第五十八話 借金と税金と人件費
「あの……ヴィクトル様にお願いが」
アルゴス・シュタットに戻り、ヴィクトルが執務室で溜まった仕事を片付けていると、ライラがおずおずとやって来た。
「なんだ改まって?」
「私にもお小遣いをいただけないかと……」
「うん? もちろん構わないが、いくらぐらいだ?」
「その……月20金貨ほどいただけたら……」
「ぶっ!」
日当にして8銀。ライラの仕事ぶりと領主夫人としてはギリギリ許容範囲だが、普段節制を心がけているライラにしてはあまりに唐突すぎる。
「ライラ……使い道を正直に言いなさい」
「あの……それは……えっと……」
しどろもどろのライラ。
「おおかた修道院での話だろう? 教会絡みならちゃんと話してくれ」
「はい……実は、実家が……破産しそうなんです」
「む……? 借金があるのはわかるが、そんなに酷いのか?」
「最近借金の取立てが激しくて、今度は妹が奴隷に取られそうなんです……それで、もう家族が奴隷にされるぐらいなら破産しようと」
「ロンドミルが攻める方向性を変えてきたか……それで、月20金貨あれば返済できるって事だな?」
「はい……すいません」
「ライラ、家族を想う気持ちはわかるが、20金貨はダメだ。金額よりも使い方が悪い」
「そう……ですよね」
「返済が月20金貨と言う事は、借金総額は二千金貨を下らんだろう。ライラはそれを負担する覚悟はあるのか?」
「……無理です」
「じゃあ諦めろ。街内で使う小遣いとはわけが違う」
「……はい、すいませんでした」
しょんぼりしながら扉に向かうライラの背中……ヴィクトルは一息嘆息し、その背中に声をかけた。
「……教会になら、そろそろ税を納めるつもりでいた」
「え……?」
「聖グランベリー修道院との縁もできた。アムズフェルト家の税として一割、住民としてゴブリンが負担すべき税の一割。収入の二割相当を納めれば、教会も便宜を払ってくれるだろう」
「えっと……それ20金貨より高くなりませんか?」
「言っただろ? 使い方の問題だと。治癒院も人手不足だ。メディスン家に縁のある優れた治癒師を赴任してもらえるよう、ライラからも頼んでおいてくれ」
「は、はい! ありがとうございます!」
ライラはペコリと頭を下げ、軽い足取りで教会へと向かっていった。
メディスン家の財政まで面倒は見られない。そこは教会に任せて、せめて妹だけでも保護してもらえるといいが……。
――
入れ違いでやって来るアイナとフェルディナ、そしてブランドル。人件費の見直しをするために呼んだ3人だ。
「そろそろアイナが来て一年……契約更新時期だな」
「お給金上げてくれるんですか!?」
呑気に声を上げるアイナ。
「たった今……そんな余裕は無くなった。だいたい、お前の仕事減ってるだろ?」
「いや、ほら、その分街道とか温泉の清掃とかやってますし」
「アイナの給金を上げるくらいならフェルディナの給金を上げる」
「わぁい。でもそれより門衛を増やしてほしいです」
「あー……ゴッズでもいいか?」
ゴッズは贖罪を終えたが、当然死んだものとして遺産を分配されていた。ヴィクトルは行き場を無くしたゴッズに泣きつかれていた。
「信用できます?」
「いや全然。そもそも片腕で足も悪い。だが火と読み書き算術ができるし、受付ぐらいはできるだろ」
「まぁそれならいいですけど……」
渋々と了承するフェルディナ。実質ゴッズの監督でもあるし、給金は上げる必要がある。
「アイナは引き続き日当2銀で契約金は支払えん。辞めたきゃ大家にでもなれ。フェルディナは2銀に昇給、ゴッズは1銀とする。あとドル爺にもせめて年金分ぐらいは返したい。これも2銀だ」
「おお、まさかわしにも給金が出るようになるとは……立派になりましたなぁ」
