ep.9 公爵サマと影
先日の公爵様の告白を受けどうやら“アヴァ”が二度目の人生を歩んでいることを知った
そこで不思議なのがあたしの記憶
“あたしは何者か?”と言うことだ
時折浮かんでは消えていく誰かの顔
その人が呼んでくれてるのは恐らく前世のあたしの名前
思い出したいと“あたし”が言っている
「う〜ん。」
公爵様の求愛に承諾はした
そして何故かアヴァ自身にも前世があり二度目の人生だと理解した
それに何故かヒロインがアヴァを狙っている?と言われた
「原作と違う気がするけど…これが正しいのかな?」
人生途中リタイアしたあたしにとっては最早何が正しいのかわからない。
あたしの名前を思い出すのも大切な気はするが後々どうにかできることだ。
まずはあと1カ月後に迫った収穫祭に向けて対策を練らなくては…。
再び殺されるのはまっぴら御免だ。
“あたしの罪”として1度は受け入れようと思ったが、公爵様の話を聞いて思った。
理不尽すぎる。
理不尽な人生を生きた1度目のアヴァのためにもあたしは生きなければならないと目標を変えた。
「…なんで、私の事をヒロインが狙っているのか、そこが分かれば良いんじゃないかしら?」
アヴァの性格上、人に不快な思いをさせることは可能性として小さい気もするが万が一もある。
もしかしたら、何処かで既に知り合っていてヒロインに嫌われるような何かを、アヴァがしていたら?
「どうやって調べよう。」
貴族ならまだしも只の平民にそんな力はない。
伯爵家へ養子の手続きも公爵様が進めてくれてはいるが、なんせ養子だ、人の使い方なんてしらない。
「失礼するよ。」
コンコンとドアをノックする音が聞こえたと同時に声が聞こえた
「公爵様、どうしたのですか?」
姿が見え立ち上がり礼をする
手で制止された
「アヴァ…礼儀正しいのは分かるけど私達は婚約者になるんだよ。ネイサンと呼んでくれると嬉しいよ。それから私に敬語は要らないよ。」
そんな事を言われても、立場が上、しかも公爵にタメ口で話せというのは些か無理ではなかろうか。
ジト目で公爵様をみるがニコニコと笑みを貼り付けたまま
「ん?」
「……ネッ……ネイ…サン…さま」
好きだと自覚した人を名前で呼ぶのはこうも恥ずかしかっただろうか。
顔を見ることもできず俯きながら名前を呼ぼうとするが言葉がスムーズに出てきてくれない
「うーん。及第点かな。」
はははと笑う彼に、前世の記憶が重なった
確か…その時あたしは
「…次こそ。練習するので待っていて。」
そう小さく、小さく応えた。
同じ様に言葉を紡ぐと目の前の彼は呆然とあたしを見ている
「?…あのっ?」
「…次こそ。練習するので待っていて。」
その言葉を聞いて驚いた
彼女に記憶が戻ったのかと
目の前の彼女は不思議そうに自分を見ている
違う
でもやっぱり“彼女”だ。
「何でもないよ。……待ってるね。」
当時と同じ様に待ってると伝えた。
会いたいな、私の茉優。
「あの、ここには何かご用事ですか?」
そういえばとアヴァは質問する
「ああ、そうだ。今晩夕食の後、少し時間あるかな?」
「時間ですか?はい。大丈夫です」
その返事にわざとらしく表情を作り応えた
「…。」
はぁとため息も一緒につける
「あっ…。わか…った。夕食の後、大丈夫。」
何となくカタコトのぎこちないその言葉に笑みが溢れた
「ありがとう。夕食までの間に残りの仕事を片付けてくるね。」
一瞬の隙をついて、アヴァを抱き寄せ額に口付ける
「っ!?」
慣れないねぇなんて笑うと睨まれるが怖くない
「…恋愛なんて久しぶりなので…」
取り繕うように額に手を置きながら彼女は答えたが…
久しぶり?
部屋の温度が下がるのがわかったのか使用人が礼を取りそそくさと部屋を後にしていくのを視界の端に捉えた
「久しぶりなの?アヴァ、恋人いたの?」
思っているより低い声が出た
ビクリとアヴァの肩が揺れたのがわかった
「いやっ。あのっ。」
聞きたくないが聞きたい。
「ふ〜ん。その恋人とは何処までいったのかな?口付けは?それ以上は?」
抱き寄せられたままのアヴァは一瞬固まり、顔を真っ赤にする
「それ以上!?」
何を言わせるの!?と言わんばかりの表情
「別れたのはいつ?」
私が調べた過去ではそんな事なかったはず。
影の知らない内に?
