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追放騎士と銃装ゴブリン傭兵団  〜聖女とはじめる辺境の永世中立国〜  作者: ふろんちあ
宿場町の章

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第三十四話 お忍びの令嬢

「アムズフェルトは汝らの都市に私闘(フェーデ)を申し込む!」


馬車の中で立ち上がり鞘を振るうヴィクトル。黄色い令嬢がその姿を高揚した面持ちで見守っていた。


――キン……ポロロロロ


伴奏の女が弦を弾くような高音を出し、ヴィクトルの語りに合わせた速弾きでクライマックスを演出していく。


「――刻限は日が沈むまでだ……忘れるな」


フェーデの会話劇を終え、ヴィクトルが鞘を腰に戻すと、カチンと鯉口を鳴らした。


――パチパチパチパチ


「凄い! そこは演劇と全く一緒だわ!」


「実際にジュナイブ市議に言った台詞ですから。あちらでも記録していたのでしょう」


「リア様、砦が見えて来ました」


御者の男が声をかけ、黄色い令嬢が前を覗き込む。


「わぁ! あれが強盗騎士の根城ね!」


「まぁ……間違ってはいませんが。オレにもヴィクトルという名前があります」


「そうね、失礼したわ。私はイセリア、リアって呼んで」


幅広の麦わら帽子を両手で持ち、美しく巻き上げた金髪が揺れる。


「それではリアさん……ようこそ、ヴィクトル・アムズフェルトの砦へ」


先導するゴブリンが門を開き、馬車はアルゴ砦へと帰城した。


――


「では、こちらにお手をどうぞ」


ヴィクトルが先に馬車を降り、手を差し出す。イセリアがその手を取って地に降り立った。


「ヴィクトル様ー、お帰りなさい」


パタパタと坂道を駆け下りてくるライラ。


「あ、もしかして貴女が聖女ライラ!?」


「え? 聖女?」


「ライラ、こちらはジュナイブから観光に来たイセリアさんだ。なんでもオレ達のファンらしい」


「詩になってるとは聞きましたが……はじめまして、ライラ・メディスンと申します」


ライラはイセリアの立ち居振る舞いを見て、そっとスカートをつまみ、貴族の礼を交わした。


「はじめまして、メディスン家のライラ様。イセリアと申します」


イセリアの返礼はライラが驚くほど典雅なお辞儀だった。


「……イセリア様は、貴族の方ですか?」


「えーっと……まぁ近いかな」


「ジュナイブ商家の名家と言ったところでしょう。違いますか?」


片眉をあげ、問うヴィクトル。


「うん、そんな感じよ!」


天真爛漫な黄色い令嬢は微笑み、麦わら帽子を傾けた。


――


イセリアを個室に案内するため、一行は主砦へと移動した。


「あれがゴブリンね! かわいい、メイド服着てる!」


「キィ……?」


見知らぬ令嬢に話しかけられ、困惑するメイド。


「この子は名前もメイドと言います。喋れませんが、言葉は理解できますよ」


「そうなの、賢いのね!」


「キィ」


「宿屋に個室はありませんから、こちらの主砦でお過ごしください。ライラ、以前の君の部屋へ案内を。付き人はどうされますか?」


「左右の個室を頼む」


「はい、三部屋で18銀になりますがよろしいですか?」


付き人からすっと差し出される二枚の金貨。


「ありがとうございます。六銀お返ししますね」


「労いでいいわよ。それより街が見たいわ! 聖女のお話と、あと温泉ね!」


「はわわ……わかりました」


「すまんライラ、案内してあげてくれ」


初めての上客の来訪に、ライラはよしと気合いを入れてもてなしを始めた。


――


ライラはまず個室の案内を済ませ、イセリアを連れてヤクール族の市場へと向かった。


「ユールさーん」


「はい、なんですか?」


ベイリーの道沿いに布を広げ、毛を編んでいるユール。


「観光に来てるこちらのリアさんに、商品とヤクーを見せてあげてもらえますか?」


「はい、どうぞ」


ユールがヤクーミルクや干し肉、女性向けの毛織物や装飾品を前に並べていく。


「おいしそうなミルクね! 一杯いただけるかしら?」


「はい、一ゼニです」


ユールが木杯で樽からミルクをすくう。付き人が銀貨を差し出した。


「ドニかゼニはありませんか?」


「釣りは不要だ、労いに受け取られよ」


先に女の付き人が口をつけ、頷いてからイセリアへと渡した。


――コクコク


「すごく濃厚でおいしいわ! でもちょっと匂いが強いかも……」


「樽一杯、飲んでいいですよ」


「あは、そんなに飲みきれないわ。ねぇ、ヤクーを見せて!」


「はい、草原にいます」


ユールが草原に向けて指笛を吹く。数頭のヤクーがゆっくりと歩いてきた。


「わぁ……おっきい……それに、すごく広い!」


イセリアは草原を駆け回り、ヤクーを眺め、恐る恐る子ヤクーの毛に触れ、ユールから受け取った草を与えた。大きなヤクーが草を食む音に、イセリアがきゃっと笑い声をあげる。


「そろそろ夕暮れ、帰りますか?」


「えぇ、楽しかったわ。ありがとう」


付き人が更に銀を渡そうとし、ユールはそれを穏やかに固辞して見送った。


その後ライラは巴組を呼び、日が沈む前にイセリアを温泉へ案内した。帰りに教会で共に祈り、砦へと戻った。


「リアさん、いかがでしたか?」


「楽しかったわ。ヤクーははじめて見たし、あちこちでゴブリンが走り回ってるのも面白いし」


「食事は大きい食堂がありますのでそちらで召し上がりください」


「ごめんなさい、外の料理は食べられないの」


「あら……そうなんですか? 果実をご用意しましょうか?」


「ううん、大丈夫。料理(パン)の代わりに、お菓子を食べればいいから」


くすりと笑うイセリアをみて、ライラはなんとも贅沢な暮らしぶりだと苦笑した。


――カッカッ


回廊に軍靴の足音が響き、ヴィクトルだと思ったライラが振り向く。


「あら……?」


歩いてきたのはブランドルと、全身を黒鉄の鎧で身を包んだ長身の騎士だった。肩口まで伸びた銀の髪、垂れ下がった髪の隙間から覗く切れ長の瞳と、ライラの視線が合う。


「え……帝国兵?」


イセリアがライラの背後にそっと身を寄せる。


「おお、ライラ様。紹介しよう、先ほど到着した旧アムズフェルトの騎士、ヴォルフじゃ」


「ヴォルフ・ファランスです……貴女は――」


真っ直ぐと歩みを進める黒鉄の騎士がライラの前でピタリと止まる。その長身を見上げるライラ。


「あ、私は――」


「大公女殿下、なぜこちらに?」


「はい?」


一瞬の沈黙。


ライラはその視線の先にある背後の令嬢に振り返った。


「あちゃあ……」


「大公女殿下って……まさかイゼル帝国の!?」


麦わら帽子を傾けて、イセリア・アンティローネ・フォン・イゼルはテヘヘと笑った。

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