↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/29

第12話 ベテラン議員、料理コンテストへ強制参加

好事魔多し。

神崎内閣は高い支持率を維持し、民自党の支持率も回復基調にあった。

そんな矢先ーー

その好調さに気を大きくしたベテラン議員が、やらかした。

地元の男性支持者を集めた演説会で


「最近の女性は手を抜くことばかり考えている。主に働く我々がいるから、暮らしていけることを忘れちゃいかん。働いているからといって家事に手を抜くのは違う。専業主婦は家事だけをしていればいいんだから楽ですな」


と女性蔑視、モラルハラスメントともいえる発言をしたのが、一斉にSNSに流れた。

マスコミは議員の発言に喰いつき、ワイドショーに取り上げた。

与党の女性票も落ちていき、堅調に伸びていた政党支持率がここにきて下降線を描き始めた。

首相官邸のエントランスホールでは神崎が移動する動線上に大勢の記者たちが待ち構えていた。

神崎を見つけると一斉に声がかかった


「総理」


「総理少しいいですか?」


神崎が足を止めると、神崎を囲むように複数の記者がICレコーダーやマイクを差し出し、非常に密度の高い状態となった。

マスコミ側から「山森議員の発言についてどう受け止めていらっしゃいますか?」と質問が投げかけられた。


「やるべきことをやってから働きなさい、家事をしていればいから楽っていう発言?」


「そうです。どう思われますか?」


「家事は女性だけがやるものではないよねぇ。誰がやってもいいと思うよ」


「家事は楽だと思われますか?」


神崎は少し考え込んでから答えた。


「……分からないな」


ざわっ……


マスコミが息を飲んだ。

失言か!?


「分からないって、どういう意味ですか!?」


「だって、やったことないし……」


神崎は一度言葉を切った


「経験していない人間が、楽だとか大変だとか言ったり、決めつけたりするのは違うと思う」


神崎は考え込むように少し首を傾げた。

神崎が考え込むとろくなことがないと、鈴木が背後から「総理、そろそろ」と声をけ、ぶら下がり取材を終わらせようとしたのだが……


「家事が楽かどうか、やってみよう」


「えっ、総理それはどういうことですか?」


「総理が家事をするんですか?」


マスコミが喰いつき、前に出てくるのを慌てて守衛が押し戻した。

鈴木は胃を押さえた。


「派閥のベテランの意識が変われば、下につく議員にも影響するよね。決めた。派閥のトップスリーの男性議員に料理コンテストをしてもらいます」


と、了承も何も得ずに神崎が宣言した。


(はぁっ?)


鈴木が心の中で素っ頓狂な声をあげる。


(いや、待て、待って。なんだその料理コンテストって。思いつきで発言するのはやめてくださいと、昨日も言ったばかりですよ!?)


「総理、それは公開されますか?」


「した方がいい?」


マスコミ全員が激しく頷く傍らで、鈴木だけが死んだ魚のような目をして首を横に振っていた。


「じゃ、決まったら連絡します」


「お待ちしております」


(お待ちしておりますじゃないっ!!)


胃が痛いと鈴木は胃の辺りを押さえたのだった。



『民自党ベテラン議員による料理コンテスト開催』


『問題発言を受け、家事経験』


『官邸主催、料理コンテスト開催』


神崎の発言は即日メディアを通じて全国に流れ、それを知った民自党の各派閥に激震が走った。

特に有賀派の衝撃は強い。

今回問題発言をしたのは有賀派の議員だ。

他の派閥から表立っての非難はないが、空気が微妙なのは確かだ。

参加をしないということは女性票が離れるということでもある。

選挙を控えたいま、参加をしないという選択肢はない。

だが、トップスリーというと、相談役の大河原の参加は必須だ。

大河原が二つ返事で了承するとは思えない。

思えないが、参加をしてもらわねば、派閥が困ったことになる。


(緊急入院……いや不味い。選挙で健康問題に発展する恐れがある……どうすればいいんだ……)


有賀は頭を抱えた。



開催日さえ決まっていないのに、鈴木のタブレットには次々とメールが入ってきていた。


『三井派参加了承』


『大久保グループ了承』


『女性局支援打診の件』


『野党女性議員手伝いの申し出の件』


『中継希望』


『スポンサー希望』


『料理研究家出演希望』


『エプロンメーカー協賛希望』


『家電メーカー提供希望』


鈴木は眩暈を覚えながら、確認と返信メールを入れる。

総理執務室で神崎が珍しく難しい表情をして椅子に座り、考え込んでいた。

鈴木はタブレットを確認しながら、嫌な予感をひしひしと感じていた。


(これ以上、仕事を増やさないでくださいよ、総理)


祈るような気持ちの鈴木をあざ笑うかのように、神崎が


「鈴木、料理コンテストだと料理だけだよね」


「料理だけですね」


「家事って料理だけじゃないよね?」


「そうですね。掃除、洗濯、アイロンかけ、繕い物、買い物、後片付けなどありますよ」


「……」


神崎の眉が微かに寄った。

その表情を鈴木は知っていた。

鈴木の背筋に悪寒が走る。

これは神崎が何かを決めた時の癖だった。

しかも、大抵ろくでもない。


「総理、私の胃にためにもこれ以上、変なことは実行しないでください」


「変なことじゃないよ。掃除と洗濯とアイロンがけと買い物を追加するだけだよ」


「それが変なことなんですよ!」


「けど、料理だけじゃ片手落ちだよね?」


「くっ、こんな時だけ正論を……」


鈴木は悔し気に神崎を見た。

神崎はきょとんとしている。


「総理、つかぬことをお聞きしますが、このコンテストはいつ開催されるおつもりですか?」


「……明日?」


「寝言は寝てから言えです。間に合いません」


「思い立ったが吉日っていうけど?」


「あなたは、思い立たないでください」


「鈴木よく言うよね。為せば成るって」


「成りませんから!」


(いまから、マスコミと各派閥に変更のメール送信して、場所押さえて、警備変更の連絡、スケジュール調整……だ、駄目だ。胃が、胃が……)


鈴木はタブレットから目を離さないまま、ポケットから胃薬を取り出すと、錠剤を水なしで飲み込んだ。


(先生が総理になってから胃薬の減りが早い……過去最速だ……胃薬の配達サービス、間に合うかな)


瓶に残っていた胃薬は、あと二錠だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。