仕事が生温い。鍛え直さねばと思った
「こここ恋人なんて居ないですよ!」
じゃあ何で久しぶりなんて言ったのかな?
モヤモヤ、イライラが募る
「…アヴァ、私は君の何?」
「…こ、婚約者…です。」
ニコリと微笑んで彼女の頬に手を添えた
「そうだね。君の恋人であり婚約者。君の男は私だけだよ。」
そう言うと真っ青にした彼女は、力強く何度もこくこくと頷いた
ようやく苛つきがおさまり彼女を解放した
離れた途端思い切り肩で息をしている
“これで久しぶり…”
どんな初な恋愛をしていたんだか
そんな気持ちを相手に向けること自体納得できない
こちとら前世、前前世共に彼女しか愛していないのだから
再び怒りの炎が燃え出しそうになるのを長い溜息で何とかこらえた
「じゃぁ、また後でね。」
そう軽く手を振りアヴァの部屋を後にした
「彼女は恋愛は久しぶりだと私に言った」
影を呼び出し伝える
「調べが甘いのでは?」
その言葉に沈黙を続ける影
「鍛え直そうか。」
そう言って剣に手を掛ける
途端にビクリと影の肩が揺れた
ついで、降参のポーズをしながら答える
「いや〜…調べた感じ…恋人やその類いの感情を抱きそうな人物いませんでしたけど…。」
影曰く周りは、孤児院の女性世話役達が多くとてもじゃないが男が多くいるようには思えない、とのこと。
時々貴族のおじさんたちが来るくらい。
彼女の好みのタイプがうんと年上ではない限りこの組み合わせはまずないだろう。
影は自らの黒頭巾を取り頭をガシガシとかく
「ん〜でも。不思議なことがあってですねえ〜」
のんびりと話を続ける影をじろりと睨む
「…アヴァ様の仕事ぶりがある日を境にガラッと変わったこと。」
「仕事ぶり?」
影の言葉を繰り返す
「そっす。公爵サマに言われて俺、ずっとアヴァちゃん見てきたじゃんね〜。ちょっと前までまぁ、報告通り皿は割るし、注文は間違えるし…」
「可愛いじゃないか。」
間伐入れずに答えるネイサンに、“骨抜きですね〜”
と答えた
「まぁ、そんな感じで仕事としては成り立たなかったんですよ。口説かれても、気付かないし…。」
「はっ?そこは聞いてないぞ。」
口説かれても、という言葉への反応スピードが凄い
影は呆れた顔を見せながら続ける
「まぁ、アヴァちゃんが気付いてたら報告かなぁとは思ったけど。本人は注文の間のコミュニケーション位にしか思ってないからねぇ。」
「……今後は全て報告だ。」
へいへいとやる気の無さそうな返事とともに両手を頭の後ろに持っていく影
「本題良い?ちょっと前から、アヴァちゃんの仕事ぶりがそれはもう凄くてね。テキパキ動くし、仕事は完璧だし。店主も女将も皆、驚いてたよ。」
「……急に人はそんな変わるのか?」
その言葉に影は腕を組み応えた
「普通はないよねぇ…仕事に対しての情熱凄かったし。考えられるのは人が変わったか…」
んな訳ないよなぁ〜。なんて言いながら影はのほほんとしている
“人が変わった…?”
ネイサンの命令で影がストーカーと言う名の護衛をしている。
危険なことがあれば直ぐに助けるように命令もしている
物理的に人が入れ替わったのなら、影が気づくはず
中身が変わるなんてことあるのか?
「…前世を思い出した?」
何らかの刺激で前世を思い出したとして1週目のアヴァはとてもおっとりした人間だった
1度目のアヴァの人生を思い出したとして、仕事の仕方が変わるとは思えない。
仕事は完璧…テキパキ
「…茉優…?」
もしそうだとして、何故前世の記憶の話をした時点で話さないんだ?
「茉優って…公爵サマが言ってた、“前世”ってやつですか?今のアヴァちゃんの前の…」
「あぁ、仕事人間の娘だよ。不器用で可愛い子だ。」
暫し考え一つの結論に達する
「完全には思い出せていないのかも知れない」
いずれにしても“茉優”の事を、確認したい
だが、彼女が忘れていた場合無理に記憶を引き出せば彼女の心が壊れてしまう。
「……はぁ。」
それとなく再現を作りながら彼女が思い出した事を話せるように促していくしかない
先は長い。
「早く、頭の先からつま先まで私のものにしたい。」
「うわぁ~…執着こわぁ~」
影の言葉に睨みをきかせる
読んでいただいてありがとうございます。
誤字脱字あれば教えて頂けたら嬉しいです。




