第三十話 新しい学び
クルの修繕やケガ人の手当。教会の手伝いと忙しく過ごすライラは久しぶりに帳簿をつけ始めた。
「えっと、前の帳簿が161ダリヴルで……山ゴブリンの食費が150増えたから……」
食費は全部で約350匹。
一日350古銅貨✕30日=10500ゼニは5250銅貨。
120ドニが10銀貨で1小金貨……5250ドニを120で割って、約44ダリヴル。
最後に商会経由で一割引だから――
「……月40ダリヴルぐらいかな?」
あくまで帳簿上の出費。実際の食費は変動するし、数え切れない銀貨、銅貨、古銅貨が砦に蓄えられている。
取引ごとに毎日きっちり勘定を合わせる余裕も人もいないためライラは苦心していた。
「とにかく、毎月赤字にはならないようにしないと! 次は収入……と」
定期便が戻り月2商隊8台が往復。
計32ダリヴル。
傭兵が一部隊11名が2ソル✕3日✕2回。
13ダリヴル。
「……計45ダリヴル。良かった、ちょっと黒字だ」
もちろん食費だけでは暮らしていけないが、贅沢さえしなければやっていけそう。
「収支はどうだった、ライラ?」
「食費はギリギリ黒字です。でもお金は減る一方だし。山ゴブリンからは収入がないし、ヴィクトル様が出張するのに、この傭兵料では安いと思います」
「そうだな……今後は旗だけでも安全になるが、まだ山ゴブリンも一枚板ではない。仕事も何か与えないと」
「傭兵の数も、6単位の方がうれしいです」
「む……そうか。確かに部隊運用も割り切れる数字の方が良いと感じていた。最小単位を半ダラスの最大2ダラスとしよう」
指折り数えてヴィクトルが続ける。
「そして指揮官職は日当6銀。ジュナイブはゴネるだろうが、戦闘が減った分、弾薬をこちら持ちとしよう」
「じゃ傭兵料は6匹と1人で最小18、24、30、最大36ソル……凄くわかりやすいです!」
「いつもオレに合わせてもらってるからな。今後はそれで行こう」
算術の苦手な二人が考案したこの小さな変化は、部隊運用にも繋がった。
これによりゴブリン兵団は1班6名、1部隊が4班24名部隊に再編され、ゴブリンにもわかりやすいスムーズな陣形変化を可能とした。
――
「陣形アイン! 一列横隊!」
24匹が並ぶ。
「陣形ツヴァイ! 二列横隊!」
2番札を持つ12匹が後ろに下がり、二列になる。
「陣形ドライ! 三列横隊!」
3番札を持つ8匹が後ろに下がり、前を詰めて三列になる
「陣形フィーア! 四列横隊!」
4番札を持つ6匹が更に後ろへ。
「陣形ゼクス! 四列縦隊!」
横並びから縦並びにきり替わる。
「陣形アハト! 三列縦隊!」
123番が並び縦三列に。
「陣形ツヴェルフ! 二列縦隊!」
1番2番が交互に並び縦二列
「陣形!アイナー! 一列縦隊!」
番号順に一列縦隊へ。
シン……と並ぶゴブリンたち。その美しく素早い隊列移動に、ライラは拍手した。
「実際こんなに使わないだろうが……方陣や縦列も組める。こうして見ると割り切れるって便利だな」
「すごいですね! 街ならこれだけでお金取れますよきっと!」
「キィー! キィー!」
「うん? いや、番号は名前とは違うが」
「キィキィキィー」
「12番と24番の番号札が多いのはしょうがないだろ。パターン多いんだから」
「キィー!」
「こらスカウト、他のを取るな……1番はもうちょっとカッコよくしてやるから」
「番号札管理も、結構大変そうですね」
ゴブリンにとって、ボスからもらった札は1番が特別で、あとは多いほど偉いと言う認識になった。
――
そうして過ごしている内、いよいよアルゴ砦に教会が完成した。
――ゴーン、ゴーン、ゴーン
