曇り空とランチタイム
その日は、昼前から店が混んでいた。
雨は降っていない。
けれど空は薄く曇っていて、喫茶店の窓だけが少し白い。
「ゆいさん、サラダお願いできますか」
カウンターの奥で、相馬が片手だけでフライパンを返していた。
右手にはまだ包帯が巻かれている。
「はい!」
ゆいは慌ててレタスを盛る。
その横でクロが言う。
「雑だな」
「今忙しいの!」
「言い訳だ」
「クロも手伝って!」
「ダメ。俺、今換毛期」
ランチタイムの喫茶店は、探偵事務所よりずっと戦場だった。
コーヒー
ナポリタン
サンドイッチ
食器
注文
全部が同時に飛んでくる。
相馬は片手なのに、不思議と店を回している。
「相馬さんすごくない!?」
「慣れです」
「いや絶対それだけじゃない!」
クロが机の上から言う。
「元々この店、人手不足なんだろ」
「否定はできませんね」
そのとき。
カラン。
ドアが開く。
榊だった。
「これはまた、ずいぶん賑やかですねえ」
ゆいが即座に言う。
「榊さん!!」
「見てるなら手伝ってください!」
榊は店内を見回す。
「いやあ、でも僕こういうの向いてないんですよ」
クロが鼻を鳴らす。
「嘘だな」
「人使う側の顔してる」
榊は笑う。
「褒め言葉として受け取っておきます」
その間にも相馬は片手で皿を並べている。
榊がふと包帯を見る。
「まだ治ってないんですか」
「ええ、少し長引いてまして」
「それでこの人数です?」
「はい」
榊は少し黙る。
そして静かにため息をついた。
「……仕方ありませんね」
ゆいが顔を上げる。
「あ、手伝ってくれるんですか!?」
「ええ、借りは返さないと」
その言い方に、ゆいが少し止まる。
借り?
相馬は自然に言う。
「では榊くん、三番テーブルお願いします」
「はいはい」
返事まで自然だった。
ゆいが目をぱちぱちする。
「あれ?」
榊がトレイを持ったまま振り返る。
「どうしました?」
「いや……」
「なんか、息ぴったりだなって」
榊は軽く笑う。
「長い付き合いですから」
「へえー」
そこでもう一人客が入ってくる。
「すみません、四人です」
「はいっ!」
ゆいはすぐ走る。
考える暇もない。
ランチタイムは続く。
榊は自然に皿を下げ。
相馬は片手で料理を作り。
ゆいは走り回り。
クロは窓際から偉そうに指示を出していた。
「あ、そこ皿空いたぞ」
「6番、デザート追加。7番、水が空だぞ」
ゆい「クロ、お皿お願い」
「俺は監督だ」
「一番腹立つやつ!」
外の曇り空とは違って。
喫茶店の中だけは、いつもより騒がしかった。
お読みくださりありがとうございました。
はしやすめの回を書きたくてこんな感じになりました。




