ep.10 ネイサンの思い出し作戦
物語続きます
どうなるのかな。
夕食の後、2人で散歩をしないかと誘うと承諾してくれた。
ライトアップされた庭のデイジーの花畑を見ながら、手をつなぎ歩きだす
最初の方こそ、それとなく外そうかしている様子はあったが結婚を承諾してくれてから握り返してくれるようになった。
「綺麗ですねぇ」
デイジーの沢山咲いている花壇沿いにゆっくりと歩く
見えないが影は仕事をしているはずだ、
なにかあればすぐに飛び出せるようにスタンバイしているはず
「公…ネイサンサマ…。お…聞いても…良い?」
昼間の約束通り、変な言葉を使うことはあるがアヴァなりに名前呼びや、敬語を気を付けて直してくれている
その真面目な所も可愛い
「ん?なぁに?」
自分で思うより高めの声だ
今の私はきっと鼻の下が伸びているのだろう
「前言ってた…私が好きだからこの花を植えたって…」
バラが似合うこの庭園でデイジーが咲いていることに疑問を持つのはアヴァだけではない
使用人も主が頑なにこの花を譲らないから疑問に思っているのだとは思う
「あぁ…そうだね。」
かつてのアヴァが、茉優としての人生を送っていた頃
好きだった花
「私、デイジーが好きなんだ。デイジーの花言葉を昔聞いた時にね。素敵だなぁって。白い花びらが揺れるのも可愛いよね。」
花の咲き乱れる公園に行ったときそう教えてくれた。
「…デイジーって冬から春中旬にかけて咲く花じゃなかったです?なんでこんな暑い時期に…。」
過去に思いを馳せているとアヴァが聞いてくる
「凄いね。花の季節知っているなんて。この屋敷は私の魔力の範囲内で管理できるからね。だからどんなに真夏でも日中歩いていて暑いなんてことはないだろう?」
アヴァがなるほど。と頷いた。
「私にとってはデイジーは大事な人との思い出の花なんだ。」
アヴァの方に向かい合い、緊張で息を吐き
丁寧に声をかけた
「デイジーの花言葉はね、“あなたと同じ気持ち”“希望”があるんだよ。君が教えてくれたんだ。」
「えっ?」
ネイサンに言われ、自身の記憶を振り返る
「…私…ですか?」
その言葉に困ったように笑いながら“うん。”そう返事をされる。
そのままグイッと手を引かれネイサンの胸元に身体を預ける形となる。
ネイサンの心臓の音が早いように思う
「いつか…約束した大事な話をしたい。 」
言われている事の意味は分からないが、切実なネイサンの声に抵抗することもできずしばらくの間、腕の中にいることにした
“この人の言ってる約束した話は1度目のアヴァとのことなのかな。”
私が知らないネイサンとアヴァ
前世のあたしにとってはただのラノベの世界
運良くなのかラノベの世界に転生したあたしは元々は只の読者でしかない。
本来はネイサンに感情を抱いてはいけないはず。
いけないはずなんだけど…。
知らない間にキャラクターに抱いた心
いつの間にかあたしには此処が自分の生きていく世界となってしまっていた
“彼があたしを見ていないことくらい知ってる”
彼はあたしの中に誰かを見てる。
何とも言えない感情が自分を蝕む
見えない誰かに悋気を起こしている自分
「ごめんね」
自分の身体を包んでいた優しい香りと温かさが離れていく
代わりに手を繋ぎ、再び歩きだす
暫しの沈黙のあと、ネイサンは思い出したように話しかける
「あ、そうそう。紹介したいやつが居るんだよ。いざとなったときにこいつは、君の味方ってわかっておいて欲しくてね。」
「えっ??」
ネイサンが何かを唱えパチンと指を鳴らすと、自分達の周囲にボンヤリとピンク色の靄につつまれた。
同時に「どうも〜」と何とも明るい声がした
見ると、黒い頭巾を手に持った、茶髪の少年がいた
「こいつは私の影。君の護衛をしている奴だ。」
「護衛って言うか…まぁ。」
ポリポリと頬をかく少年にネイサンが睨みをきかせるとその先の言葉を濁す
「まっ、宜しくね。 アヴァサマ。」
「あっ!」
両手を頭の後ろで抱え、にこにこと笑みを浮かべる少年
何処かで見たことがあると思った。
「常連さん!?」
アヴァの働いている店の常連さん
いつも私や、女将達に声をかけ気さくに話しかけてくれる人だった。
でも、髪の色が違う気もするが。
「さっすが、アヴァサマ。そうそう。あそこの“常連さん”しながら君の護衛してたの。黙っていてごめんネ」
顔の前で両手を合わせ謝罪される
「あ、いえ。私も気付かず…守ってもらっていたなんてすみません。」
思わず頭を下げる
律儀〜なんて頭上で声がしたと同時にパチンと張りのある音がした。
「痛ってぇ〜」なんて声も一緒に聞こえた
「気にしないでクダサイナ。俺の
仕事だし。アヴァサマ、面白いからねぇ。」
あはは〜と笑いながら返事をする少年
「あの…名前を伺っても?」
護衛に名前聞くなんて変わってるね~なんて言いながら教えてくれた
「ルーとでも呼んでね。」
“アヴァに馴れ馴れしすぎる!”と横で怒りだしたネイサンと“理不尽っすよ〜”と理不尽と思っていなさそうな何とも気の抜けた2人のやり取りを見ながら、私が見たラノベにこのキャラが存在していたのか必死に思い出す。
“居ないような気がしたけど…。”
色々なことが原作と変わりすぎていて段々わからなくなってきた。
そもそもネイサンと散歩をするシーンなんかも無かったような気がするが…わからない。
“こんなピンクの靄…かかっていたかな?”
