第五十一話 勝利の余韻
「ヴィクトル様、教会からゴッズさんの賠償金が届きましたよ」
「おぉ、早いな!」
主砦から賑わいを取り戻した街を見下ろしていると、ライラがやって来た。
「はい! 贖罪は最初に財産没収ですから、現金化できる財産はすぐ被害者に補填されます。お家とか残った資産は、無事戻ってきたら返却されます」
「……帰ってこれなかったら?」
普通に考えて帰ってこれないが。
「巡礼前に書いた遺書に則って遺産になりますね」
「あ、ちゃんと書かせてるんだ」
やっぱり帰ってこれない前提だった。
「そうならないように、祈ってあげましょうね」
「まぁ気が向いたら……それで、いくらだった?」
「100金貨から農村三村に60金、アムズフェルトに25金、ジュナイブに15金ですね」
「思ったより溜め込んでたんだな……被害状況次第だが、各村も20金あれば立て直せるか」
「教会への献金はいくらにしますか?」
「あ、そういうのもいる感じ?」
「まぁ……無理にとはいいませんが……」
ゴッズの財産から勝手に回収してるとは思うが……まぁ裁定を丸投げした分、こちらからも心付けするべきか。
「じゃあ一割……だとケチっぽいよな。4金貨ぐらいでいいか?」
「はい!」
よくよく考えると、アムズフェルト家は税金を支払っていない。教会への献金は今後も欠かさないようにしたほうがいいな。
「よし、それじゃあフーガ商館のお披露目に行くとしよう」
「あ……ドレスに着替えたほうがいいですか?」
「……オレはそのゴブリン服のほうが好きだが」
やはり足が見えるのは良い。イセリア様がちょくちょく着てるので、ジュナイブでも流行りだしてるらしい。
「もう! 足ばっかり見ないでください! 着替えてきます!」
……ライラのドレスも、もう少し用意してやらないとな。
――
ベイリー区のど真ん中、通りの真正面に石造り五階建て商館が出来上がった。
中央は馬車が入れる吹き抜け構造。左右に分かれた両替屋と交易所。
中に入れば商人ギルドと職人ギルド。二階はそれぞれの執務室と会合室。三階に大ホール……四階五階は尖塔型の住居スペース。
「まるでちょっとした城だな」
「すごいですね〜!」
色々覗きながら大ホールへ向かうと、すでに立食パーティーの準備が行われていた。
「ヴィクトル様、ライラ様。ようこそいらっしゃいました」
何層も重なるひらひらな黄色いドレスをまとったお姫様のようなイセリアが典雅な礼で出迎える。
……まぁ、実際お姫様か。
「イセリア・アンティローネ様、この度はフーガ商館の落成式へのご招待、誠にありがとうございます」
「心よりお喜び申し上げます」
ヴィクトルに続き、ライラも貴族の礼で応じた。
「あはは、貴族ごっこはここまでにしましょ! 私ももう庶民だからお硬いのは無し! 今日は立食だから好きに食べて飲んでいってね」
ドレスの裾を摘んで、あちこちパタパタ挨拶に回るイセリア嬢。なんというか、実に楽しそうだった。
フーガも挨拶回りで忙しく、軽く挨拶を交わし乾杯した後、遠慮なく豪華な食事を堪能した。
――
パーティーも終わり、落ち着いた頃合いでフーガと今後の事を話し合う場を設けた。
「商館も完成し、アパルトメントも二軒追加。職人ギルドも出来て、職人街も建設予定……と、順調だな」
「えぇ、今後は商取引もどんどん増えますよ」
ポンポンと恰幅のよい腹をさするフーガ。
「次は何が入るんだ?」
「食・住と来たらやはり衣服ですな。一階の店舗は中型二つに分けて、それぞれ布屋と仕立て屋。吊るし服屋と古着屋の四店舗が入ります」
「……まるで都市だな。そんなに服屋がいるのか?」
「順序で言えば宿と飲食店を増やすべきですが、閣下の宿と屋台が繁盛してますからな。まずは不足している布を揃えようかと」
「まぁ確かに……ちょうどライラの服も増やしたいとは思っていた」
「是非仕立て屋にご注文を。……それで、アルゴス・シュタットの関税と取引税についてなのですが……」
「うむ」
フーガの目が細まり、ゴクリと息を呑む。
「今は投資期、人や商人が集まるのを見込み、二年……税をかけないと言う方針はいかがでしょう?」
「無税か……まぁオレも払ってないし、正直計算も面倒だが、それでやっていけるのか?」
