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第14話 ベテラン議員、洗濯機に敗れる ――洗濯は選択

ポン


その音と共に、ベテラン議員たちの目がスクリーンに集まった。

第二項目の課題が表示された。


『泥汚れのついたカラーシャツを洗って泥を落とし、リビングの散らかったゴミを分別・掃除機がけする』


全員が最新式のドラム式洗濯機を前に固まる。


「おい、上から入れんじゃないのか?」


「ソフターってなんだ?」


「おい、なんで棒のついた束子(たわし)があるんだ?」


「洗剤は粉じゃないのか?」


戸惑いが恐怖になった議員も見受けられた。

そんな中で大河原が


「おい有賀、白物用漂白とあるぞ。これをかければいいんじゃないか」


「そうですね。洗剤は……粉にしましょう」


といい、カラーシャツにばしゃばしゃと振りかけた。

解説席の神崎が


『あれは落ちそうだよね』


『馬鹿じゃないの?白物用を色物に!? ちょっと待ちなさい!』


呆れたと言わんばかりの品川。


『白物用を使ってどうすんのよ。終わったわ』


『漂白なんだから、同じだよね?』


『……総理もこのあと参加するのよね?』


『そうだよ』


『そう。頑張りなさいよ』


そう言って理由を言わなかった。

その間に有賀が粉石けんを計量スプーンで計る。


「たっぷり入れた方が落ちると思いますが、どうでしょうか?」


「しみったれたことはするな。有賀、最大派閥だ。洗剤までケチるな」


「はい」


「最大派閥の豪快さを、見せつけてやれ!」


大河原の台詞に有賀は計量スプーン三杯分を洗濯機へ入れた。


「これでよし」


『なにがこれでよしよ、なにが』


『足りない?』


『絶対に溶け残りするわ』


腕を組みこれでよしという表情の大河原が


「おい、武藤。洗濯機の使い方はわかるな?」


大河原にそういわれた武藤は洗濯機の表示を見る。

コース選択を選択できるようだが、下手に触って動かなくなる方が怖いと、そのままスタートと書いてあるボタンを押した。

結果、泥汚れは微妙に落ちたものの、洗剤の溶け残りがつき、シャツの色がハゲて斑点だらけの無惨な姿になってしまった。

有賀が固まり、大河原が口をへの字にしている。

それに慌てた武藤は挽回せねばと、一枚目のヘルプカード「一分間秘書に照会」をここで投入した。


「おい、分別ってなんだ」


「ゴミの分別です」


「だから、その分別はどうするだ!」


「燃えるゴミと燃やせないゴミ、リサイクルゴミと、破砕ゴミ、有害ゴミ、瓶・缶に分け……」


無情にも一分が過ぎた。


「分け過ぎだろう……」


武藤は茫然とリビングに立ち尽くすだけだった。



三井は二人に議員に残りの二枚のヘルプカードを渡した。


『贅沢に二枚のカードを使う気だよ』


『……どういうこと?』


品川が注意深くモニターを見ている。


「料理は何とかなる。ここが決戦の山場だよ。これを使い洗濯を乗り切って欲しい」


「先生」


三井は洗濯を託すと、リビングエリアへと足を向けた。

ゴミが散乱し、お掃除ロボットがその場から動けずにくるくると回っている部屋。


「掃除など、要は『利権の整理』と同じ。見えないところに押し込めばいい」


と、テレビカメラの死角になるソファーの裏にゴミを巧妙に押し込む政治的掃除テクニックを披露した。

それを見ていた神崎は


『あ、三井さんがソファーの裏に押し込んでる』


『あの人はいつもそうよ。隠すのが上手いのよ』


『そうなの?』


品川が頷いたとき、エリアの係員から


「ゴミを隠すのは分別とはいいません」


と注意が飛んだ。


「そうなのかい?」


「政治では通用しても、掃除では通用しません」


三井の顔が初めて引き攣った。

品川がにたりと笑った。


『本心を読ませない。老獪なのよ。けど、今回はバレバレ。ざまぁだわ』


『品川さん、顔が怖い……』


『なんですって!?』


『ひゃぁ、僕、第2項目に行ってきます』


脱兎のごとく解説席を後にした神崎に、鈴木が


「僕ではなく私です、総理」


と注意を忘れなかった。



神崎は洗濯エリアに着くなり、ヘルプカードを切った。

『プロの主婦の一分間アドバイス』が発動した。ブラシで泥を掻き出してから、40℃前後のぬるま湯と固形せっけんでもみ洗いし、最後に洗濯機で洗うことを勧めた。


「……意味がいま一つ……ええぃ、洗濯機に入れて洗えば何とかなる。為せば成る!」


『為せば成るの使い道が違います!』


鈴木が叫んだ。


『あのひと、力技過ぎない?それともなんか狙ってるの?』


『恐ろしいことに地です』


鈴木はインカムに切り替えた。


《総理、アドバイス聞きましたよね。アドバイス通りに、なぜできないんですか》


「だって、分からないのに一気に言われても無理。段階を踏んでくれないと。僕、初心者も初心者だよ」


《くっ、また正論を……それから、何度も言うようですが、僕ではなく、私です》


「鈴木、口うるさいオカンみたい……」


《総理》


「あっ、洗濯、洗濯。そうだ、掃除もしないと……」


神崎は誤魔化すように掃除エリアに向かった。

様々なゴミが散乱する部屋を前に、神崎は何枚かのゴミ袋を手にして、ゴミを仕分けしていった。


『えっ、総理凄いわ、きちんと仕分けできてるわ』


『ゴミの分別だけは躾けましたから』


鈴木がドヤった。


『でもさ、よく見たら、分別用ごみ袋と中身が違うわよ』


『……総理……』


神崎は分別したゴミ袋を前にやり切った表情で胸を張った。


「ふふふ、分けたことに意味がある」


『どんな意味ですか、それ……』


既に大半の議員たちの身体からは、最早、魂が抜けているような状況の中、無情にも


「それでは、最終項目、料理です。議員のみなさまは【キッチンエリア】へ移動してください」


司会者の声がスタジオ内に響いた。

ぞろぞろとゾンビの行進のように移動する議員たちが、踏み込んだ【キッチンエリア】。

そこはスモークがかかった半透明の強化ガラスとアルミフレームで区切られた、いくつもの個室風調理ブースでできていた。

天井部分は吹き抜けになっており、中のシルエットだけがぼんやりと外に透けて見える。

各ブースの強化ガラスは防音機能も備えており、完全な個室ブースとなっていた。

大河原は調理台に取り揃えられた調理器具を前に


「包丁と箸だけじゃないのか、武藤」


「大河原先生、この項目のためにカードを残しております」


「うむ。なら大丈夫だな」


大河原が安堵の色を浮かべたが、世の中、一寸先は闇。

阿鼻叫喚の舞台の幕が開くことをこの場にいる参加者たち全員は、まだ知らなかった。

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