生煮えの一皿
家に戻ると、マオは得意げに籠を掲げてみせた。
「見よ、クロード。今日はこれだけの土産があったのじゃぞ」
籠を覗き込んだクロードは、中身を見て、わずかに眉を上げた。
「……野菜、けっこうあるな」
「村の婆さんにもらった。これでまた、なんぞ作れるであろう」
「野菜って、皮剥いたり切ったりしなきゃいけないだろ」
クロードは、気乗りしない様子で籠を見つめた。
「面倒くさがるでない。よくは知らぬが、適当に切ればよいだけであろう」
根拠のない自信でそう言い切ると、マオは籠を引き寄せた。
「……そこまでしなきゃ食えないなら、別に、食わなくてもいい」
その言葉には、面倒くささというより、もっと根深い無気力が滲んでいた。生きるために最低限のことはする。だが、それ以上の労力をかける理由が、彼の中にはもう残っていないのだ。
「情けない奴じゃな。よかろう、妾一人でやってやる故、お主は黙って見ておれ!」
「……お前が? ナイフを扱えるのか?」
「子供扱いするでない! パンとやらは一度こなしたのじゃ。野菜くらい、造作もないわ!」
鼻を鳴らしたマオは、クロードを押しやるようにして腕をまくった。
ナイフを握り締め、板の上の根菜に向き合う。皮も剥かず、そのままナイフを振り下ろすと、根菜は硬い手応えを返してきた。
「……思ったより硬いのじゃな、これは」
苛立ったように、マオはナイフを叩きつけるように振るった。まな板代わりの板に、ガツン、ガツンと重い音が響く。
「危なっかしいな、大丈夫か?」
「うるさい! 黙って見ておれと言うたであろうが!」
そう言い返しながらも、格闘するようにどうにか切り分け、水とともに鍋へ放り込んだ。仕上げに火へかけ、湯気が立ち上るのを待つだけだ。
鼻の頭に汗を浮かべながら、マオは「どうじゃ」と言わんばかりに胸を張った。
満を持して鍋を火から下ろし、二つの器に並々と注ぎ分ける。自信満々に差し出されたそれを、クロードは露骨に嫌そうな目で見つめた。
「……おい」
「なんじゃ? 感動のあまり言葉も出んか」
「……これ、皮がそのままついてるだろ。あと、つながってる」
クロードが匙で持ち上げたのは、皮がついたままのゴロゴロとした塊だった。切り込みが甘く、数個の根菜が鎖のように繋がったまま、湯気の中に揺れている。
「……皮とは、何のことじゃ」
「……根菜の、外側の硬いとこだよ。剥いてから切るもんだろ、普通」
「な、なぜわざわざ食べられる部分を減らすような真似をするのじゃ!」
納得のいかない様子で食い下がるマオに、クロードは呆れた目を向けた。
「……俺は食わん」
「わ、妾は食うぞ!」
意地になったマオは、自ら匙を手に取り、大きな塊を口へ放り込んだ。
次の瞬間、口内に広がったのは爽やかなまでの生々しい土の香りと、ガリッと音を立てる凶悪な硬さだった。芯まで一切火が通っていない。
「……」
咀嚼が、途中で止まる。それでも、意地で二口、三口と匙を運ぼうとするマオを、クロードが止めた。
「……無理はするな」
「む……」
言われるまま、マオは匙を置いた。器の中身は、半分以上が手つかずのまま残った。
その夜、腹を満たせないまま、マオは不機嫌に寝台へ潜り込んだ。
翌朝、目を覚ますと、竈の前でクロードが鍋をかき混ぜていた。
「……何をしておる」
「これじゃ食えないだろ。もう一回、火を通してる」
差し出された器の中身は、繋がっていた塊が軽く切り分けられており、昨夜よりは柔らかくなっていた。だが、皮がついたまま煮込んだせいで、口の中に少し土っぽさと渋みが残る。それでも、昨夜の惨状に比べれば遥かに「食べ物」だった。
匙を取りながらも、マオの表情は晴れなかった。一人でやってやると啖呵を切った手前、こうして尻拭いされるのは、屈辱以外の何物でもなかった。
「……礼など、言わぬぞ」
「別に、期待してない」
そっけない返事に、マオは黙って匙を口に運んだ。昨夜よりはましな味が、なぜか余計に、悔しかった。




