大歓声の全力疾走!!
その後も体育祭は次々と競技が行われていった。
綱引き、障害物競争――。
そして、一年女子100メートル走。
「次は一年女子、100メートル走です!」
晃星はトラックへ目を向ける。
そこには、紅団の月姫と白団の朝倉美咲が並んでいた。
「おっ」
二人がスタートラインにつく。
「位置について――」
「よーい……」
パァーン!
スタートの合図と同時に、一斉に駆け出す。
「美空さーん!!」
「頑張れー!!」
紅団から月姫への大きな声援が飛ぶ。
しかし――。
「速っ!」
晃星が目を見開く。
バレー部の美咲が一気に前へ出た。
そのまま勢いを落とさず、ゴールへ駆け抜ける。
「一着、朝倉美咲!」
「おおおお!!」
白団から大きな歓声が上がる。
一方、紅団からは――。
「あぁ~~……」
「惜しかったー!」
残念そうな声が上がった。
晃星はゴールした美咲に親指を立てる。
「朝倉、凄い!!」
すると、美咲が晃星に気づいた。
「あっ!」
満面の笑顔を浮かべ、そのまま晃星のところへ駆け寄ってくる。
「きりゅちゃん、ありがと!」
「うん! 速かったな!」
「でしょ!」
美咲は嬉しそうに笑う。
その様子に白団もさらに盛り上がった。
一方、月姫は悔しそうな表情を浮かべている。
晃星はそんな月姫のところへ近づいた。
「月姫も惜しかったよ!」
「……あっくん」
月姫は悔しそうにしながらも晃星を見る。
「次は負けないからね!」
「うん!」
晃星は笑って頷いた。
その後も競技は続いていく。
「一着、天川伊織!」
続いて行われた競技では、伊織が見事一着を取った。
「やったー!」
白団から大きな歓声が上がる。
その後も綱引きや障害物競争などが行われ、午前の競技は進んでいった。
そして――。
午前の大一番。
三年生の100メートル走が始まろうとしていた。
晃星がトラックを見る。
スタート地点には、緊張した面持ちの風間が立っていた。
「風間、大丈夫か?」
別の団ではあるものの、虎太が声をかける。
「すまない。大丈夫だ」
風間はそう答える。
そこへ晃星が近づいてくる。
「風間先輩!」
風間が晃星を見る。
「やれることやってきたから! タイムもめっちゃよくなったし! 頑張って!!」
「……ああ。ありがとう、桐生くん」
そのやり取りを聞いていた岩田が、鼻で笑う。
「まぁ、無駄な努力だけどな」
風間は岩田を一度見るが、何も言わない。
すると岩田は虎太たちのほうを向く。
「一ノ瀬! 神崎妹も一年のかわいい子も、紅団の俺の応援しろよ!」
「……何で俺まで?」
虎太が怪訝そうな顔をする。
「一ノ瀬! お前も紅団だろ!」
「いや、まあそうだけど……」
虎太は釈然としない顔をする。
奈緒と月姫も戸惑いながら岩田を見る。
その横で、晃星が風間に声をかける。
「ま、先輩の頑張りを楓先輩に見せるだけだから!」
風間が頷く。
「そうだね!」
そして、気合いを入れるように拳を握った。
やがて、風間と岩田の番になる。
二人がスタートラインに並ぶ。
「風間ぁ~、手加減してやろうか?」
この期に及んでも、岩田はまだ風間を煽ってくる。
だが、風間は無視して精神を集中させる。
晃星、伊織、虎太。
そして、彼女の楓も固唾を飲んで二人を見つめていた。
「位置について――」
風間が構える。
「よーい!」
パァーン!