自分達の周囲がふんわりとピンク色の靄が立ち込めているが、2人は大して気にしていない様子。
「あの、この靄は?」
ただの霧ならそんなに疑問に思うこともないだろうけれど、色がついている時点で、怪しい
「あぁ、余計な蝿が居たからね、防音魔法をかけておいたよ。あちらからしたら私達が手を繋いで他愛もない話をしているようにしか見えないからね。」
幻覚が見えるようにしているから、特段怪しまれないだろうね、とさらっと言われた
私のような平民は、そんな魔法は使えない。
なんて便利なんだろう。魔法。
「それよりさ。主様。あと1カ月たたないうちに収穫祭ダヨ…そろそろ動き出しそうだから気をつけてね?
」
何が動き出すのだろう?首を傾げながら、2人のやり取りを静かに聞く。
「あぁ。 我が家にも頼んでないのに、客人が来るからね。丁重におもてなしは毎回しているよ。」
含みのある言葉に含みのある笑みを浮かべている。
「じゃっ、アヴァ様、またね。もし俺に用事があるなら声かけてねー」
言うが早いかその姿もうなかった
「晩夏といえど、日が落ちると寒くなってくるね。冷えると体に良くないしそろそろ戻ろうか」
そういって背中に手を添えてくれた公爵様と一緒に屋敷に戻った
翌朝、公爵様が仕事に出掛けあたしも出勤する
「おはよう。アヴァ」
いつも通り公爵様が設置してくれた屋敷からのポータルを使い出勤する
女将さんが声を掛けてくれる
「おはようございます。」
ニコリと微笑み挨拶を行いいつも通りに白いエプロンを身に着け仕事をする
「こんにちわー!」
昨日聞いた声を耳にした
振り返ると昨日、ネイサンに「護衛」と紹介されたルーが店の入り口から入ってくる
「常連さん。いらっしゃい!」
姿を確認した女将が元気よく声を掛けた
常連さんはいつもの席に座り“女将!いつもの!”と注文をする
そのまま他愛もない会話をしながら常連さん、改め護衛さんと女将さんと過ごすいつもの日常
「あ、アヴァ。悪いけど少し頼まれてきてくれないかぃ?」
裏に戻った際に、女将さんから声がかかる
「頼まれごとですか?」
「あぁ。今、注文が入ってね。ここへ配達してきてくれないかぃ?いつもはうちの人が行くんだけどね・・」
“何故かあんた指名なんだよ。指名制ではないって言ってんだけどね。”
相手の人、女性だし友人だって言うから・・・
そう言いながらため息をつく女将
「リリーって知ってるかぃ?その子から‥」
リリーならよく知ってる。
私の幼馴染で親友だ
いつもなら店に来るのに
「知っていますよ。すみません、ご心配かけて。私行きますね」
たまに来る幼馴染だと話をすると女将は少し考え「あぁ!あの子かぃ!」と顔を思い出したようだった
いつもなら店に食べに来るのに珍しいねぇなんて女将が言いながら、注文された商品を渡される
「お願いね。」
リリーの指定した場所はここから徒歩でいける距離だ
「行ってきます」
そう言いながら裏口から目的地へ歩き出す
「ん?女将さん、アヴァちゃん居なくなった?」
公爵様がアヴァちゃんに渡した宝石と言う名の魔石の気配が店から消えた
「あぁ。あんたアヴァちゃん狙いかぃ?やめときな」
良い人いるよ、と笑いながら答えてくれる女将だが、今欲しい答えは違う
「いやー違う違う。ご馳走様」
そう言いながら、お代を差し出し慌てて店を出た
魔石の気配を辿りその方向へ向かう
外で待つ護衛は慌てて出てきたルーに驚き後に続いた
慌てて追いかけ人通りが少ない通りでアヴァの後姿を見つける
同時に何かゾワリと背中を悪寒がはしる
「アヴァサマ!」
声を掛けると振り返ったアヴァがこちらの姿をとらえ大きく手を振った
「すみません!リリーの所へ行ってきますね」
そう言いながら一方後ろにアヴァが後ずさったと同時にアヴァの足元が不気味に光る
“!?”
走り出したままその腕をつかもうと必死に手を伸ばす
何事かと驚きの表情のアヴァの姿
伸ばした手は宙をとらえ
一瞬にしてアヴァの姿が消えた
「・・まじか。やべぇ・・」
「呪い・・・?」
魔法を使う事の出来ない護衛は戦々恐々としている
「・・公爵様にすべて報告して。俺は捜すから」
そう言い残し、魔石の気配を辿る
読んでいただいてありがとうございます。
誤字脱字あれば教えて頂けたら嬉しいです。




