太君は怪我のため、桐生晃星君に変更となりました!』
「……!」
晃星がハッとする。
「……そうだった」
すっかり忘れていた。
一気にげんなりする。
「えぇ!?」
風間と楓が驚く。
「桐生君、走るの!?」
風間が晃星を見る。
「はい。どっかの応援団の子が勝手に決めたんで……」
晃星が伊織を見る。
伊織は平然としている。
「何か文句ある?」
「いや、あるだろ!?」
「パン食い競争だけ出て貢献しましたみたいな顔されても困ります〜」
「ぐぬぬ……」
晃星は悔しそうに唸る。
「でも頑張ってよ!」
風間が笑顔で言う。
「うん! ここで白団が勝つか負けるか決まるから!」
楓も笑顔で続ける。
「ほら、風間先輩も頑張ったんだから、あっきーも頑張んな!」
伊織が晃星を見る。
風間と楓は、そんな二人を見て微笑む。
「え? 何すか?」
晃星が首を傾げる。
「いや、仲良いんだなと思って」
風間が笑う。
「うん。私もそう思う」
楓も微笑む。
「天川さんのためにも頑張れ!!」
風間が言う。
「えぇ!?」
晃星と伊織が同時に声を上げる。
楓も伊織に微笑む。
「照れない、照れない」
「ちょっ、楓先輩まで!」
伊織が照れたように顔を赤くする。
晃星は二人を見てから、グラウンドへ視線を戻した。
「まぁこうなったら風間先輩もかっこよかったし、俺もやれるだけやりますよ」
そして晃星がリレーの待機場所へ向かおうとすると――。
「あっくん?」
後ろから声がする。
振り返ると、月姫が近づいてきた。
「あっくん、リレー出るんだね」
月姫は笑顔で言う。
「……伊織ちゃんのせいだよ!」
晃星はムスッとする。
「ふふっ」
月姫が笑う。
「ここで紅か白か決着つくんだよね?」
「そうみたい」
「それでも、あっくんは応援するよ!」
月姫が笑顔で言う。
「えー、可愛すぎる!」
晃星は月姫を見る。
「えっ……」
不意に言われた「かわいい」に、月姫の顔が一気に赤くなる。
(え、待って……)
(あっくん今、私のこと可愛いって……)
(どうしよう……嬉しい……)
いつものように、月姫の頭の中でプチ暴走が始まる。
「……月姫?」
「えっ!? あ、うん!」
月姫は慌てて笑顔を作る。
「じゃあ頑張ってね!」
と月姫は顔を赤らめて言葉をかける。
「頑張っちゃおうかな!」
そう言って、晃星はリレーの待機場所へ向かった。
⸻
一年生団対抗リレーの選手たちが、それぞれの待機場所に並ぶ。
晃星も白団の列に入った。
(俺までに差をつけといてくれるっていうからな)
(まぁ、そこは信じよう)
人任せな晃星だった。
そんな中――。
「あれ?」
声が聞こえる。
振り返ると、紅団のアンカー、河野が立っていた。
「あれ? トレーナー君じゃん!」
河野が笑う。
「君がアンカーなんだ?」
「まぁ、不可抗力で」
晃星は淡々と答える。
「へぇ」
河野がニヤッと笑う。
「手加減なしで行くから!」
「あ、了解」
晃星の温度の低さが目立つ。
すると河野が笑いながら言う。
「三年のあの足遅い人みたいに、頑張ったからって声援奪うのはやめてね」
「…………」
晃星の目つきが少し変わった。
⸻
『点差的にもここを勝った方が優勝になります!!』
アナウンスがグラウンド中に響き渡る。
その瞬間、各団の応援団だけでなく、他の生徒たちも一気に盛り上がった。
「白団いけー!!」
「紅団負けるなー!!」
「一年!! 頑張れよー!!」
二年生、三年生からも一年生たちへ声援が飛ぶ。
白団の応援団が集まっている場所では、伊織が真央と話していた。
「晃星君て足速いの?」
真央が尋ねる。
「さあ?」
伊織はあっさり答える。
「いおりんでも知らないことあるんだ?」
梨愛が口を挟む。
「でも、あっき〜頑張ったらぎゅ〜ってしてあげよっと」
梨愛が微笑む。
「しなくていい!」
伊織がムッとして言う。
「別にいおりんの彼氏でもないんだから口挟む権利ないじゃ〜ん」
梨愛はあっかんべーをする。
「うるさい!」
伊織が言い返す。
そんな中、第一走者がスタート地点へ集まる。
「位置について――」
「よーい!」
パァァァァン!!
