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追放騎士と銃装ゴブリン傭兵団  〜聖女とはじめる辺境の永世中立国〜  作者: ふろんちあ
宿場町の章

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第四十九話 出陣バトル・ボア

「なんか……思ってたのとはちょっと違うんだが……」


「お前さんが鉄の猪って言ったんだろうが! どう見たって完璧だろ!」


「これ……どうやって動くんですか?」


ペタペタと鉄の顔に触れながらライラが尋ねる。


「頭部の前輪は魔導師二人がボイラーの水と火、操舵と冷却を担当する。魔導蒸気が稼働すると前輪が回り、足元の操舵板で首を左右に振って曲がる」


グイグイと重そうな踏み板で前輪を傾けながらランディが続ける。


「胴体の後輪は牽引されるだけだ。ここは兵士が四人乗れる。鉄の装甲が銃から身を守り、開き窓から狙撃できる」


内部から銃を刺すように押して小さな窓を開く。


「前輪上部の黄色い綱が蒸気噴出、赤い綱と真ん中の踏板が停止用のギア解除と停止機構だ。すぐには止まれないから注意しろ」


「ランディが運転するんじゃないのか?」


「俺様の火じゃこんなデカブツのろのろとしか動かせねぇよ。隣は爺でもアイナでもいいが、まともに運転できるのは、お前さんぐらいだろう」


「よ……よし、やってみるか。行くぞアイナ」


「えぇ……私も乗るんですか……。水だけじゃだめ?」


「ダメだ。タンクが少ないからすぐ枯渇する。それに内部は高温になる。冷却も兼ねろ」


「はぁい……なんか怖いなぁ」


アイナが助手席に座り、タンクに水を溜める。ヴィクトルが触媒の棒を握り、ボイラーに熱を送る。すぐに蒸気が満ち、魔導蒸気機関が稼働し始めた。


草原に向けて、鉄の猪がゆっくりと進み始める。


――ゴウン……ゴウン……


「あつっ……あっつう……」


「アイナ、早く冷やしてくれ……熱気がすごい」


ボイラーが目の前にあるため、運転席の熱量はとんでもなかった。


「はい……まるで暖炉の目の前にいるみたいです」


――ゴウンゴウンゴウン


「お、お、お……早い、早いぞ!」


「若様! 前! 前!」


「まて、前がよく見えん!」


「あーーーー」


必死で綱を引き、停止機構を踏みしめ、それでもバトルボアは止まらず塹壕へと突っ込んだ。


――ブシュー……


「あたたた……」


「おい、ランディ! これ前が見えないじゃないか!」


傾いたバトルボアから飛び出るヴィクトル。


「目ん玉とこ空いてるだろ? 頑張ってのぞき込め」


「たく……椅子の意味ないな。よし、アイナもう一回だ!」


「えぇーー! もう嫌ですよぉ」


「何言ってるんだ。この後はこれに乗って、銃兵隊に突っ込むんだぞ? しっかり練習するぞ!」


アルゴス・シュタットの住民とヤクール族は、草原を走り回る不思議な猪の乗り物をぽかんと眺めていた。


――


「では、突撃部隊を編成する」


練兵場に整然と集まった家臣とゴブリン兵団を前に、ヴィクトルが名前を呼んでいく。


「水のアクアライナ。狂戦士ランディル」


進み出る青きローブの女魔導師、分厚い毛皮の外套を羽織る斧戦士。


「スカウト、スナイプ、ガード」


ギィ、ギ、ガァと鳴く精鋭ゴブリン三匹。


唯一、着火機構を備えた短銃二丁の所持を許されたスカウト。手に一丁、背に二丁の銃を背負うスナイプ。巨大な鉄の盾を持つガード。


「一番隊指揮、ヴォルフ・ファランス」


「ハッ」


大きなランスと盾を構える黒鉄の騎士。


「二番隊指揮、ブランド・ファイエル」


深く頷き、外套を翻す老魔導師。


「盾持ち三番隊、四番隊」


簡素な鉄の板を抱えるゴブリン兵団48名。