厳かに刻を報せる鐘の音色。中は素朴な作りに、簡素な木製の椅子。ただ太陽の光だけがその講堂を明るく照らしていた。
グノシス神父とライラが跪き、太陽の光に向けて、大天使エセリエルへの祈りを捧げる。
その日、アルゴ砦に古式派正統教会が正式に建立された。
「それでは毎日、二の刻と六の刻に教導を行います。朝は人の信徒向け、夕はゴブリン向けとしますので」
「わかりました! できるだけ連れてきます」
「それと近々、果樹の苗と若木が届きます。果樹園を耕す必要がありますので人手をお願いします。かなり岩がありますので」
「それならディガーくんが得意だから、お願いしてみます。若木は何が届くんですか?」
「多くはベリー種とプラム、リンゴ。それとハイランドオリーブです」
「まぁ! オリーブまで届くんですか!」
ライラは両手を叩いて喜んだ。
「メディスン家が特別に取り寄せたそうです。寒冷地に順応したオリーブですので、ここの冬も越えるでしょう」
「そうでしたか……とても、うれしいです」
「ハイランドオリーブは聖女派の象徴でもありますから、ランディルさんも喜ばれるでしょう」
「どうしてオリーブなんですか?」
「聖女ミラの聖地が、エセル神聖王国ハイランドの神聖教会だからですよ」
「へぇぇ……あちらの国にも一度行ってみたいです」
「……今は内乱が激しいらしいですよ」
小さく首を振り、グノシスが言う。
「あらら……エセル最後の地でもですか」
「神の教えがあっても、人は争いをやめられないのですよ」
夕暮れ時、六回の鐘の音が鳴る。ライラはメイドらメスゴブリンを連れてやって来た。
「皆さんはじめまして。私はグノシスと言います。今日はこれから楽しい紙芝居をはじめますので、静かにお話を聞いてください」
「キィー?」
トントンと紙芝居を台に掲げるグノシス神父。
「むかしむかし、一つの家族がほら穴に住み、毎日寒くて寒くて震えていました」
「キィ」
――ペラリ
「ある日、父が火を起こし、母が水を運び、子どもが風を呼びました。ほら穴は暖かくなり、きれいな水を飲み、子どもは外で風と遊ぶようになりました」
「キィー」
――ペラリ
「やがて子どもたちが増え、十二人の子どもたちが生まれました。子どもたちは大きくなり、十二の家族になりました」
「キィー!」
――ペラリ
「ある日、家族同士が喧嘩をはじめ、四軒の家が燃え始めました。争いは止まらず、風が吹き荒れ、八軒の家が燃え始めました」
「キィ……」
――ペラリ
「残り四軒の家にも火が付くと、怒ったお母さんが海を割り、大津波を起こしてしまいました」
「キィー……」
――ペラリ
「ぼろぼろになった家、離れ離れになった家族。悲しむ人々をみて、ある日、天から一柱の天使が降り立ちます」
「キィ?」
――ペラリ
「天使の名はエセリエル。天使は人々の傷を癒し、こう言いました。私は癒し、導くもの。傷つき迷える子どもたちよ。最初に家を、次に家族を作りましょう」
「キィー!」
「今日はここまで……みなさんは家族をどうやって作るか知っていますか? 母と子どもだけでは家族になりませんよ」
「キィ?」
「次は、家族の作り方をお教えします。また明日、夕暮れ時に鐘が六回聞こえたら、ここにいらしてください」
トントンと、紙芝居を仕舞い、グノシス神父は朗らかに笑いかけた。
正統教会(古式派)の時間について
日の出てる時間が一刻〜六刻
日の出ない時間が七刻〜十二刻
季節が変わっても一刻の長さを変えるため鐘の回数は変わらない。
一刻:六時頃
二刻:八時頃
三刻:十時頃
四刻:十二時頃
五刻:二時頃
六刻:四時頃
七刻〜十二刻:日の入り〜日の出
なお、革新派は錘を使った機械仕掛けの時計を使っている。




