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ep:13 あの時の約束

読んでいただきありがとうございます。

仲良くまとまって一安心。


ポータルから屋敷へ戻ると、「旦那様!」と執事の声がした


「奥様の呼吸がっ・・・」


タイミングが良いのか悪いのか

真っ青な執事の顔面に、嫌な予感がしてアヴァの部屋に走り出す


「アヴァッ!?」


勢いよく扉を開けて、ベッドの彼女を覗き込む

下顎呼吸に近い異常な呼吸の仕方をする彼女の顔面は先ほど見た時よりさらに青白い

背筋に嫌な汗が伝う


「ルー!」


影を呼び、()()を持ってくるように伝えた

一瞬で消えた影が再び姿を現すまでは早かった


影から受け取ったそれは、かつての茉優に渡すはずだったもの


どうしたら良い

必死に考える



この世界には自身の魔力を対象の体内に取込ませ

回復を促す治療法がある

もちろん、患者と合わない波長の魔力を注入すると命に関わるが、合う合わないは注入してみないと分からない

アヴァ自身、身体の何処に異常があるのかもわからない。

目に見える怪我など無いのだから。

そんなアヴァにこの方法は有効なのかさえ不明だ。

ただ、彼女の中に、意識に入ることが出来る可能性が少しでもあるのならば…。



「…魔石を作っておいて良かった」


彼女の胸元にあるそれにそっと両手を添えた

うまくいくかは分からない


自身の意識を魔石に集中する

自身の魔力をゆっくりゆっくり彼女へ移動させる

彼女の体内をゆっくりと探る

直後、何かに引っ張られるような感覚が起こった





「…旦那様っ!?」


奥様の胸元に両手を添えていた旦那様が急に奥様に覆いかぶさるように倒れた

慌てて駆け寄る

意識はないが呼吸は落ち着いているようだ

一先ずその事実にホッと胸を撫で下ろした。

残念ながらこの老体では旦那様の逞しい身体を持ち上げ奥様の隣に横たえることは難しい

影に声を掛けるとどこからともなく現れたそれは何も言わずとも旦那様の身体を奥様の横に移動させた


“何が起こったのやら…”


戻られた旦那様に奥様の容態が芳しくないことを伝えた

胸元に手を添えた旦那様が意識を急に失った


何もわからない老いぼれ執事は、ただご夫婦の意識が戻ることを願うことしか出来なかった






「っ!?」


いつもより軽い感覚のする身体を起き上がらせた

周囲を見渡すと、いつか見たあの日の景色

顔を横に向けると、テーブルの上にある小さな小箱を見つけた

夕暮れの陽の光が窓から差し込んだ



「…寝てた…のか?」


夢?

カチカチと秒針の音が聞こえる静かな部屋

小箱の横にはスマホが置かれていた

そのスマホがチカチカと通知があることを知らせた

何の気なしにスマホを手に取り開いた


“ごめん。今日も残業だぁ…”


残念、と書かれたスタンプと共に一言送られてきていた


「あぁ〜…またかぁ。今夜も遅いのか…大丈夫かな?」


当たり前のように受け入れて“わかったよ。落ち着いたら大事な話があるんだ。なるべく早く。”と返信する


「プロポーズの機会…中々取れないなぁ…」


はぁとため息をつく

いつになったらプロポーズできるだろう

このまま仕事が続くといつ叶うだろう


「…半年先とか本当に勘弁だけどなぁー」


何とか口説き落として、同棲までたどり着いたから良いものの…仮に同棲してなかったとして、放っておいたら、半年、否、1年以上会えないこともあり得そうだ。

かと言って、家の中でプロポーズも何か自分が嫌だ。


「………ん?」


ふと胸に違和感を感じた

1年どころか一生会えない不安が胸を占める


一生…

ふとカレンダーを見た



なんでそう思うのか、“今夜”が異様に気になった


命日?

誰の?


