7 学園へ
エテラスル王立総合学園。
王都より徒歩で半日ほどの距離に有るそれは、強固な外壁に囲まれており、それ自体が小さな都市と呼べる規模を誇っている。
この学園に関わる費用は、全て王国による無償提供であり、次世代の若者を育てることに全力を上げており、王国の力の入れ様が伺えよう。
王国の少年少女達は六年間、この学園の寮で共同生活を送り、人生の基礎や技能を身につけるのである。
◇
キーナ六歳の春。
グラストルを出発した新入生と保護者達は、一泊二日の馬車の旅を終え、学園都市の門を通過した。
田舎道での馬車旅はなかなかに辛いものであった様で、一同はそれぞれに体を解していている。
「にゃ~~~~。やっと着いたのにゃ~」
「お尻がカチカチになったんだなぁ」
「到着ぅー! やっほーい!」
「……おなかすいたのよ」
「でっかい街だなー!」
「人がいっぱいだ、すげえ!」
新入生達は、それぞれの感想をもらしつつ馬車を降りる。
駐車場は数多くの馬車で埋め尽くされて、人で溢れかえっていた。
「ワフッ!」
「シルバもお疲れさま~。よーしよし」
「ハッハッ……」
馬車を護衛しながら走って来たシルバは、キーナに顔を寄せて目を細める。
尻尾も全開である。
「シルバも一緒に来れてよかったんだな」
「街のみんなも一緒で楽しそうだにゃ~」
「シルバは家族だもんね~。ね~?」
「バウッ♪」
学園寮には幾つかの種類があり、自由に選択できる。
ホテルっぽいものから一軒家、変わった所では森のツリーハウス等もある、種族特性に合わせて拡張され続けているのだ。
新入生達は、グラストル出身者が先住している庭付きの屋敷へと合流する事になっている。シルバのような従魔が居ても大丈夫というわけだ。
まるで番犬ならぬ番狼である。
◇
「では皆さん、入寮の手続きを済ませてしまいましょう」
学園事務所前特設受付会場。
その芝生広場には幾つものテントが並び、職員らが慌ただしく動いていて、王国全土から集まった人々は、次々に入学及び入寮の手続きを行っていた。
「お次の方どうぞー」
「はーい!」
職員の一人に案内され、キーナ親子が手続きに入る。
事前に書類等は受理されているので、学生証に魔力登録をした後、学生服や運動服のサイズ確認を行えば終わりである。
学生証には特別配給金の残高が記録され、学園都市内にある食堂、売店、その他施設での支払いに利用できる。
現金を支給しないのは、第三者による搾取を防止する為である。
学生服は貸与品で、その生地は中級程度の魔法に耐久性を持つ特選品だ。
白地に学年色ラインの襟シャツ、用途別のアウター、学年色のフード付きマント及び革靴。
それに加えて、男子は濃紺の長ズボン、女子は学年色のスカートである。
運動服は綿で出来た学年色で染められた上下一式である。
ちなみに、キーナたちの学年色は水色である。
「――はい、以上で手続きは終了です。これから頑張ってくださいね」
「がんばるー!」
キーナは学生証を手に、へー、ほー? と唸りつつ寮へと歩き出した。
「こらこら、ちゃんと前見て道を覚えないとだめだぞ?」
「あう。 わかったー」
そう、明日からは子供たちだけで生活するのだから。
◇
グラストル一行は道中で合流し、学生寮エリアへとやって来た。
「えーっと? 案内によるとこの看板を右だな」
探しながら歩くこと十数分、玄関先でこちらに手を振る姿が見えた
「ベアータさ~ん! こちらですー!」
「あらまぁミルドラちゃん? お久しぶりね、見違えたわ」
一行を出迎えたのは、雑貨店の一人娘で狐人族のミルドラであった。
五年生になり、成長の早い種族特性も相まって、淡い金色の毛並みを靡かせるその姿は、大人の身体へと近づきつつあった。
「……ミルドラおねーちゃんなの?」
「そうですよー? キーナちゃんも大きくなったねー。なでなで~」
「そーぉ? えへへー♪」
髪を撫でられ、久々の再会を喜び合う。
成長したとはいえ、まだまだ人間の六歳児であるが。
一息ついたところで、ミルドラの目線がその隣に釘付けになる。
「ところで、このカッコ良いもふもふさんはいったい何方ですかな?」
シルバである。
「シルバだよー。おおかみさんなの」
「ミルドラちゃんが街を出てから色々あってね? それ以来キーナと一緒にいるってわけ」
「ワフッ!」
「そうなんですかー。それにしてもおっきくてカッコ良いですー」
ごしゅじんさまともどもよろしくねー、と言わんばかりに尻尾を振り、シルバはミルドラの足に顔を寄せる。
「うわー……もっふもふだー……」
「シルバのけなみはさいこうなのだー!」
何故かドヤ顔のキーナと、その毛並みに感動するミルドラであった。
「ミルドラお姉さんは前と変わってなくて安心したのよ」
「ははは……。あの時はまいったよ」
「そっとしておくのよ」「うん」
一方、獣人族の男女二人はそっと呟くのであった。
その昔、何かあった様子だ。
「さて、そろそろ中に案内して欲しいんだが?」
「あっ、そうでしたすみません。こちらへどうぞ」
しばらく見守っていたものの、じれてきた親の一人が声をかけると、いよいよ一行は寮の中へと入っていった。