スタート。
第一走者たちが一斉に駆け出す。
さすがに足の速い生徒が集まったリレー戦だけあり、序盤から大きな差はつかない。
「おいおい……」
晃星はスタート地点でバトンを待ちながら願う。
(アンカーまでに差をつけてくれよ……)
しかし、あと二人でアンカーというところまで来ても、紅団、白団ともに一進一退の攻防が続いていた。
差は出ない。
むしろ――。
紅団が若干のリードを取っていた。
「アンカーは陸上部の河野だし、もらったな!」
紅団から声が聞こえ始める。
「白団、ヤバいって!」
白団からは悲痛な声が上がる。
そして――。
晃星はスタート地点でバトンを待つ。
「くそ!」
前を走る選手たちを見る。
「むしろ負けてんじゃねえか……」
その先で、河野が薄ら笑いを浮かべている。
「……」
そして河野がバトンを受け取る。
「あの風間って人みたいに、どう頑張っても無理ってこと見せてやるよ」
河野が先にスタートを切った。
「…………」
その言葉が晃星の中に引っかかる。
(どう頑張っても無理?)
脳裏に浮かぶのは、風間の姿。
初めて会った時の、あの走り。
そこから何度も練習を繰り返して、最後には3位まで走り切った。
(そう思ってた自分を、あの人は自分でぶっ壊したんだろ!!)
晃星は前を向く。
(俺も全力でやってやるよ!)
バトンが来る。
晃星はそれを受け取った。
「行けー!!」
「頑張れー!!」
紅団も白団も、両方の応援団から熱のこもった声援が飛ぶ。
「あっきーーー!!!」
伊織が叫ぶ。
「いっけーー!!」
今日一番の声だった。
そして――。
「あっくん!!」
月姫の声も響く。
「がんばれーー!!!」
晃星は一気に加速した。
河野は前を走りながら思う。
(このリードを保ったまま、ぶっちぎってやる!)
陸上部として鍛えてきた足。
そのスピードには自信がある。
だが――。
「……ん?」
河野が違和感を覚える。
後ろから聞こえていた足音。
最初は少し離れていた。
それが――。
近い。
「……え?」
さらに近づく。
いや――。
もうすぐ横から聞こえる。
「な……!」
河野が横を見る。
「え!?」
晃星がものすごい速さで差を詰めている。
「なんで!?」
河野は理解が追いつかない。
陸上部でも、ましてや運動部でもない。
ただの、何でも屋という部活の一年生。
「なんでこんなに速い!?」
誰もが一瞬、言葉を失う。
そんな中――。
「あっきー!!」
「あっくん!!」
二つの声が響く。
「いっけー!!!」
その声援を背に受けて、晃星はニヤッと笑った。
河野の方を向く。
「どう頑張っても無理?」
舌を出す。
「クソ喰らえ!」
そのまま河野の前に出る。
「なっ……!」
晃星が河野を抜き去る。
そして、そのまま差を広げていく。
「うおおぉぉい!?」
「おいおい! 何だアイツ!?」
「めちゃくちゃ速えぞ!?」
「陸上部か!?」
紅団、白団関係なく、大歓声が起こる。
風間と楓も目を丸くする。
「……え?」
「桐生君……!?」
晃星はそのまま最終コーナーを曲がる。
最後の直線。
さらにグングンと差を広げていく。
「いけーー!!」
「そのままー!!」
「桐生ー!!」
そして――。
ゴールテープを切る。
『うおおおおおおおおおおおお!!』
敵も味方も関係ない。
紅団も白団も関係なく、グラウンド中から今日一番の賞賛の大歓声が巻き起こった。




