第五十四話 鍛冶師モルと休息日
「……これがゴブリン銃と、どんぐり弾きゃ」
ゴーグルを額につけた小柄な鍛冶師、親方モルとヴィクトルは、ランディルの残した銃の構造を確認していた。
「そうだ。契約した通り、弾は軍事機密だから扱いに注意してくれ」
「それはもちろんやが……これ、危険すぎきゃ?」
どんぐり弾を丸っこい指で摘み上げ、慎重に眺めながら言うモル親方。
「一応取扱いには細心の注意をしているが……なにか問題なのか?」
「弾頭に火薬を込めた導火線が繋がっとるっちゅうことは、弾薬庫に火がついたら全部爆発するぎゃ?」
「……まぁそうだな」
「雨に濡れたら、全部駄目になるぎゃ?」
「……うむ」
実際、よく駄目になっている。
「……少し改良が必要やぎゃ。弾と火薬はええとしても、導火線は分けて発射前に接続する方がええ」
「ふむ……それなら銃にそういう機構を作って欲しい。ゴブリンに細かい作業は任せられん」
「……ほな必要なんは、弾を固定して、着火の代わりに導火線を付ける機構やぎゃ」
「うむ。出来そうか?」
モルがゴーグルの位置を直しながら不遜に頷く。
「フリントロック機構よりは簡単やぎゃ。要は銃の中で弾を完成させればええ。弾頭は後ろをコルク詰めにして、撃鉄で導火線を刺す。後ろから押し込むから前装式を後装式に変えちゃろ。どや?」
「……なるほど。導火線の位置も固定されるし、それはいいな」
「準備動作に導火線のセットと撃鉄を起こす手順は増えるぎゃ、安全面は確保できるはずや」
「……改良するなら、ついでに二連式にしたいんだが、どうだ?」
モルが腕組み考えて……ゴーグルを拭き始めた。
「あまりお勧めしやんね……コストは二倍やのに、故障率は上がる。狙いはブレるし手入れがしにくい。二丁作るほうがマシやぎゃ」
「そうか。中の手入れがしにくいか……中折れ式にしたり、撃つたびに次弾が装填されるような仕組みはどうだ?」
「中折れ……?」
ずんぐりむっくりな太い首を傾げるモル。
「こう、銃身がパキって折れて、弾を込めて、ガチャって戻る感じ」
ヴィクトルが身振り手振りしてると、モルはテーブルに紙とペンを取り出した。
「……ちょっと、図にしちゃる」
ヴィクトルのふわふわしたイメージを、モルが簡単な図面に起こしていく。
「……すごいな。こんな精密な絵がかけるとは」
「親方と職人の一番の差は、図面引けるか否きゃや。設計図通りに作れれば職人。それ以下が徒弟や」
「ランディは設計図なんて描いてなかったもんな」
「前のは相当な感覚派やぎゃ。ひたすら作って、試行錯誤しちょったんやろな」
「……そうだな、毎日ひたすらに鉄を打っていた」
使い古された金床をさすりながら、ヴィクトルが言う。
「ええ職人やぎゃ……いっぺん会うてみたかったぎゃ」
「まぁ、気が難しいだけだ。そのうち会えるだろう」
「とりあえず形は分かったやぎゃ、そう簡単にゃいかんで。構造はおいが考えよるから、旦那はどう言う運用がしたいんか考えといてくれ」
「運用思想か……」
「せや。簡単にしたいんきゃ、連発したいんきゃ、威力をあげたいんきゃ……なんもかんもはできんで」
その後、ヴィクトルとモルは段階的な銃の開発計画を立てた。現在は第一段階。段階が進むごとにおよそ開発費100金貨の見込みとなる。
第一段階―既存銃と、どんぐり弾の改良
第二段階―中折れ式銃の開発
第三段階―中折れ式二連銃の開発
第四段階―次弾自動装填法(未定)の開発
バトルボアは下手に触ると直せないので、当面は主砦にしまって、ランディが来た時にメンテナンスしてもらうことにした。
――
「ある日、疲れ切ったエセルは言いました。『いい加減、私にも休息する日が欲しい』と。そうして6日に1日を休息日と定めるようになったのです」
グノシス神父が教会の暦帳を示しながら続ける。
「エセル教の暦では一週間は6日。月の日、火の日、水の日、風の日、禁の日、休息日。禁の日は肉や酒を断ち、休息日は自身や家族を労ってあげてください」
教会でグノシス神父の説法を聞いた帰り、新しくできた店を視察するため、二人で街に向かうヴィクトルとライラ。
「エセルの言葉……案外俗っぽいセリフ多いんだな……」
「原典のエセルは結構人柄が出てますよ〜。それがいいんですよねぇ」
「そうか……逆に後世のほうが神格化してるわけか」
「わぁ、ヴィクトル様! パン屋さん、パン屋さんですよ!」
「新しくできたのはパン屋と酒場か。フーガめ、食料を無税にしたからって早速増やしたな。酒はちゃんと一割納品させるぞ」
「いい匂いですね〜。屋台と違って、焼きたての香りですよ」
クンクンしながらパン屋に向かって歩き出すライラ。
「ハハハ、みんな吸い込まれるように入っていくな。オレは酒場で麦酒と腸詰の方が好みだが」
「そろそろ豚さんも大っきくなってきましたからね〜」
「酒もここで作れればいいが……ここらじゃ作れるのもせいぜい大麦と芋ぐらいだからな」
「高原でヤクーを育てるのはどうですか?」
「流石にヤクーは無理だろ……。移動するし暴れるし、ゴブリンより強い。まぁいいとこ羊だな」
「わぁ! 羊さんはいいですね〜」
「帝国軍すら恐れをなした男がいれば、狼もいなくなるだろう」
「ヴィクトル様、せっかくだから酒場でお話しませんか?」
「おっとそうだな。じゃあ、手ごろなパンを買ってから行こう」
「はい!」
焼きたてのパンを買い、酒場のスウィングドアを通ると、奥側の席につくヴィクトル。
「主人、このパンに焼いたブルストを挟んでくれ。それと麦酒だ」
「私は果実酒と……炒り豆とドライフルーツの盛り合わせを」
やがて給仕の娘がホカホカのブルストサンドと、酒とつまみを持ってきてテーブルに広げた。
ヴィクトルが娘に銀貨を渡し、釣りは労う。
「……それじゃあ職人街の完成と」
「春の到来を祝って」
「「乾杯!!」」
◆◆アルゴス・シュタット◆◆
主砦部
主砦(アムズフェルト家、兼備蓄倉庫)
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複合住宅6軒
食料品店・雑貨店
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★酒場・パン屋
西区
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温泉
★職人街
機織・裁縫
細工・陶工
木工・革加工
南城壁
城門
エセル教の一年は6日✕5週間✕12月と新年の祝祭日(5日〜6日)です。




