第六十八話 三年目の冬
十二の月……冬の始まり。
アルゴス・シュタットにはヤクール族が、ホッホラントには雪がやってくる。
この地域の冬はおよそ4ヶ月、雪解けは4月。多くの人々は長い冬に向けて買い込んだ食料を加工し、保存する。
その中でも各家庭の楽しみが新年祭に向けたシュトーレン作り。たっぷりのドライフルーツとバター。酒に浸けたナッツを加えて貴重な砂糖で閉じる。
エセルの暦で一年は360日。週6日の12ヶ月が終わると、エセル教会主催の5日〜6日間の新年祭が開かれる
この期間は誰もが家族と共に過ごし、甘く熟成させたシュトーレンに舌鼓を打つ。
もちろんゴブリンにそんな習慣はないのだが――
「フェブリンもシュトーレンを作るのか?」
「はい。彼女らもエセル教徒として、新年を一緒に祝いましょう」
「ピィ!」
エプロン姿で仲良くドライフルーツ作りに精を出すライラとレイラ、それにメイドとオカミ。
「ギュルルル……」
「既にギュスタに狙われてるが……作るのは良いとして、ゴブリンが少しずつ食べるなんて無理じゃないか?」
果樹園があるとは言え、アルゴス・シュタットの収穫量では作れる量などたかが知れている。貴重な果実をゴブリンに与えたらあっと言う間に消えるだろう。
「まぁオレは干し果実がそんなに好きじゃないから良いが……塩とバターは良いとしても、問題は砂糖だな」
「ジュナイブで買うと高いですからねー。グランベリーやロマリアなら沢山売ってるんですけど……」
「どっちもまだ交易してないからな。買っておけばよかったか」
「お兄さま、干し果実や砂糖なら実家のロレンツェからも取り寄せできますよ!」
「ふむ……レイラがそう言うなら間違いないか。メディスン家は交易できるのか?」
「もちろんです。ただ……担い手はロンドミル商隊ですけど」
「……それは問題ありだな。取引相手としては最悪だ」
「ですねぇ……」
「ちょっとフーガに相談してみるか」
――
「砂糖でしたら我が姫の為に買い付けておりますから、多少は卸せますよ」
「おぉ、それは助かる。この冬はフーガ家を頼るとしよう」
そう言えばあの人いつもパン代わりにお菓子食べてたな。
「今後はメディスン家を通してロレンツェと取引するのも悪く無いかと思います。ロンドミルだけが商家ではありませんからな」
「うむ。落ち着いたら乗合馬車を組み、ルートを確保できたら商隊を頼むとしよう」
問題はアルゴス・シュタットとロレンツェの間にある旧アムズフェルト領……都市ミラナの存在だな。
「それにしても……アルゴス・シュタットは平和ですな……ジュナイブは感染が広がり、都市封鎖も辞さない構えだと言うのに」
「まだ終息したわけではないが、重症者は少ないな。住民も若いし、うちで心配なのは爺やぐらいだ」
「我が家もこの冬はアルゴス・シュタットで過ごすとしましょう。姫もスキー場を楽しみにしております」
「うむ。それでは早速ご招待するとしよう」
――
「わぁーー! 雪の山だわ!」
モフモフの毛皮に身を包んだイセリア様とフェルディナ、アイナ。おまけのギュスタを連れてホッホラントの第一ゲレンデへやって来た。
ライラとレイラは治癒院とシュトーレン作りに勤しんでいる。
「ギュルルルル!」
「じゃあ私は下で待機してますんで……」
勢いよく駆け上がるギュスタとイセリア様を尻目に、コロコロと雪だるま作りを始めるアイナ。
「この第一ゲレンデがソリやスキーの練習をする遊び場となる。来年にはロープウェイを渡してもっと奥からも滑れるようにする予定だ」
「なるほど……価格の設定は?」
「利用は無料だ。乗合馬車とロープウェイで費用を取る。送迎2銀、一日乗り放題で3銀貨ぐらいかな?」
「乗合馬車が12席2往復として24名48銀……半分がロープウェイを利用すると36銀……一日で7金貨ですか。宿や食事も合わせると中々良さそうな商売ですな」
「とは言え、わざわざ金を払ってこんな所に遊びにくるのは富裕層ぐらいだろう。フーガ家は無料にするので是非広めてくれ」