「お預かりしてる帳簿をみる限り、これだけ投資しながら黒字経営です。問題は無いかと」
表情を隠すように、フーガが頭を下げる。
関税と取引税を無料にして一番喜ぶのは当然フーガ。とは言え今は人を増やすべき時期……考えは悪くない。
「確かに、いい考えかもしれん。オレも細かい数字の管理は苦手だしな」
「では……!」
「とは言え、無税はダメだ。周辺国を無駄に刺激するし、今後もアルゴ砦は籠城に耐える十分な備蓄を蓄える必要がある」
「むむむ……それでは、5%ほどでは?」
「いや、そんな数字は管理できん。予定通り一割とする」
「閣下、それは高す――」
「――ただし、物納を許可する」
「物……納?」
「オレは元々強盗騎士でな、関税として積荷の一部を貰い受けていた。実際、ゴブリンが多すぎて金より物の方がありがたかったのだ」
「つまり……?」
パチパチとフーガの瞼が見開きする。
「交易品は仕入れ値の一割、商店は卸値価格で一割相当の商品を税とする。売れ残りでも構わん。そして、食料品は無税とする」
品にもよるが、かかる税額はそれぞれ6%弱。仕入れを安くするほど税も軽くなり、売れ残りで代納すれば――フーガの算盤は実質4%と弾き出した。
「ふむ……良さそうですな。ただ、食料こそ一番備蓄が必要なのでは?」
「だからと言って腐りかけの売れ残りを納品されても困る。その代わり、ゴブリンと巡礼者への売り渋りの禁止と、銅貨以下の専用メニューを用意することを義務付ける。量は多めにな」
「食料で納める農村と逆の構造と言うわけですか……仕入れ値を誤魔化される可能性はありますが」
「そこはゼニ勘定が得意な貴殿の腕の見せ所だ。よろしく頼むぞ」
日夜増える仕事量に、さすがのフーガも汗をかき始めた。しかし、甘い汁を吸う余地は十分用意されている。フンスと鼻息荒く、フーガは太鼓腹を揺らして意気込んだ。
――
その月からアルゴ砦の倉庫には雑多な不用品……ゴブリンが日常使いできる服や道具が大量に届くようになった。
また、屋台では格安のゴブリン飯、巡礼者飯が用意された。それがまた妙に売上を伸ばすものだから、各屋台はそれぞれが創意工夫に精を出していった。
――ライラの帳簿 二の月
現金収入
乗合馬車 2ソル
全7往復(12席✕2回)=168席
砦―カルデロ往復
乗車率7割=118席
=236ソル
砦―ジュナイブ往復
乗車率6割=101席
=202ソル
小計438ソル
宿1ソル
約250人=250ソル
入湯料1ソル
約200人=200ソル
臨時収入
ゴッズ財産補填 25金貨=30ダリヴル
計1188ソル
合計約119ダリヴル
現金出費
ゴブリンへのお小遣い 10ダリヴル
雑費 9ダリヴル
献金 5ダリヴル
臨時出費
追加弾薬費 5ダリヴル
兵士・義勇軍労い 35ダリヴル
祝勝宴費 12ダリヴル
計 76ダリヴル
119-76=43ダリヴル
現金黒字 43ダリヴル
封鎖が明けたと思ったら一気に出費!
でもゴッズさんのお金で助かった!
現金残高
94+43=137ダリヴル
――フーガ商会帳簿 二の月
収入
ジュナイブ商隊 小計464ソル
通行料10ソル
2往復(4隊✕4輌)
=320ソル
傭兵料 1ダラス18ソル
8日=144ソル
フーガ商隊 小計208ソル
通行料10ソル
2往復(2隊✕4輌)
=160ソル
傭兵料 半ダラス12ソル
4日=48ソル
家賃10戸 100ソル(来月10戸入居予定)
合計772ソル
約77ダリヴル
出費
食費370人 一日16ソル ※市場価格
16ソル✕30日
=480ソル
※備蓄なし・市場買付
人件費3ソル×30日
=90ソル
弾薬費3ソル×12日
=36ソル
小計126ソル
建築費
集合住宅
石材加工費 240ソル
建築費 フーガ負担
職人街建築費(二階建住居兼工房・三ヶ月継続一回目)
建材費 240ソル
建築費 120ソル
小計360ソル
合計1206ソル
約121ダリヴル
収支
772-1206
=▲434ソル
=▲43.4ダリヴル
預金残高
246.4-43.4
=203ダリヴル
集合住宅二軒建設中(完成三ヶ月・一回目)
※現在4軒
職人街建設中(完成三ヶ月・一回目)
※二階建住居兼工房6戸




