俺は目立つことなく静かに過ごしたい!
午後の競技は、各団の応援合戦から始まった。
まずは紅団。
学ラン姿の応援団がグラウンドへ登場すると、会場から大きな歓声が上がる。
その中でも、やっぱり月姫に目が行ってしまう。
「……やっぱ月姫、似合ってるな」
なんだかんだ言いながら、周りの男子も月姫に見惚れている。
でも――。
「奈緒ちゃんもかわいいなぁ……」
晃星は奈緒の姿もデレデレしながら眺めていた。
すると、隣から声が飛んでくる。
「きりゅちゃん、だらしない顔してるよ」
朝倉美咲が笑いながら言う。
「え? そんなことないって」
「してるしてる」
「してないって!」
「伊織ちゃんがいたら怒られてるね」
「……それは確かに」
そんなことを話していると――。
ふと、月姫と目が合った。
月姫は晃星を見つめると、ニコッと笑う。
そして――。
パチッ。
ウインク。
「……!」
晃星が目を丸くする。
次の瞬間。
「おおおおおお!!」
「今、美空さん俺にウインクしてくれた!」
「いや、俺だろ!」
「絶対俺!」
「いやいや、俺に決まってる!」
敵側である白団から、大歓声が上がった。
男子たちが軽く揉め始める。
晃星はその様子を眺めながら、心の中で呟いた。
(いや、あいつ……そういうの自覚した方がいいぞ……)
そんなことを考えていると、今度は奈緒と目が合った。
奈緒は晃星に向かって、ふわっと笑顔を作る。
「……!」
「次は神崎先輩まで俺に笑顔を!」
またしても男子たちが騒ぎ始める。
「俺にだろ!」
「いや、俺だって!」
晃星は呆れながら思う。
(うん。君たち、自分が人気なのもっと自覚しろよ……)
そして――。
次は白団の応援合戦。
「続いて、白団の応援です!」
応援団が一斉にグラウンドへ登場する。
先頭には、ミニスカ先輩――藤宮梨愛。
チア姿だけあって、紅団以上の大歓声がグラウンドに響き渡る。
「うおおおおおお!!」
「かわいい!!」
「藤宮先輩ー!!」
梨愛への歓声が特に大きい。
しかし、それだけではない。
「真央先輩ー!」
「天川さん、頑張れー!」
真央や伊織にも大きな声援が飛んでいる。
「……すげぇな」
晃星はそんな光景を見ながら、ふと虎太を見る。
すると――。
「真央ー!! 頑張れー!!」
虎太が人一倍大きな声援を送っていた。
「……」
晃星はしばらく虎太を見る。
(あ、あいつは幸せな奴だな……)
そう心底思った。
すると朝倉が晃星に話しかけてくる。
「きりゅちゃん、伊織ちゃん似合ってるね」
「まぁ、見た目はいいからね」
「ふふっ、見た目だけ?』
二人で笑い合う。
そんな中――。
ふと、伊織と目が合った。
「……」
伊織は、なんだか少し気持ち睨んでいるように見える。
「……ん?」
晃星は首を傾げる。
「なんでだ?」
そして朝倉に話しかける。
「ああいうとこは、月姫とか奈緒ちゃん見習ってほしいなぁ」
美咲は苦笑いする。
「きりゅちゃん、それ本人に言ったら怒られるよ?」
「なんで?」
「……なんでもない」
美咲は困ったように笑った。
⸻
応援合戦が終わると、次の競技が始まった。
「次は二年生の借り物競争です!」
二年生がスタート地点へ並ぶ。
「位置について!」
「よーい!」
パァン!