「最近は活版印刷とやらでビラが増えております。紙を配るのも良いでしょうな」
「ほう……それは良いことを聞いた」
「リア様、離しますよ!」
「えぇ……キャアアアアア!!」
盛大にソリで滑り落ちるイセリア様。
――ズシャ
「ああー! 私の雪だるまが!」
アイナの雪だるまにぶつかった。
「アハハ、ごめんなさい!」
パンパンと雪を払い、一緒に雪だるまの頭を乗せ直す。
「……楽しそうですな」
「フーガ殿も滑ってくるといい。たまには運動もしないと病に負けてしまうぞ?」
フーガがちらりとゲレンデの小山を見上げる。
「わ、私はロープウェイができてからで……」
「やれやれ……こんな坂も登れんのか。仕方ない、ソリに乗るがいい。オレが運んでやろう」
「いえ! そんな――」
「ほれ、遠慮するな」
フーガの大きな体をどんと押し、ソリに乗せて小山を登りはじめる。
「アハハ、旦那さまずるい!」
「ひょえ……お、落ちる……」
「しっかり捕まっていろ……いくぞ」
「ひええええぇ!!」
対してスピードも出てないのに、悲鳴をあげて滑り落ちるフーガ。
――ズボッ
「あー! また私の雪だるまがー!」
「やだ、旦那さまが雪だるまになっちゃった! アハハハハハ!」
「出して、出してくだされーー!」
「フハ……フハハハ!」
その後、一同はびしょ濡れになるまで遊び尽くし、仲良く温泉で温まった。
イセリア様はスキー場を大変気に入り、イゼル大公家名義での別荘建築を快諾してくれた。
資金はフーガなので、大公家は名前だけを貸す形となる。実際に使うことはほとんど無いだろう。
魔導蒸気ロープウェイの設置費用はまだ保留……フーガが採掘まで手を延ばすかは大公家次第。
いずれにせよ、年明けには表向きの営業を始めるとしよう。
――ライラの帳簿(現金) 十二の月
【現金収入】
乗合馬車(25往復×12席)
カルデロ便 乗車率5割 =600ソル
ジュナイブ便 乗車率1割 =120ソル
◆小計 720ソル
宿 約250人 =250ソル
入湯料 約200人 =200ソル
人頭税 250人 =250ソル
◆計 1420ソル ≒142ダリヴル
【現金出費】
ゴブリン小遣い(200匹)
250ソル≒25ダリヴル
教会税(二割)≒28ダリヴル
臨時出費
魔導馬車追加 50金=60ダリヴル
砂糖仕入れ 10金=12ダリヴル
◆計 125ダリヴル
◆収支 142-125 =17ダリヴル黒字
◆累積現金残高 152+17 =169ダリヴル
――フーガの帳簿(預金) 十二の月
【収入】
ジュナイブ商隊
往復通行料(4隊×4輌) 320ソル
傭兵料(1ダラス18銀×8日) 144ソル
◆小計 464ソル
フーガ商隊
往復通行料(2隊×4輌) 160ソル
傭兵料(半ダラス12銀×4日) 48ソル
◆小計 208ソル
家賃
集合住宅 45戸 =450ソル
職人街 6戸 =180ソル
冒険者ギルド =100ソル
◆小計 730ソル
◆合計 1402ソル ≒140ダリヴル
【出費】
食費
※冬季市場価格・備蓄追加なし
日常食費(430人×1.25ソル) 538ソル
◆食費合計 538ソル
人件費
アクアライナ 90ソル
ヴォルフ 60ソル
フェルディナ 60ソル
ゴッズ 30ソル
ブランドル 60ソル
鍛冶師ギルド 100ソル
◆人件費合計 400ソル
建築費
複合住宅 石材加工費 240ソル
建築費 フーガ負担
◆建築費 240ソル
教会税(収入の二割) ≒280ソル
◆合計 1458ソル ≒146ダリヴル
◆収支 140-146 =▲6ダリヴル
◆預金残高 87-6 =81ダリヴル
◆トータル収支
17-6=+11ダリヴル黒字
◆残高
現金169ダリヴル
預金81ダリヴル
合計残高250ダリヴル
★複合住宅(2/3)
★食料備蓄(120日)
ジュナイブ便がどんどん減ってる……感染症怖い。
カルデロ便は療養に来る人が増えたよ!
シュトーレン用の砂糖も買えた!
来月は新年祭! 楽しみ!




