36 魔法技術研究会
魔法技術研究会の当日。
第一区画の閉鎖区画に有るその建物には、全国から呼び寄せた、豪華な顔ぶれが集合していた。
各国の貴族、魔法技術担当。
民間の研究員、魔道具ギルドの開発者達だ。
「招待客の皆様、ようこそお越し下さいました。魔法技術研究会の会員一同、深くお礼を申し上げます――」
コアトロイの挨拶が始まり、深々と礼をする。正会員達もそれに習った。
「――さて、魔法技術研究会の目的は大きく二つ」
コアトロイは指を二本立て、一つを折り曲げる。
「一つ目は、魔法名簿を纏め上げること。東に突飛な属性魔法あらば駆けつけ記録し、西に新たなる属性魔法があらばしかと目に焼き付ける。これは知的探究心を大いに刺激する為のものなのです!」
そのとおり! と正会員が声を上げる。
コアトロイは正会員をなだめるように手を動かすと、二本立てる。
「二つ目は、それらの魔法を魔道具として利用して行こうというものです。基本的なもの、生活に根ざした魔道具は、既に普及しつつ有ります。主要な都市であれば、一日の内に見かけないということが無い事でしょう――」
暫くの間、コアトロイの挨拶が続く。
◇
挨拶が終わると、研究報告会が始まった。
何処其処で過去の遺産を発掘しただの、何々の魔道具の再現率が上昇しただのといった報告が続く。
「続きましてはワタクシ、魔道具ギルド主任研究員のパジアーノが報告致します」
報告を始めた人物を見たキーナは、やはりすぐに再会出来たな、と考えていた。
そう、第四区画で馬を暴走させた男だったのだ。
「彼が、今回キーナが誘われた件の担当ですわよ」
「担当? どういうことです?」
「まあ、もう少ししたら判るわ」
「……はぁ」
デビアスが小声でそう言うと、キーナは首を傾げたのだった。
◇
報告会が終わると、試験場へと移動した。
ここからは、属性魔法の実技を行うとのことであった。
「では、順に披露していただきます」
進行役の誘導で、次々に披露されていく属性魔法達。
キーナには、他を知らない為に比較することが出来ないものばかりであった。
「では次、キーナさんお願いします」
「えっ? あ、はい」
ボケーっと見ていたら自分の番が来たようだ。
「えっと、何をすればいいんですか?」
「適当に、湯属性魔法を見せてあげたらいいわ。ああでも、オンセンを出す奴は内緒にしておいて欲しいわね」
「はあ、まあ解りました」
「ではいきます」
キーナはそう言うと、あっちこっちから湯を出したり飛ばしたりしてみせる。
「これが<滝湯>、こっちが<間欠泉>で……」
今までに開放された湯属性魔法を派手に披露していく。
「水を加熱して放出しているのではなく、始めから湯として放出しているのですな?」
「温度も任意で変えられるとか」
「量や勢いも自由自在のようで……」
研究員達はあーでもないこーでもないと言いながら、手帳に書き込んでいく。
「今のところは、これで全部です」
「はい、ありがとうございました。では次の――」
キーナの出番が終わり、デビアスの隣へと戻る。
「このあと、別室で作業があるからお願いね?」
「作業? はぁ、解りました」
こうして、披露会は昼過ぎまで行われた。
◇
昼食が振る舞われ、以後は個人間での交流の場となった。
「キーナ、移動するわよ」
「んぐ。あ、はい」
食後のケーキをもりもり食べていたが、腕を掴まれて引っ張られていった。
「別室って浴室でしたか」
「オンセンの魔道具を作るのだから当然よね」
「連れてきたわ」
「お待たせしましたデビアス様、キーナ様……おや?」
パジアーノは、その長い耳をひくひくと動かして驚いた。
「先程は魔法ばかりを見ていたために気が付きませんでしたが、山の神の使いのご主人様じゃありませんか。あの節は誠に助かりました、改めてお礼を申し上げます」
パジアーノは深々と礼をした。
「いえいえ、お礼も貰いましたし。頭を上げてください」
「お気遣いに感謝を」
「……一体何があったのかした?」
「ああ、えっと――」
パジアーノは先日の件を説明する。
「なるほど、これも何かの縁なのかしらね。それはそうと、作業を始めましょう」
コアトロイは忙しい仕事の合間に来ているのだ。
「畏まりました。ではキーナさん、こちらの……人形に手を当て、そのオンセンを人形を通じて指先から出すような感じで発動させていただけますかな?」
「ふうん? こうですか?」
パジアーノが取り出したのは、人の赤ちゃんぐらいの大きさの人形で、土とも金属とも違う、独特の風合いで出来ていた。
「はい、ではお願いします」
「行きます」
人形の背中に手を当て、あたかも人形が魔法を使っている感じで魔力を流す。
「にごり湯で――<美人湯>…………あれ?」
「まだです………………きました」
数十秒ほど待つと、人形の指先から弱々しくお湯が流れだした。
「今ので、この人形が手順を記憶しました。次はだれが魔力を送り込んでも湯が出るはずです。やってみます」
パジアーノが人形の背に手を当てて、魔力を流し込む。
――チョロロロロ
「でました……うん、お湯です。色も付いているので間違いないでしょう」
「成功ね」
「はい、ご協力ありがとうございます」
「この量だと入浴するには厳しいですね」
「今は、だけれどね? ここから研究して、使用に耐えうる規模まで持っていくのが彼の仕事なのよ」
「お任せください! 必ずや成功させてみせます」
「期待してるわ。あとキーナ、こちらの書類に署名をしていってね。販売利益に関する契約書よ」
「見せてください……あの、金額おかしくないですか?」
「まだ安いくらいよ? まあ、実用化されるまでは入ってこないのだし、大丈夫よ」
契約書には売上の三割が払われると書いてあった。
魔道具の実売価格がどうなるかはまだ不明だが、初期段階では間違いなく王族貴族に売られる筈であるので、相当長くが払われると考えられる。
「まあ、解りました」
キーナは署名した。
「パジアーノさん、その人形ってまだ持ってます?」
「ええ、まだありますが?」
「じゃあ、他の効能があるオンセンも記憶していきましょうか?」
「本当ですか! 是非お願いします!」
その後、十種類ばかり記憶させたキーナは、デビアス、コアトロイと共に浴室を後にした。
「卒業しても、お金に困ることは無さそうかな?」
「魔道具に関わらなくても、あなたなら食いっぱぐれる事はないわよ」
「そうですかね?」
「そうよ」
デビアスとコアトロイがキーナの顔をまじまじと見つめる。
「自由交易組合本部に欲しいくらいですもの」
「あ、駄目よ。私が先に目をつけてたんですから」
「あはは……」
魔法技術研究会は、こうして和やかに幕を閉じた。
※次回は閑話を挾みます