茉優…



「………」


“自分が此処にいる”理由を思い出す

今夜は茉優が生命を終えた日



「約束を…」


小箱を持ち慌てて部屋を後にする

あの場所まで走る


茉優と叶汰の人生を終えた今

此処に居る理由



彼女の会社まで電車を乗り継ぎ、駅から走る  

 早く

   早く


息を切らし会社の入り口まで辿り着く


“茉優は…”


目の前を横切る黒髪の女性

スローの様にその光景を見つめた


疲れ切ったその横顔


“茉優!行くなっ!”


ガクガクする足腰を奮い立たせ彼女の後を追う

車のヘッドライトが異様に明るく感じた


グイッと腕をつかむことが出来た

自分の腕の中に引き寄せた


心臓がドクンドクンと波打つ

はぁはぁと荒くなる自分の息遣い

身体中が震えた


ざわつく周囲の音に顔を上げた


“っ!?”


血溜まりの中にいる茉優


“なんで!?”


確かに腕の中に引き寄せたはず

自身が抱きしめているものを確認する


それは自分の視線に気付き、顔を上げた


“茉…優…?”


ニコリと腕の中で微笑む茉優


“久しぶり。ありがとう。”


懐かしいその笑顔に涙が溢れた


“茉優っ…”


その体をぎゅっと抱きしめる

ポタポタと溢れ出てくる涙を止められない 

男なのに情けない

彼女はそう思うだろうか?


それでも良い

守れなかった悔しさと

二度と会えなくなったと理解した時の絶望

アヴァとしてもう一度会えた時、彼女が覚えていなかった寂しさ

色んな感情がぐるぐると混じって涙として出てくる

嗚咽を混じえながら必死に言葉を紡いだ


“ごめっ、茉優…ごめん!守れなかったっ…”


言うべきことはそれじゃないのはわかってる

それでも言いたくて仕方ない

あの日、連絡をもらって遅くなるのはわかった

迎えに行けばよかった。

過去をやり直せたらと何度願っただろうか


すっと背中に触れる茉優の手


“大丈夫よ。ありがとう。”


顔を見ると、相変わらず微笑んでいる彼女


“あたし、叶汰の事、大好きだったもん。コレで良かったよ。”


“…良くないよ。俺、何も茉優に伝えてない”


ごそごそとポケットから小箱を取り出し蓋を開ける


“結婚…してほしい。そう伝えたかった。”


“え?”


予想してなかったのか、茉優の目がまん丸になるのに笑いがこみ上げた


“茉優も叶汰も死んだ。それはかわらない事だけど。次はネイサンとして……アヴァにプロポーズするよ。”


そう言いながら小箱に入っていた婚約指輪を茉優の左手薬指に着ける


“…本当に?”


キラリと光る婚約指輪を見ながら、茉優の瞳からぽたりぽたりと零れ落ちる涙


“アヴァ、戻ってきて。また俺を一人にするのはやめて。”


そう言って抱きしめる


“ごめんなさい…気付かなくて…ごめんね。”


震える声で謝る茉優の容姿が段々と変化していく

黒かった髪は段々とライラックに変化していく


茉優が殺されたあの日、きっとざわついていただろう場所もいつの間にか消えていた

静かなその世界はあの世なのだろうか。

過去は変えられない

あの日、彼女が死んだ事実はそのままだ。

自分が自決した事実もそのままだ。



“叶汰…。”


そう言って見上げたアヴァの瞳にはいつの間にか叶汰ではなく、ネイサンが映っている

ニコリと微笑んだアヴァはネイサンに言う


“貴方の所に戻るわ。今度こそ一緒に生きていきたい…”


静かに瞳を閉じたアヴァは、ネイサンの唇にそっと口付けた

それに応えるようにネイサンも瞳を閉じた





真っ暗な感覚からなんとなくふわふわとした明るい景色が見えた気がした

目を開けると目の前で、幼い頃からの爺、今は執事として傍においている男が涙と鼻水を流して自身に呼びかけていた


「坊ちゃまぁぁ〜!!」  


自身の瞼が動いたことで、執事はおいおいと泣いたのだろう


“爺は心配しましたぞ!目を覚ましてくださって良かったです!”

