第六十話 モンフェラン開発計画
――ダァン!
「……どうぎゃ?」
「正直……使いづらいな」
「ギィ……」
ヴィクトルはスナイプと共に、新型どんぐり弾と改良銃の試作品を試し撃ちしていた。
「装填の手間、薬莢の排出、焼けたコルクの煤、そして命中精度のぶれ……どれも今までより使いづらい」
「そうきゃ……」
「しかし……ドル爺から弾は量産しやすくなったと聞いた」
「せやろな。今までは鍛冶師が手作業で閉めとったんやろ。一つ一つが職人の一点ものぎゃ」
「安全と量産性の向上……対価としての使いにくさ。多少のトレードオフは仕方あるまい」
撃ち終えた銃を掃除しながら、ヴィクトルは嘆息した。
「ふぅ……それならよかったぎゃ」
初仕事の評価にホッと息をつくモル親方。
「ただコルク薬莢はやはりイマイチだ。紙にできんか?」
「紙で薬莢きゃ? 濡れたら駄目にならんきゃ?」
「水を通さん薄い油紙にすればいい。まぁそれはドル爺任せでもいいが。それと排莢の機構だ。中折れ式にする時はそれをつけてくれ」
銃身を引くような動作で、銃身の異物を取り出す動きを伝えるヴィクトル。
「わかったぎゃ。んで、運用の方向性は決まったぎゃ?」
「ああ……中折れまでは今のベースでいい。ただ、二連式は辞める」
「ふむ?」
「そこから先は、近接と簡易化に注力したい。散弾を飛ばすんだ」
「散弾?」
「そうだ、今の銃は遠距離から装甲騎士を殺すための兵器だ。そして致命的すぎて治癒ができない……強すぎるんだ」
ヴィクトルが首を振り、銃を置く。
「その目的を貫通から制圧に変えたい。安価かつ威力を下げ、命中精度を散弾化してより面での制圧力を高める」
「近接用にするんきゃ? そんなん城壁から撃っても届かんで。」
「それは今の銃でいい。新型銃の目的は乱戦と鎮圧とする」
「なるほど……わかったぎゃ」
モル親方は深く頷いた。
「まずは改良からだ。約束の金貨100枚だ……よろしく頼むぞ」
ヴィクトルはじゃらりと重い革袋を託し、モル親方はゴクリと息を呑んでその袋を受け取った。
――
その後家臣を集め、今後の採掘事業について会議の場を設けた。
「さて……柘榴石に関してだが、鉱床らしき地帯は見つかった」
「ホウッ、それでは早速採掘事業を始めますか?」
「いや……あまり表立って動くわけには行かなくなった。柘榴石の鉱床のさらに先には、水晶の鉱床があるとみた」
水晶と言う単語にざわつく家臣一同。ブランドルが眉をつり上げ思案する。
「水晶とは……柘榴石と比べると価値が数倍、銀にも劣らぬ採掘資源ですな」
「そうだ、それがモンフェランのもっと上流……恐らく、美しき大氷河にある」
「レーヌ・ド・グラース?」
この辺りの土地勘がないライラが首を傾げる。
「モンフェランの峠付近の氷河だ。とんでもなく美しく、そして恐ろしい場所と聞く」
冒険者時代、噂は何度も聞いたことがある。『モンフェランの永久氷河にはお宝が眠る』と。
「表立って動けば、周辺国家を刺激しよう。石橋が完成するまでは川浚いで小ゼニを稼ぎ、手前の高原開発に注力して実効支配を強めるべきだ」
「ふむ……また金にならん投資がかさみそうですのう」
「高原にも宿場町を作るんですか?」
「うーん……どうだろうな。高原はここより標高が高くて、年の半分近く雪が積もる。ランディルみたいな蛮族ならともかく、流石に人は暮らせなくないか?」
「私は雪が積もってたら遊びに行きたくなります!」
「ライラは呑気だな……騎士や兵士は雪山と聞いただけで恐ろしさで震えるんだが……」
待てよ、どうせ水晶目当てに登山しないといけないなら……。
