第六十九話 新年祭の催し
「「「乾杯!」」」
冬備えも終わり、いくらかの豚とシュトーレンをメインに主砦での祝杯をあげる。
「新年祭をこんな風に祝えるほど豊かになるとはな……」
春や秋の収穫祭などと違い、家で過ごす厳かな祭日とは言え……去年までは気にしてもいなかった。
「そう言えば、去年は誰かさんのせいで祭りどころではなかったな?」
丸焼き豚の皮にむしゃぶりついてるゴッズを見やる。
「ぐ……ゴボッ、そ……その節はご迷惑を……」
「大丈夫ですよ、ゴッズさん。もう贖罪を果たしたんですから、神様は赦してくれますよ。脚が良くなってきてるのがその証です!」
ライラの言によると、オレは別に許さなくても良いらしい。
「へへ……おかげさまで。治癒の軟膏と温泉は偉大ですな」
「爺も絶賛してたな。あの湿布はそんなにいいのか?」
「湿布だと一日中楽なんすよ。こう……じわじわ〜って効く感じで」
「ふむ、浸透率の違いか」
爺を見てるせいか、湿布を貼るゴッズの姿がなんかジジ臭く感じる。
「そう言えば、アルゴス・シュタットではお祭りとかしないんですか?」
シュトーレンを頬張りながらレイラが尋ねる。
「うむ……アムズフェルト領では冬備えで精一杯だったし、ジュナイブでは逆に店が休みでやることが無かったな。ロレンツェでは何かするのか?」
「教会の大聖堂に人が集まるので、市民主催でバザーとか、屋台が賑わう感じでしたね」
「ふむ……バザーか。それなら備蓄がわんさかあるな」
この一年分の雑多な物納品。雑貨店のおもちゃやら、使い切れない布や売れ残りの数々が倉庫に眠っている。
「いい加減処分しようかと思ってたんだ。商館ホールでも借りて、うちもバザーを開催するとしよう」
「え、今から準備するんですか?」
アイナは明らかに働きたくなさそうだな。
「いらない商品を運んで、捨て値で並べるだけだ。フェブリンに店番をさせてみよう」
銅貨限定で予め値付けすれば、フェブリンでも店番できるだろう。
「新年祭に商売するとか、教会の許可がないと怒られるんじゃないですか?」
「うむ? それなら売上を教会と孤児院に寄付しよう。別に儲けたいわけでもないからな」
「素晴らしい愛徳です! ヴィクトル様!」
パン!と柏手を打つライラ。
「チャリティ? ふむ……いい印象だな。チャリティバザーとしよう」
骨付きの肉をむしゃりとかぶり付き立ち上がると、残りをゴブリンらに分け与える。
「さぁゴッズ、脚が良くなったならキビキビ働け。先ずは倉庫の大掃除からだ」
「も……もうちょっとだけ。こら、それは俺のだ!」
「ギィー!」
「ゴブリンと肉を奪い合うなよ……」
――
倉庫の掃除は家臣とフェブリンに任せ、フーガ商館へ赴く。
「フーガ殿、ゆっくりしてる所悪いが、商館のホールを貸してくれないか?」
「これはこれは、何か催しでも?」
「うむ。急だが不要品を捨て値で売るチャリティバザーを開催しようと思ってな。銅貨で売りたいから両替屋も開いてほしい」
「ほうチャリティと……貧者救済ですかな?」
「まぁそんなところだ。売上は孤児院と教会に寄付する」
「それでしたら、喜んでお貸し出ししましょう。贖宥状も貰えそうですしな!」
ポンッとフーガの大きな腹が叩かれた。肥えた体には免罪符が必要らしい。
――
「ピィーピッピピィ!」
主砦から大量の不要品、古くなった保存食を持ってフェブリンらが道を練り歩く。
「フーガ商館でアムズフェルト家主催のチャリティバザーをしまーす! みなさん銅貨をご用意してお越しくださーい!」
ライラとレイラが宣伝し、フーガとイセリア様が商館で来客を出迎える。
「これは全部銅貨一枚、こっちは二枚……そっちは三枚だ。覚えたか?」
「ピィ!」
値段ごとに布と商品を分け、フェブリンを配する。一匹が覚えるのは値段一つだけ。元々捨て値だから値切りは一切受け付けない。
「ギュルー」
絵描きセットを持ったギュスタが隣で絵を描き始める。
「おお、銅貨の絵か。じゃあ値段に合わせて銅貨を描いてくれるか?」
「ギュルー!」
バザーの商品前に銅貨の絵。中々うまいな。ドニとゼニの違いがよく分かる。
一通り準備が終わる頃、ポツポツと来客が訪れ始めた。
「ピィー!」
ほとんどのフェブリンにとって、初めての商売。宿屋に慣れたオカミが彼女らを良く指導する。
「わぁ……すごい量! しかも安い!」
「ピィピィ!」
「ギューギュー!」
各自が精一杯に客引きを行い、小さな銅貨を大事そうに受け取っていく。
ギュスタは似顔絵描きか。旅でもこうやって日銭を稼いでいたのだろう。慣れたものだ。
次第にぞろぞろと客足が増え、目ぼしい商品はあっと言う間に売り切れて行く。
「売れ残ったものは明日、値を下げて売るとしよう。在庫はまだまだあるからな」
「ピィー!」
チャリティバザーは暇な住民が連日訪れ、二日目には商人やヤクール族も色々と持ち込み、三日目には商人ギルドが一般人の参入も受け付けはじめた。
五日間のチャリティバザーは、アムズフェルトだけで銅貨800枚……金貨にして50枚もの売上を出し、その大半が孤児院と教会に寄付された。
「……ちょっと放出しすぎたか」
「スッキリしましたねぇ」
気づいたらフェブリンが主砦の倉庫をほとんど持ち出しており、中はすっからかんになってしまっていた。
「まぁどうせ使う予定の無かったものだ……すぐ溜まるし、良しとしよう」
「それと、フーガさんが毎月バザーをやりませんか? って」
「ずいぶん味をしめたな。物納品を毎月売るわけにもいくまい。商人ギルドで勝手にやるがいいさ。必要に応じてフェブリンらも参加させよう」
こうして、アルゴス・シュタットでは毎月のバザーと年一回のチャリティバザーが開かれることとなった。
やがてその噂はジュナイブからロマリアの港町ゼノヴィアにも伝わり、少しずつ遠方の観光客への呼び水となって行くことになる。
◆◆アルゴス・シュタット◆◆
主砦部
主砦(アムズフェルト家、兼備蓄倉庫)
正統教会
治癒院
居住区
北区
開墾地
堀
大型クル3軒
小型クル20軒
豚小屋
屠殺場
練兵所
東区
果樹園
宿屋
穀物庫
★孤児院
中央〜南区
フーガ商館(両替、交易、各ギルド)
複合住宅12軒
食料品店・雑貨店
布と仕立て屋、吊るしと古着屋
酒場・パン屋
冒険者ギルド・金物屋と革細工屋
★壺・箱屋・家具屋
★乾物屋・宝飾屋
西区
鍛冶場工房
温泉
職人街
機織・裁縫
細工・陶工
木工・革加工
南城壁
城門




