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13/24

古着と石鹸

 それから、二、三日が過ぎた。


 朝は掃除に始まり、朝食は昨日の残りを温め直す。日中は村へ出て情報収集という名の雑談を重ね、夜は覚えたての手つきで悪戦苦闘しながら夕食をこしらえ、クロードを渋々付き合わせる。劇的なことなど何一つ起きなかったが、その繰り返しのなかで、手つきは少しずつ様になっていった。


 そんなある日、井戸端で顔なじみになった女たちに、ふと声をかけられた。


「あなた、いつもその服なのねぇ」


「……何か、おかしいか」


「おかしくはないけど……素敵な服だとは思うけれど、毎日同じじゃ、洗うに洗えないでしょう?」


 女の一人が、マオの黒いフリルだらけのドレスを、まじまじと眺め回した。


「それに、その、なんていうか……可愛らしいけれど、村の子には見えない格好よね。まるで、お祭りの衣装みたい」


「……別に、よかろう。妾《わらわ》の好みじゃ」


 そう言い返しつつも、マオは内心、苦々しい思いを抱いていた。


 魔族の庶民がどうしているのかなど知る由もないが、マオにとって服など浄化の魔法一つで瞬時に元通りになるものだった。旅の途中はこれで随分と助かっていた。荷物も少なく済み、着替えなど気にする必要もない。だが――人間の目には「毎日同じ服を着ている=洗っていない」と映るらしい。


 魔法で常に清潔とはいえ、人目に触れる者として「みすぼらしい」と思われるのは、確かに少々不本意であった。


「うちの子のお下がりでよければ、あるけど。着てみない?」


 好意的な申し出に、マオは一瞬固まった。人に施しを受けるという行為に、慣れていなかったのだ。


「……別に、欲しいわけでは」


「そう言わずに。ちょうど娘が着なくなったのがあるのよ」


 押し切られる形で、マオは簡素なワンピースを一着、譲り受けることになった。ついでにと、小さな石鹸の塊まで持たされる。


「そういえば、勇者様の方はどうなの? あの人も、いつも同じ格好をしていないかしら」


 確かにクロードもまた、家の中にいる時ですらあの薄汚れた外套を脱ごうとせず、いつでも飛び出せるような窮屈な格好のまま過ごしている。彼も彼で、口では「味気ない」などと一丁前なことを言っていたくせに、結局は自分も魔法の恩恵にあずかって横着していたタチだった。


「……ああ、あやつも似たようなものじゃ。室内でまで外套を羽織っておってな。着たきりで、みすぼらしいことこの上ない」


 軽い気持ちでそう零すと、女たちの顔色が目に見えて変わった。


「まあ……あの勇者様が、そんな……」


「誰か、旦那の古着でも出せそうな家、あったかしら」


 その日のうちに、村中から人が集まってきたかのような騒ぎになった。最近のクロードを間近で見た者は少ないにもかかわらず、皆それぞれに彼の姿を勝手に想像し、同情を膨らませていったらしい。結果として、マオは自分のワンピースに加え、男物のシャツとズボンまで、両手に抱えきれないほど持たされることになった。


「……妾は、一体何をしに来たのじゃったか」


 戸惑いながらも、荷物を抱えて家路につく。


 家に戻ると、クロードは差し出された古着の山を見て、あっけにとられていた。


「……なんだ、これ」


「村の者からじゃ。お主がずっと同じ服を着ていると言ったら、次から次へと……」


「お前、何を言ったんだよ」


「みすぼらしいと言っただけじゃ。いつもその外套を着たままでおるからじゃろう」


「余計なことを……」


 不機嫌そうに呟きつつも、クロードはようやくその重苦しい外套を脱ぎ、手渡された新しいシャツに袖を通した。着心地を確かめるように、一度肩を回す。その顔に、ほんのわずかだが、身軽になった安堵のような色が浮かんだように見えた。


 クロードが着替えを済ませたことで、脱ぎ捨てられた服が残された。


 マオは譲り受けた簡素なワンピースに着替えると、持たされた石鹸と、二人分の服を抱え上げる。


(魔法で清めれば一瞬だというのに、わざわざ水で洗うなど……)


 魔法で済ませれば、それで十分だと思っていた。事実、これまではそれで何の不便もなかったはずだ。だが、ふと、フィリアに教わって作ったあの一皿を思い出す。手間をかけて、時間をかけて、ようやく出来上がった料理には、確かな満足があった。そして、魔法で綺麗にしただけの服を、クロードが「どこか味気ない」とこぼしていたことも。


(石鹸とやらも貰ったことだしな。……まあ、試しに一度やってみるくらいなら構うまい)


 大した期待もせず、そんな軽い気持ちで家を出て、井戸端に腰を下ろす。魔法での浄化はもう慣れたものだが、石鹸を使った本物の洗濯は、これが初めてだった。


「……こう、揉めばよいのか」


 見様見真似で布を水に浸し、石鹸を擦りつけて力任せに揉み洗う。泡は上手く立たず、かえって生地を傷めている気もしたが、構わず続けた。しばらく格闘した末、どうにか絞り上げた布からは、ほのかに石鹸の香りが漂っていた。


(これが……石鹸の匂い、というやつか)


 クロードが言っていた「味気ない」という言葉の意味が、ほんの少し分かった気がした。魔法で落とすのとは違う、手間をかけた分だけ残る、温かみのある確かな匂い。


 物干し縄に干した服が風にはためく様子を、マオはしばらく、ただじっと眺めていた。

クロードが家の中でも外套を脱がない設定をClaudeがアドリブで生やして来たので、合わせる形で「味気ない魔法と味のある食事」を修正しています。

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