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追放騎士と銃装ゴブリン傭兵団  〜聖女とはじめる辺境の永世中立国〜  作者: ふろんちあ
宿場町の章

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第六十五話 治癒師ライラの温泉ライフ4

「その子を……お風呂にですか?」


「そうだ。足は傷だらけだし、臭くてたまらん。オカミと一緒に見てやってくれ」


「ギュルル!」


オカミにへばりついて離れない巡礼服の子ども……顔は垂れ下がった黒髪で覆われていて、男の子か女の子かもわからない。


「巡礼札は持ってるかな?」


「ギュル?」


ライラは懐を探り、石や骨……カビたパンの欠片に塗れた巡礼札を見つけた。


「名前はグスタフ……年齢不詳、女、孤児……ゼノヴィアからの巡礼者ですね」


「グスタフか……ギュスターヴと言えば男の名前だが……」


「……よく見ると女の子ですね。巡礼先は……エセル神聖王国!?」


「ギュル?」


ハルプの子どもを、山を越え、海峡を渡った先の国まで、一人で送り出したってこと?


「……ほぼ捨て子だな。エセル教会も(むご)いことを」


「……そっか、大変だったね。旅で疲れたでしょう? おいで、きれいにして、ご飯にしよう」


「ギュルルル!」


――


温泉に入り、オカミと一緒にグスタフをゴシゴシ洗う。


「うう……擦っても擦っても垢が出てくる……」


「ピィ……」


「ギュるん!」


「お湯で流すね?」


ザパリとぬるめたお湯をグスタフに被せる。


「ブルルルル!」


「……髪は切ったほうがいいね」


くっついてて櫛も通らないし、温泉から出たらメイドに切ってもらおう。


「じゃあ温泉に入ろっか。熱いから気をつけてね」


「ギュル……」


「ピィ」


野生児のようなグスタフがオカミに手を引かれ、足先から恐る恐る温泉に浸かった。


「ギュル……」


「洗うと結構かわいいかも……綺麗になったら、足の治癒もしてあげるからね」


「……ぶくぶくぶくぶく」


「わっ! わっ! 沈んじゃダメ!」


――ザパッ!


「ギュー!」


潜って泳ぎ、温泉の端からグスタフが飛び出した。


「アハハ、温泉が気に入ったみたいでよかった」


「ピィ」


――


「お、ずいぶん綺麗になったな」


「ギュル!」


温泉から上がったグスタフは黒髪を短く整え、足を癒し、小さめのゴブリン服に身を包んで可愛らしい感じになっていた。


「薄緑の肌に黒髪黒目……異国人とゴブリンのハルプだろうな」


「そうですね……孤児みたいですし、巡礼に来たということは、教会の孤児院から来たのでしょうけど……」


「……どうするんだ? 巡礼者なんだろう?」


「普通は旅の安全を祈って送り出すのですが……エセル神聖王国はちょっと……多分この子の意思でも無いでしょうし」


「まぁそうだろうな。どうみてもただの厄介払いだ。ハルプの子など、誰も望まん」


ゴブリンの群で産まれたハルプは、成長の遅さからほとんど生き延びられない。そして街で産まれたハルプは多くが処分される。


仮に育てられたとしても、ゴブリン由来の声帯のせいで言葉も得られず……社会に排除される。


どちらにも混ざれない、混ざりもの(ハルプ)


「ギュル?」


「ヴィクトル様……ここで面倒を見るわけにはいきませんか?」


「言うと思ったが……一度受け入れたら各地からハルプを送り込まれるぞ。ゼノヴィアも大方、それが狙いだろう」


ゴブリンの住む街なら、ハルプの巡礼者を受け入れるだろうと。


「ピィ……」


「そうですよね……うちにそんな余裕なんて……」


「ピィ……ピピィ!」


「……オカミが面倒みるのか?」


「ピィ」


「ギュルン……」


「わかったわかった……教会に孤児院を依頼しよう。そこで教導して……」


教導して、そこから先が問題だ。育ったハルプをゴブリンとして扱うのか、人として扱うのか……。


「……一番立ち位置が近いのはフェブリンだ。家の仕事を手伝えるくらいには躾けるとしよう」


「よかった……グスタフ、ここで暮らせるよ」


「ギュル!」


「その見た目でグスタフも無いだろう……ギュルギュル言ってるし、名はギュスタとしよう」


「はい。良い名だと思います! ……これからよろしくね、ギュスタ」


「ギュル?」


――


孤児院ができるまで、ギュスタはオカミの宿で暮らす事になった。母娘のように働く二人をライラは温かく見守ったが、旅の客には奇異の目で見られ続けた。


忌避、憐憫、不必要な哀れみの施し。誰もがギュスタの姿から目を背けた。


当の本人はそんな事を気にせず、オカミにべったりと懐いていた。未熟期のゴブリンのように、母の面影をみていたのだろう。


グノシス神父は変わらずフェブリン相手に紙芝居での教導を続けており、ギュスタも毎日欠かさず教導を受けた。


「ギュル?」


ある日ギュスタは紙芝居の絵を指さし、首をかしげた。


「これはクルと言うお家です。ヤクール族やゴブリンの家族が住んでいますよ」


「ギュルー」


木炭の欠片を持って、紙芝居の絵を上塗りしていくギュスタ。グノシスの描いた丸っこいクルの形が台形に変わっていく。


「うん……? ああ、形が違いましたか」


ギュスタはモクモクと沢山のクルを描き足していった。


「……ギュスタは絵が上手ですね。紙芝居の絵を描いてみますか?」


「ギュー!」


ギュスタの絵に特別な技法は無く、とりわけ感動するほどの異才を感じるものではなかった。


その絵は神を知らず。想像を知らず。宗教的モチーフとしてよく描かれる天使も悪魔も描かれなかった。


ただ、目に映る景色をそのままに、ありのままに描き続けた。


後世はそれを写実主義と名付けるが、ギュスタの絵がそう呼ばれるようになるのは、もう少し先の話。


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