号砲が鳴った。
スタートは悪くない。
風間は練習通りのフォームを崩さず走り出す。
「……!」
岩田が驚いたように風間を見る。
風間はそのまま加速していく。
間違いなく、練習初日の姿ではない。
あの日、ドタバタと走っていた風間とはまるで違う。
上体を安定させ、前を見て、腕を振る。
何度も何度も繰り返してきた動き。
その一つ一つが、今の風間の走りになっていた。
ヘラヘラしていた岩田の表情も変わり、真剣な顔になる。
そして、岩田も加速していく。
「おー!! 先輩いけるいける!」
晃星の声が響く。
「駿太郎! 頑張れ!!」
楓の声も飛ぶ。
その声援を力に変えるように、風間は走り続ける。
だが、加速した岩田との差は少しずつ広がっていく。
それでも風間は前だけを見ていた。
(まだだ)
(最後まで――)
(今の俺にできることを全部出す!)
風間は最後まで力を振り絞り、走り抜ける。
「ゴール!」
風間は6人中3位でゴールした。
「うおおおおおおお!!」
「すげー!!」
「風間、三位!?」
「そんな速かった!?」
一気にグラウンドが沸いた。
晃星は目を見開いたまま、ゴールした風間を見つめる。
「……すげぇ」
思わず声が漏れる。
初日に見た、あのドタバタした走り。
そこから何度も練習を重ねてきた。
だからこそ、この3位がただの順位には思えなかった。
「先輩!!」
晃星は風間のところまで走っていき、そのまま抱きつく。
「かっこよすぎ!! 凄かったよ!」
「はぁ……はぁ……」
風間は息を切らしながら、晃星を見る。
「……ありがとう、桐生くん」
そこへ楓がやってくる。
目には涙が浮かんでいた。
「駿太郎……」
楓は風間の手を握る。
「かっこよかったよ。駿太郎!」
風間は楓を見て、少し笑う。
「いや、桐生くんのおかげだよ」
「いやいや、俺は騒いでただけだから!」
「ははは!」
「ふふっ」
三人で笑う。
その少し離れたところでは、岩田がつまらなさそうな顔をしていた。
すると、陸上部の一年生たちが岩田のもとへやってくる。
「岩田先輩、さすがです!」
「やっぱり速いっすね!」
すると一年の河野が口を開いた。
「こうなったら白団ぶっ潰しましょ!」
「最終戦の一年リレーで、俺がぶっちぎりますから!」
河野はそう言って、闘志を燃やしていた。
⸻
そして、午前の競技が終わり――。
昼休憩。
晃星と伊織が教室へ戻ると、いつもとは違うざわつきが教室に広がっていた。
「どうしたの?」
伊織がクラスメイトに声をかける。
「それがさ……」
一人の男子が困ったように話し始める。
「一年生対抗リレーに出る予定だった三浦が、さっきの競技で足を挫いて出られなくなったんだよ」
「えっ、大丈夫なの?」
「歩けるみたいだけど、リレーは無理だって」
クラス内がさらにざわつく。
「どうする?」
「他に足の速いやつって言っても、もう選手に入ってるしな」
「じゃあ、体力残ってそうなやついるか?」
「昼からも競技あるだろ? そんな奴いるか?」
誰もすぐには答えられない。
そんな中――。
伊織がふと晃星を見る。
「あっきー」
「ん?」
「ねえ、あっきーってパン食い競争以外なんか出た?」
「いや? 出てないが?」
伊織が手を挙げる。
「はーい!! 桐生くんでお願いしまーす!」
「おいぃぃぃ!!」
晃星が思わず叫ぶ。
「勝手に決めんな!」
「でも、あっきーだけだよ? 一つしか出てないの」
「……う!」
そう言われると、晃星は言葉に詰まる。
確かに、朝一番の競技に出ただけ。
「あー、朝一の競技しか出てないんだったら、桐生も体力有り余ってんな!」
クラスメイトが納得したように頷く。
「いや、有り余るってことは……」
晃星が嫌そうな顔をする。
すると、リレーの他のメンバーが口々に言う。
「大丈夫だって!」
「桐生が走る頃には、俺たちがぶっちぎってるから!」
「アンカーまでに十分差つけとくし!」
「いや、そういう問題じゃ……」
晃星は教室を見回す。
だが、みんなの視線が自分に集まっている。
「…………」
しばらく黙ったあと、晃星は諦めたようにため息をついた。
「……わかったよ」
こうして――。
本来出る予定のなかった一年生対抗リレーに、急遽、晃星が出場することになった。




