歪んだ証明
いつものように、ティオはフィリアの家で稽古をつけてもらっていた。木剣を振り下ろし、大きく息を吐き出したところで、フィリアが唐突に切り出した。
「……クロード、少しいいか」
稽古の様子を遠巻きに眺めていたクロードに、フィリアが視線を向ける。
「……何だ」
「見回りに、来てもらいたい。魔物が増えている以上、戦える手は多いに越したことはない」
「なぜ、俺が」
「村の連中も、お前が動いてくれれば安心する」
フィリアの言葉には、有無を言わせない響きがあった。渋々ながらも、クロードは短く頷いた。
そのやり取りを、木剣を握りしめたまま見つめていたティオが、思わず口を開く。
「オレも、行きたい!」
だが、フィリアは躊躇なく首を振った。
「駄目だ。お前は、村に残れ」
「なんでだよ! オレだって、少しは強くなったはずだ!」
「危険度が違う。今回は、私とクロードだけで十分だ」
取り付く島もない言い方に、ティオは強く唇を噛んだ。子供扱いされている悔しさが、胸の奥で黒くくすぶる。
その夜、クロードとフィリアが村を出ていくのを、ティオは物陰からじっと見送った。
(……オレは、いつまでこうなんだ)
昔、リナを守れなかったあの日から、強くなると誓った。フィリアの稽古に耐え、それなりに腕も上げてきたつもりだった。それなのに、いざとなれば、また「残れ」の一言で片付けられる。
(証明してやる。オレはもう、あの頃の弱虫じゃない)
衝動に突き動かされるまま、ティオは村を抜け出した。木剣を握りしめ、二人の後を追うように森の奥へと足を踏み入れる。
だが、日が沈んで間もないというのに、二人の姿はどこにも見当たらなかった。方向を間違えたのか、それとも引き離されたのか。焦りが、じわじわと胸を締め付ける。
「……くそっ」
木々の間を彷徨っていると、不意に、周囲の空気が重く冷え込むのを感じた。
「――こんなところに、小さな迷子だ」
闇の中から、聞き覚えのない低く歪んだ声が響く。
振り返る隙すら与えられず、黒い影のようなものが一気にティオを取り囲んだ。
「な、なんだよ、お前……!」
慌てて木剣を構えようとするが、体が金縛りに遭ったように動かない。暗闇そのものに絡め取られている感覚だった。
「お前如きに用はないが……ちょうどいい」
影が、耳元で嘲るように囁く。
「あの忌々しい結界のせいで、あの娘には手が出せなくなった。なら――お前を使わせてもらおう」
「な、何を……っ」
抵抗しようにも、指一本動かせない。頭の奥へ直接ナメクジでも這い入ってくるような、不快な感覚が広がっていく。
『お前は弱い。……証明したいのだろう? なら、力を貸してやる』
脳裏に直接響く声。それは、ティオの胸底にある「証明したい」という飢えに、するりと入り込んできた。
『疑うな。従え。それだけで、お前は強くなれる』
直後、手首にゾクッとするほど冷たい感触が走った。黒い石を紐で結わえた怪しげな腕輪が、生き物のように手首へ巻きついている。
意識が、急速に遠のいていく。抗おうとする意志はあった。だが、その声はあまりにも――自分の望んでいた言葉そのものだった。
意識が途切れる直前、目に入ったのは腰に下げたナイフの柄だった。かつて、あの人から貰った大切な宝物。
その冷たい感触を指先に感じた気がした瞬間、ティオの意識は、完全に闇の中へと飲み込まれた。