そう叫び続ける執事


「……その呼び方はよせ。」



大人になるにつれて、呼ばれてほしくなくなった“坊ちゃま”呼びを止めた。このタイミングで突然復活させた事に苛立った


横を向くと、長い睫毛が見えた

相変わらず美しい寝顔のアヴァがいた

自身の記憶を遡る

どうやら先程の最悪な状態は脱したようで顔色も呼吸も落ち着いているように感じた

ふぅとため息を一つ零した


「…奥様はまだお目覚めになりませんが…顔色や呼吸は先程よりも落ち着いたようです。」


旦那様が倒れている間に医師を呼び診察させています、と報告を受けた


「そうか。」


夢だったのだろうか

アヴァの横から起き上がり、彼女の顔を見た

先程、はめたはずの左手薬指に口付けを落とそうと彼女の左手を取った



「…。」


左手薬指にはプロポーズした際にはめたあの指輪があった

夢じゃない。


「早く…目覚めて。アヴァ。」


そう言って唇に口付けた。

ピクリと長い睫毛が揺れる

ゆっくりと開かれる瞼


「おはよう。」


彼女の瞳に自分が映ることに何とも言えない幸せな感情が起こる

仮に覚えてなかったとしても良い

もう一度はじめよう。

彼女が生きている

記憶がなかろうとそれでも充分だと思った

しっかりとアヴァの瞳と目が合う

心臓がドキリと跳ねた


「…な…」


(なっ!?)



突然倒れた事で、アヴァの記憶が無くなったなどの可能性もあるのではと主治医から聞かされていた執事は不安になる



「何で教えてくれなかったのよ…」


ネイサンの顔を見るなりアヴァは起き上がり抱きついた


「ごめんね…」


腕の中にいるアヴァに安堵を覚え、抱きしめ返した


意識を失う前後でのアヴァの様子が違うことに使用人は目を丸くする

しかしすぐに切り替え主人と夫人の時間を邪魔はするまぃと静かに使用人達は部屋をあとにした


「…いつからあたしが、茉優って気付いてたの?」


腕の中にいるアヴァが問う

ネイサンは、幼少期に見つけ思い出したことを伝えた


「…茉優が死んで…色々あってね。俺も死んだんだよ。」



「………。」



「茉優の前に生きていた記憶…思い出した?」



1度目のアヴァの事を聞く

こくんと頷いたのがわかった



「…フローラのお陰で1度目はアヴァに辛い思いをさせてしまった…2度目に出会って今度こそと思ったのに守れなかった…。3度目こそ君と幸せになりたい。」


不甲斐なくてごめん。

そう謝りながら…。



「1度目の私はね。貴方を愛していたの。それでも邪魔をしないように、貴方がただ穏やかに幸せに過ごせるように願っていたわ。」



腕の中のアヴァは静かに話しだした



「2度目はね、ごめんね。記憶なくて。知り合って付き合って、叶汰の事、本当に好きだったの。“大事な話”が別れ話じゃないかって思ってたから、話を聞かずに死んでよかったと思ってたのよ…クールだったから…そんなに愛されてたなんて知らなかったの。」


ぎゅっと、アヴァを抱く力が強くなる



「3度目はね、1度目のアヴァの記憶忘れてて…茉優で読んだラノベの記憶だと思ってたから…殺されないように…只々、貴方から逃げようかと思ったの。」



「……今も逃げたい?」


その問いにアヴァは首を横に振る


「ううん。もう思い出したから…。」


腕の中のアヴァは顔を上げた 


「プロポーズ…ありがとう。今度こそ…一緒にいてくれる?」


その言葉にたまらず口付ける

深く深く唇が合わさり合い互いの吐息が聞こえた



「もう離さない。愛してるよ。」
























以降、気まぐれ更新となります。

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