「なんなら……スキー場にしてみるか」
「スキー?」
「雪軍用の木板のことだ。ランディが得意で昔教わった。荷物運搬用のソリでもいいが、あれで坂を滑ると結構面白いんだよ」
「わ! 楽しそう!」
「露出した岩を露天掘りして柘榴石を回収する。そうしてなだらかになった斜面をスキーで滑れるようにすれば、退屈してる貴族が釣れるだろう」
主にイセリア様だが。
「敢えて冬に人を呼び込むわけですか。しかしどうやって山を登るので?」
「魔導蒸気機関のロープウェイだ。カルデロの採掘ギルドならお手の物だろう。夏は採掘、冬はリゾート……一石二鳥の開発計画だ」
「ほんとに大事業ですねぇ」
「またいくらかるか分からんことを……」
「表向きは観光開発、その実は採掘……二段構えの開発事業と行こう」
ヴィクトルの頬がニヤリと歪む。
「町の名前は何にします?」
「高地の町だからな……ホッホラントとでも呼ぼう」
「なんだか可愛らしい響きですね!」
ホッホラント、ホッホラントと歌いながらライラは帳簿の記帳を始め、いつの間にか金貨が100枚も無くなってることに驚愕した。
――
ホッホラント開発事業計画
第一段階 道作りと柘榴石の川採取
第二段階 宿場町と柘榴石の露天掘り
第三段階 蒸気ロープウェイの設置
第四段階 水晶採掘とスキーリゾート
――ライラの帳簿(現金) 六の月
【現金収入】
乗合馬車(7往復×24席)
カルデロ便 乗車率7割 =236ソル
ジュナイブ便 乗車率6割 =202ソル
◆小計 438ソル
宿 約250人 =250ソル
入湯料 約200人 =200ソル
人頭税 200人 =200ソル
臨時収入
柘榴石 20個×5銀貨 =100ソル
◆計 1188ソル ≒119ダリヴル
【現金出費】
ゴブリン小遣い(200匹)
250ソル≒25ダリヴル
教会税(現金収入の二割) 24ダリヴル
臨時出費
モル親方開発費 100金貨=120ダリヴル
ホッホラント宿屋建設 24ダリヴル
◆計 193ダリヴル
◆収支 119-193 =▲74ダリヴル赤字
◆累積現金残高 265-74 =191ダリヴル
――フーガの帳簿(預金) 六の月
【収入】
ジュナイブ商隊
通行料(4隊×4輌×2往復) 320ソル
傭兵料(1ダラス×8日) 144ソル
◆小計 464ソル
フーガ商隊
通行料(2隊×4輌×2往復) 160ソル
傭兵料(半ダラス×4日) 48ソル
◆小計 208ソル
家賃
集合住宅 30戸 =300ソル
職人街 6戸 =180ソル
◆小計 480ソル
◆合計 1152ソル ≒115ダリヴル
【出費】
食費
※卸値六割
日常食費(430人×0.75ソル) 323ソル
備蓄積み立て(15日分) 161ソル
◆食費合計 484ソル
人件費
アクアライナ 60ソル
ヴォルフ 60ソル
フェルディナ 60ソル
ゴッズ 30ソル
ブランドル 60ソル
鍛冶師ギルド 100ソル
◆人件費合計 370ソル
建築費
集合住宅 石材加工費 240ソル
建築費 フーガ負担
◆建築費 240ソル
教会税(フーガ収入の二割) 230ソル≒23ダリヴル
◆合計 1324ソル ≒133ダリヴル
◆収支 115-133 =▲18ダリヴル
◆預金残高 121-18 =103ダリヴル
トータル収支
▲74-18=▲92ダリヴル
★銃と弾が改良!
★集合住宅二軒 建設中(2/3)
★食料備蓄(45日)
モル親方への開発費とホッホラント宿屋で一気に赤字!
でも柘榴石が売れ始めたよ!
来月から収入増えるといいな……




