第五十話 私闘で得たもの
「貴様がゴッズ・リヒテルンゲンか」
ずぶ濡れで犬に咥えられた、強盗騎士ゴッズがヴィクトルの前に引っ立てられた。
「へへ……おみそれしました。ロンドミルの証文はお返ししますのでどうか……」
「そんな濡れた羊皮紙に興味は無い。貴様がこの近隣都市にもたらした被害、どう落とし前をつけるつもりだ?」
「ロ、ロンドミルから保釈金を……」
「もういい、お前はこの街の法で裁く」
「ちょっ!? 身代金は!」
「リヒテルンゲン家が払うというなら聞くつもりだったが、ロンドミルでは話にならん。誰が証文を売り払った傭兵如きの身代金を払うと言うのか」
もがくゴッズの首根っこをヴォルフが掴む。
「閣下、どうされるおつもりで?」
「アルゴス・シュタットの法は正教会だ。グノシス導師の元に連れて行き、贖罪の導きを求めろ」
「労苦ではなく贖罪ですか……。領主としては珍しい裁定ですね」
「人手は余ってるからな」
「……はっ? なんだって、贖罪?」
「知らんか? 巡礼行だよ。素足で銅貨も持たず、聖地へ向かう旅だ。せいぜい頑張って冬のモンフェランを越えるんだな」
ヴィクトルの冷たい視線がゴッズを見下ろす。
「い、いやだ! 頼む、金ならある!」
「貴様の財産は正教会を通じて差し押さえる。全て被害者への弁済に充てられると知れ」
「いやだぁ!」
ずるずると引きずられ、ゴッズは正教会へと連れられた。
――
街道の開放とともに、交易馬車と各地の上役がフーガ商館の会議室に集った。
「さて、皆様。各自色々とお話はありましょうが、まずは不当な強盗騎士団を追い払ったアムズフェルト閣下の勝利を祝うといたしましょう」
恰幅のよい朗らかなジェイコプが祝杯を掲げる。ヴィクトルが音頭を取り、続くカルデロ交易ギルド長トレド、ヤクール族代表ユール、何故かいるゴブリンバロン。
ジュナイブの市議マクスウェルは遅れて杯を挙げた。
「……乾杯」
「浮かない顔ですな、マクスウェル殿」
「通商条約の安全保証が堂々と破られたのだ。被害額の補填を求めたい」
「危険は事前に通告した。戦争のために傭兵団を使うのも通商条約には含まれていない」
杯を傾けながら、淡々と答えるヴィクトル。
「詭弁だ詭弁……ゴッズの身代金はいくらとれる?」
「正教会から財産の差し押さえだ。まずは略奪被害の農村に充てられるだろう」
「なぜ、先に、搾り取らない!?」
息継ぎしながら机を叩くマクスウェル。
「まぁまぁ……マクスウェル殿、落ち着いて」
「グァ!」
「お、バロンお前、結構いける口だな。飲め飲め」
ヴィクトルがバロンの大きな杯に果実酒を注ぐ。
「だいたいなんでゴブリンが会談にいるんだ!?」
「彼はアルゴス同盟の傘下だからだ。乱暴な山ゴブリンを統率し、私闘にも義勇軍として参加した」
「グァー!」
誇らしげに赤鷲の旗を掲げるゴブリンバロン。
「……カルデロはいいのか? 被害で言えばそちらの方が大きいだろう」
「一番きつい食料は支援されていた。同盟を条件に私闘も果たしたアムズフェルト家に文句はない。ジュナイブこそ、我々との条約を守れなかったのではないか?」
トレドの厳しい顔が、マクスウェルを睨みつける。
「う……」
「ホッホッ。被害は皆共通。ここは痛み分けという事で、建設的なお話に参りませんか?」
「フーガ殿は、随分この街に入れ込んでいるようですね」
「さて……それも閣下の御高配あればこそ。いかがですかな?」
フーガの視線がヴィクトルに向けられる。
「うむ、ジュナイブの怒りは尤もだ。だが怒りの矛先をこちらに向けられても困ると言うもの。必要な賠償金は然るべき所へ請求してくれ」
「……わかりました。一先ず溜飲を下げ、今後の事を話し合いましょう」
マクスウェルが杯を空け、ヴィクトルに同意した。
「まずは失った食料の迅速な供給が必要だ。アルゴス・シュタットとカルデロに向けてジュナイブの商隊を送ってほしい」
「……冬の食料です。割引はしませんよ」
「まぁ仕方あるまい」
「カルデロは、何をすればいい?」