「同盟より義勇軍、ヤクール族の戦士並びにバロンライダーズ」


ヤクールの騎馬射手と大型犬に跨るゴブリン十数名。


「開門と同時に開戦だ。こんな争いで死ぬことは許さん。負傷したものは速やかに帰城し、治癒の水を受け取るように」


城門の前に置かれたバトルボアに、ヴィクトルら突撃隊が乗り込む。


「開門!」


――二ヶ月閉じられていたアルゴ砦の門が、ゆっくりと開かれた。


――ゴウンゴウンゴウンゴウン


冬狼傭兵団(フィンブルウルフ)は困惑していた。


ゴブリンだらけの辺境の砦に、何ヶ月も耐える食料があるはずがない。


やがて耐えきれず野戦が始まるか、逃げだすか……そのどちらかだと思っていたからだ。


だが実際飢えているのはこちら側。そして二ヶ月かけて出てきたのは、巨大な鉄の猪だった。


「なんだ……ありゃあ」


強盗騎士ゴッズは首を傾げ、百名を超えるフリントロック式銃士隊に銃を構えさせた。


猪? 破城槌? 蒸気機関車? 


――ゴウンゴウンゴウンゴウン


その猪はどんどん加速し、こちらへと向かって来ていた。


「訳がわからねぇが、開戦だ! 散兵式一斉掃射!」


――ダダダダダダン!


火砲と硝煙の煙が舞う中、カンカンと音を立て、その猪は直進していた。


「うわわわっ!?」


銃兵隊は散開し、逃げ惑い始める。


ゴッズもまた慌てて馬に跨ってその猪から距離をとった。


――ダァン!


猪が横を通過する。その小窓から銃弾が放たれ、ゴッズの馬を貫いた。


「なぁ!?」


馬が倒れ、転ぶゴッズに向かい、鉄の猪は大きく旋回し――


しきれず、段差に脱輪した。


「お……おいおいおい! てめぇら、あれ止めろ! 抑え込んで中に飛び乗れ!」


武装した兵士が群がり、前方から抑え込もうとしたその時――


――ブシュー!


猪の鼻から猛烈な蒸気が吹き出した。


「あつつつつ!」


後部から飛び降りる盾持ちの巨大なゴブリン。その後ろからゴブリンが銃を放ち、狂戦士が剛腕で車体を持ち上げる。


「ひゅー、あぶねぇあぶねぇ」


狂戦士らは脱輪を戻すと、すかさず後部席に飛び乗った。


――ゴウンゴウンゴウン


再び鉄の猪は走り出し、冬狼傭兵団が蜘蛛の子を散らすように散開する。


――ザッザッザッ


猪の突撃で混乱した集団に向かって、整然と歩み寄る盾持ちのゴブリン兵団。その後ろに、二組の銃装ゴブリン隊が並んでいた。


「一番隊! 右翼陣形アイン! 構えろ!」


一列に並ぶ銃士隊に向け、黒鉄の騎士のランスから一閃、炎の槍が迸る。


――ドバァァン!!


火槍を合図に、一列に並んだ銃砲がほぼ同時に放たれた。


その圧倒的な面射撃に、散開した兵が続々と倒れていく。


「反撃! 反撃しろ!」


鉄の猪から逃げるように走り、叫ぶゴッズ。


「ハイド! 弾込め!」


撃ち終えた銃兵が盾に、岩に身を隠し、弾込めに向かう。


「二番隊! 左翼陣形ツヴァイ! 構えい!」


二列に並んだ、銃装ゴブリン隊。その前を炎の竜が波打つように横切った。


――ドバババ、ドバババン!


順に炸裂する火砲の一斉射撃。撃ち終えたゴブリンらはまたすぐに身を隠した。


「一番隊! 陣形アイン!」


号令とともに盾から飛び出し、再度一列に並ぶ銃装ゴブリン隊。そのあまりの恐ろしさに、冬狼傭兵団は敗走しはじめた。


「ひ……ひぃ」


息も絶え絶えに、湖畔を逃げ走る強盗騎士ゴッズ。


――アオオオオン!!


その背中には、大型犬に跨るゴブリンライダーの群と、その背を守るように、弓騎兵が走り込んで来ていた。


「は……はは……ヒェハハハ!」


強盗騎士ゴッズは悲鳴のような笑い声を上げて、冬の湖へと身を投げた。

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