目尻の下がったドル爺の生暖かい視線がちょっと腹立つ。
「それとメスゴブリン……フェブリンにだけ小遣いと言うのもオスに悪い。オスにも日当一古銅貨相当の小遣いをやろう」
「市場に入れないのに、渡す意味あります?」
「意味はある。フェブリンに貢ぐと喜ばれるからな。一々メスを充てがうのも面倒になって来たし」
「あぁ、なるほど」
「で、先ほどライラと話したが、今後は教会に二割の税を納める」
「……そんなに出費を増やして、大丈夫なのですかな?」
「大丈夫じゃない……その分こちらも税収を増やすべきだが……」
「うちで取れるのは粉挽き税と人頭税ぐらいですな」
「ろくな農作物がないのに粉挽き税とってもな……」
「では人頭税ですかな……?」
「うむ。年1金貨と言った所だろうが……大半が難民とゴブリンなんだよなぁ」
「まともな住民はアパルトメントと職人街ぐらいですよ? せいぜい200人ぐらいです」
パラパラと台帳を巡るフェルディナ。
「まぁそれでも月にして200銀だ。支払えない者は有事の兵役と労働奉仕を義務付ける。これなら平等だろう」
労働奉仕で人手が安定すれば乗合馬車も増やせる。多少は収入も増えるだろう。
「ふむ……一都市から一領主へと代わり始めましたな」
「そうだな……そろそろ基盤を支える大きな事業が欲しいところだ」
「傭兵ではなくてですか?」
「ぶっちゃけ今は傭兵の仕事がない。山ゴブリンが発見した柘榴石……これがほんの一部だとしたら――」
引き出しから取り出した柘榴石を、コロコロと転がしながらヴィクトルが続ける。
「モンフェランには、宝石が眠っているかもしれん」
――ライラの帳簿(現金) 五の月
【現金収入】
乗合馬車(7往復×24席)
カルデロ便 乗車率7割 =236ソル
ジュナイブ便 乗車率6割 =202ソル
◆小計 438ソル
宿 約250人 =250ソル
入湯料 約200人 =200ソル
人頭税 約200人 =200ソル
◆計 1088ソル ≒109ダリヴル
【現金出費】
ゴブリン小遣い(200匹)
200×1ゼニ×30日 =3000ドニ=250ソル≒25ダリヴル
教会税(現金収入の二割) 22ダリヴル
臨時出費
羊小屋・羊代 24ダリヴル
◆計 71ダリヴル
◆収支 109-71 =38ダリヴル黒字
◆累積現金残高 227+38 =265ダリヴル
――フーガの帳簿(預金) 五の月
【収入】
ジュナイブ商隊
通行料(4隊×4輌×2往復) 320ソル
傭兵料(1ダラス×8日) 144ソル
◆小計 464ソル
フーガ商隊
通行料(2隊×4輌×2往復) 160ソル
傭兵料(半ダラス×4日) 48ソル
◆小計 208ソル
家賃
集合住宅 30戸 =300ソル
職人街 6戸 =180ソル
◆小計 480ソル
◆合計 1152ソル ≒115ダリヴル
【出費】
食費
※卸値六割
日常食費(430人×0.75ソル) 323ソル
備蓄積み立て(15日分) 161ソル
◆食費合計 484ソル
人件費
アクアライナ 60ソル
ヴォルフ 60ソル
フェルディナ 60ソル
ゴッズ 30ソル
ブランドル 60ソル
鍛冶師ギルド 100ソル
◆人件費合計 370ソル
建築費
集合住宅 石材加工費 240ソル
建築費 フーガ負担
◆建築費 240ソル
教会税(二割) 230ソル≒23ダリヴル
◆合計 1324ソル ≒133ダリヴル
◆収支 115-133 =▲18ダリヴル
◆預金残高 139-18 =121ダリヴル
◆トータル収支◆
38-18=+20ダリヴル黒字
★羊小屋と羊追加
★教会税二割追加
★人件費更新
★物納で雑費が不要に!
★弾薬費も鍛冶屋ギルドにお任せ
★集合住宅二軒 建設中(三分の一)
★食料備蓄(30日)