「今後のために、アルゴス・シュタットにはもっと職人が必要だ。素材の提供と職人ギルドを置いてもらいたい」
「……大砲か? それともあの鉄の猪を量産するのか?」
「どちらもそのうち必要だが……いまは都市建設に注力したい。職人の移住希望者がいればこちらへ送ってほしい」
「……意外だな。そのぐらいならまぁ……」
「春からは石橋建設も始まりますからな。石工ギルドもこちらに支部を作っておくがよろしいでしょう」
「あいつらはあいつらのルールで動く。仕事があれば勝手に移るだろう」
「ギルドってのも一枚板じゃないんだな」
「あぁ……だからこそ、今回の件はある意味いい薬だった。新たな交易ルートの開拓も協力しよう」
「グァ」
「おう、次はヤクー酒にするか」
トクトクときついミルク酒を注ぐ。
「だからなんでゴブリンと……もういい、私にももう一杯!」
「はい、どうぞ飲んでください」
ユールはヤクー酒を配り、静かにその会合を見守った。
――
「はい、これで治癒は完了です。ゴッズさん、贖罪の巡礼、頑張ってくださいね」
誰かの着古した巡礼服を纏うゴッズの傷をライラが癒し、トモエが手を引いて教会へと向かう。
「あの……本当に素足でグランベリーまで往復しないとダメなんでしょうか……」
「そうですよ。贖罪ですから。グノシス神父が言うには、ジュナイブルートか、ロマーナ行きでも良いそうですけど」
「ジュナイブはちょっと……ロマーナも遠すぎません?」
「大丈夫! ゴッズさんがちゃんと心を入れ替えて正しき道を望めば、みんな優しくしてくれますよ!」
目をキラキラさせながら、善意の塊のようなライラが言う。
「は……はい……」
「巡礼者ゴッズ。準備はできましたか?」
「……はい」
「それでは汝に贖罪の導きを与えます。モンフェランを越え、聖グランベリーへの巡礼に赴きなさい。さすれば汝の罪は洗い清められ、汝の行く道をエセルの光が照らすでしょう」
グノシス導師から干し果実と巡礼杖、巡礼札、水袋を受け取り、ゴッズは凍てつくモンフェランの谷へと歩み始めた。
最初の高原での一夜……震えて眠れぬゴッズの耳に、冬の飢えた狼の遠吠えが聞こえていた。
――ライラの帳簿 十二の月(封鎖一月目)
現金収入
乗合馬車 2ソル
砦―カルデロ往復のみ
乗車率4割=67席
=134ソル
宿1ソル
約150人=150ソル
入湯料1ソル
約120人=120ソル
計404ソル
合計約40ダリヴル
現金出費
ゴブリンへのお小遣い 10ダリヴル
雑費 9ダリヴル
現金黒字 21ダリヴル
残高49+21=70ダリヴル
――フーガ商会帳簿 十二の月
収入
家賃10戸 100ソル
合計100ソル
出費
食費 ※備蓄より充当 0ソル
※累積備蓄食料60日→30日分に減少
人件費3ソル×30日
=90ソル
弾薬費3ソル×12日
=36ソル
小計126ソル
建材費 石材加工費 240ソル
合計366ソル
収支
100-366
=▲266ソル
=▲26.6ダリヴル
預金残高
254.6+21-26.6
=249ダリヴル
――ライラの帳簿 一の月(封鎖二月目)
現金収入
乗合馬車 2ソル
砦―カルデロ往復のみ
乗車率4割=67席
=134ソル
宿1ソル
約150人=150ソル
入湯料1ソル
約150人=150ソル
計434ソル
合計約43ダリヴル
現金出費
ゴブリンへのお小遣い 10ダリヴル
雑費 9ダリヴル
現金黒字 24ダリヴル
現金残高70+24=94ダリヴル
――フーガ商会帳簿 一の月
収入
家賃10戸 100ソル
合計100ソル
出費
食費 ※備蓄より充当 0ソル
※累積備蓄食料30日→0日分に減少
※月末、最後の備蓄をカルデロへ
人件費3ソル×30日
=90ソル
弾薬費3ソル×12日
=36ソル
小計126ソル
建材費 石材加工費 240ソル
合計366ソル
収支
100-366
=▲266ソル
=▲26.6ダリヴル
預金残高
249+24-26.6
=246.4ダリヴル