一斉に二年生が走り出した。
すると――。
「うおおおおおお!!」
ひと際大きな応援が聞こえてくる。
「……あ、ミニスカ先輩か」
グラウンドを見ると、白団の梨愛が走っていた。
「あんなに人気あるんだな」
晃星が伊織に話しかける。
「男って単純だからね」
伊織が呆れたように言う。
「まぁ、それはそうかもな」
そんな話をしていると――。
「あっき〜!」
「え?」
梨愛が晃星の前までやってきた。
「あっき〜、手伝って!」
「うわ!」
梨愛に手を引っ張られる。
そのまま引っ張られて、二人でゴールへ向かう。
「ゴール!」
梨愛が一着でゴールした。
「はぁ……」
晃星が息を整えていると、梨愛がお題の紙を確認する。
「……」
紙を見た梨愛。
その内容がマイクで読み上げられる。
「藤宮さんのお題は――『気になる人』です!」
「…………」
一瞬の沈黙。
次の瞬間――。
「えええええええ!?」
「なんでだよ!!」
「ずるいぞー!!」
大ブーイングが巻き起こる。
晃星も慌てて叫ぶ。
「いやいやいや! こんなの俺、被害者だぞ!」
「マジで勘弁!」
ふと周りを見る。
冷ややかな目をした伊織。
目を細めている奈緒。
苦笑いを浮かべている美咲と真央。
そして、嫌がらせだと分かっている月姫は、頬をぷくっと膨らませている。
「…………」
晃星は思わず頭を抱える。
「目立ちたくないのに!」
怒りながら、その場を離れていった。
⸻
しばらくすると、次の競技が始まった。
「次は二年生の借り物競争です!」
「あ、奈緒ちゃんの番だ!」
晃星は奈緒に声をかける。
「奈緒ちゃん、がんばれ〜!」
「うん! あきくん、見ててね!」
奈緒がスタートする。
しばらく走ると、お題の紙を拾う。
「……?」
紙を確認した奈緒は、きょろきょろと辺りを見回す。
そして――。
「あきくん……」
奈緒の視線が晃星を捉える。
「ん?」
奈緒は晃星のところへ走ってくる。
「え?」
そして晃星の目の前まで来たところで――。
「わっ!」
奈緒が転びそうになる。
「危ない!」
晃星がとっさに奈緒を支える。
「大丈夫?」
「う、うん……」
その瞬間――。
「うおおおおおお!!」
「またかよ!!」
「なんで桐生なんだよ!!」
「ずるいぞー!!」
会場から大ブーイングが巻き起こる。
「なぜ!?」
晃星は叫ぶ。
「奈緒ちゃんがドジなだけで俺は支えただけだぞ!?」
「なんでだよ!」
「納得いかねぇ!」
男子たちから声が飛ぶ。
「だから俺に言うなって!」
晃星が必死に訴える。
すると奈緒が笑顔になる。
「あきくん、ありがと!」
「うん」
奈緒は晃星の腕を引っ張る。
「じゃあ、いくよ」
「え?」
そのまま二人でゴールへ走っていく。
「ゴール!」
すると、お題がマイクで読み上げられる。
「神崎さんのお題は――『頼りになる後輩』です!」
大きなブーイングこそ起こらなかったものの、男子たちから冷ややかな目が向けられる。
「…………」
晃星は納得できない。
「なんなんだよこれ!」
そして伊織のところへ戻る。
「伊織ちゃん」
「なに?」
「これ俺、悪くないよね?」
伊織は晃星を見る。
「さあ?」
「冷たっ!!」
晃星は叫んだ。
⸻
その後も競技は進み、三年男子の騎馬戦が始まった。
紅団と白団、それぞれの騎馬がグラウンドへ出ていく。
その中には虎太もいた。
「お、部長、何気に頑張ってるじゃん」
晃星が虎太を見る。
虎太は思った以上に頑張っていた。
相手の攻撃をかわし、なかなか落ちない。
晃星は真央を見る。
「……」
真央も虎太を見ている。
二人は顔を見合わせる。
『負けろ〜、落ちろ〜』
二人で虎太に念を送る。
しかし、虎太は落ちない。
『ちっ!!』
二人で悔しがる。
すると虎太がこちらを見る。
「いや、晃星はいいとしても真央はおかしいだろ!?」
「いや、こっち白団だから気安く話しかけないで!」
真央がそっけなく言う。
「えぇ……」
虎太が困惑する。
それを聞いていた梨愛が言う。
「だよね〜」
そして虎太を見ながら――。
「頭から落ちてもよかったのに」
「…………」
虎太、晃星、そして真央が固まる。
「梨愛……それは流石に……」
真央が呆れたように言う。
すると梨愛は舌を出して笑う。
「じょーだんだよ♪」
「…………」
晃星と虎太は顔を見合わせる。
「……絶対本気のやつだ」
「ああ。絶対本気だ」
二人の意見は一致していた。




