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草稿(設定資料集)  作者: Mel.
11/26

【第一幕】皇国潜入篇 第五・五節


【勇者アイリス】



 「今、少しいい?」


 そう声をかけながらも私は改めてリリスちゃんがいかに美しいかを再認識していた。

 月の光の中でも艶やかに輝く藍色の髪、闇夜に浮かぶ真紅の瞳、神の気まぐれで誕生したとしか言えない完璧な造形をしたその身体、そしてその身体を包むナイトワンピースは日の光の下では醸し出せない妖艶さを演出していた。

 ゴクリ…。

 あまりの艶やかさに思わず生唾を飲んでしまう。

 そのまま少し距離を詰める。

 私が近づくと彼女が目を瞑った。

 その顔に理性がぐらりと揺れる。私じゃなかったら彼女にキスしてしまっていただろう。だけど私は我慢が出来る。紙一重の所で耐え切った。すごい偉いと思うぞ私。

 その後真剣な顔で彼女にお礼と謝罪ををしたら何故か笑われてしまった。

 何故だろう?



 その後私はリリスちゃんに同衾の提案をしてしまった。

 疑問を呈した彼女に対し慌てて取り繕ったが、彼女に私の下心バレていないよね?

 少し不安になってきた…。



 背中越しにリリスちゃんの体温を感じる。

 彼女の背中はひんやりしていて気持ちがいい。

 私は体温高くて汗っかきだからリリスちゃん不快じゃないかな?

 同じベッドの中に好きな人がいる。

 よく考えたらとんでもない状況だと気づき自分の脈拍がおかしくなってくるのを感じる。

 私がこんな状態だってこと、リリスちゃんには気付かれないようにしないと…。



 突然私の背中をリリスちゃんが優しく撫でた。

 全神経を背中に集中させていた私は過剰に反応してしまった。恥ずかしい。

 どんな顔をしてそんな意地悪をするんだろう。そう思って振り向いたら彼女の顔は暗闇の中でも分かるくらい真っ赤に染まっていた。

 その顔が可愛すぎて無意識に顔が吸い寄せられる。

 彼女も嫌がっていないように見えてしまうのは流石に夢を見過ぎなのだろう。

 分をわきまえた行動を心がけないと…。

 そう思った私は彼女から顔を背けた。その時彼女が傷ついた顔をしたので焦る。

 好きな人を傷つけるのは私の本意では無い。決してそんなつもりは無かったのだ。だけど私は汚い。私がされてきたことを思うと彼女の側で寝ることすら本当はしてはいけないんだと思う。

 私は我が儘だからもうしちゃっているけど。

 そんな私がリリスちゃんに触れてしまっては彼女の尊厳や何かそういったものまで一緒に貶めてしまうんじゃないかと心配なのだ。

 焦りきった私はしどろもどろになりながらも彼女にそのことを伝えた。

 そのことを聞いた彼女から返ってきた返事はキスだった。

 初めは抵抗した。

 私なんかがその尊い唇を奪ってしまってはダメだ、と。だけど彼女はそれでも力強く私を求めてくれた。

 その事実が他に例えようもないくらいに嬉しかった。

 彼女のキスによって理性が溶け切った私は気がつくと自分から彼女を求め始めた。

 私の中からあふれ出した愛しさを彼女にぶつけた。

 私はリリスちゃんの愛を求め、また彼女に私の心を焼き尽くすほどに燃え盛る愛をただ知って欲しかった。

 衝動に突き動かされるまま私はもっと深いところで彼女と繋がろうと手を伸ばそうとしたその時…、私の中に眠っていた忌まわしい記憶を呼び覚ましてしまった。

 再生された記憶が私の心を蝕み、私がいかに汚れた人間なのかを、こんなにも美しい彼女と関わる価値なんてない人間なのだという現実を突きつけてくる。

 悲しくて泣きたくなったが、そんな私の気持ちとは裏腹に身体は硬直し、全ての動作を拒んだ。唯一の例外として身体が小刻みに震えていた。

 今私の顔はきっと恐怖に震えているだろう。

 私はかつてそうしたように顔を手で覆い、指を噛み、声が出ないように息を殺した。

 私という個体はここには存在しない。

 そう思い込むことで現実逃避することしか、今の私にはできなかった。

 


 私はもう弱くない。私はもう戦える。理不尽をねじ伏せる力はもう手に入れたはずだ。

 なのに私の心は過去に縛られている。

 今のままじゃ私はいつまでたっても前に進めない。

 蹲ったまま何も成し遂げられずに死んでいくんだ。

 そう自嘲して塞ぎ込んでいた私の心に一筋の光が降り注いだ。




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