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  35  山岳狼

お読み頂き有り難う御座いますm(__)m

「では、いってきますね!」

「ワフ!」

「はい、気をつけてね?」


 翌日、大使館で朝食を終えたキーナは、シルバとともに自由交易都市(セントリッジ)を見て回ることにした。


「お小遣いも貰っちゃったし、なにか買ってこうか?」

「ワフ《おにく かう》」

「はいはい。お肉も買いましょうね!」

「ワフン《やった》」


 大使館を出る前なので、シルバも甘え放題なのであった。







 第二区画へ出た。

 この辺りは住宅街の雰囲気が強く、庭付きの屋敷や、集合住宅などが整然と立ち並んでいた。


「この辺りは、なんだかのどかな雰囲気なんだね」

「ワフ」


 キーナはシルバに乗り、のんびりと街並みを眺めながら進んでいく。


「うおっ! でっかい犬!」

「ちげーよ、狼だろ。……狼だよな?」


 時折、ここに住む子供たちがシルバを指差しながら問答する姿も見かける。

 学園都市では、もはや日常化した風景だったが、自由交易都市(セントリッジ)ではさすがに驚かれるようだった。


 そんなことが有る度に、キーナは子供たちに手を降り、危険がないことを示していった。







 第三区画へ出る門に差し掛かる。


「おはようございます」

「はい、おはようございます」

「ワフ」


 門には警備隊員の詰め所があり、通過者の確認をしていた。

 外部に開放されている第三と第四の区画とは違い、首脳達が暮らす第一及び、中立都市としての居住区である第二区画へは理由が無ければ立ち入り出来ないようになっているのである。



「おっと、少しいいかな?」

「はい?」


 キーナが門をつかしようとすると、虎系獣人族の警備隊員に呼び止められた。


「失礼ですがお嬢さん、中に戻る為の道具類は持っていますか?」

「道具……? えっと、これで大丈夫ですか?」


 取り出したのは、研究会への招待状である。


「では拝見します……これは! はい、勿論大丈夫です。うっかり失くさないように気をつけて下さい」

「はい、では行ってきます」

「お気をつけて」


 招待状を大事にしまうと、活気あふれる第三区画へと進んでいった。




「おおー!」

「ワフン!」


 大通りを一望すると、大勢の人々が行き交い、様々な歓声が上がっていた。


「さすがに降りたほうが良さそうだね……よし、行こっか!」

「ワフッ!」


 シルバから降りると、かたっぱしから店舗を覗いて行く。


「ここは……武器屋さんだね」


 剣、槍、斧に始まる基本的な武器や、変わり種の物までズラリと並べられていた。


「卒業したら武器も決めないとだね~?」

「ワフ?」


 学園の授業で使う武器は、学園が貸し出しているに過ぎず、冒険者として旅をするのであれば、自らの手で手に入れなければならないのだ。まあ、たいていは親から与えられるのだが。


「まあ、今はいいか。次行こう」

「ワフン」





 防具屋、八百屋、道具屋、食堂、商会支部、武器屋、酒場、防具屋……。

 キーナは、その新鮮な景色に心を踊らせていた。


「すごいね~、大人の世界だね~」

「ワッフ?」


 歩いているのは大人ばかりだ。

 この世界では、十五歳で成人とされる。とはいえ、ほんとうの意味で大人と呼ばれるのは十八、九過ぎたぐらいからなのだが。


「あ、お肉屋さん」

「ワフッ!」


 シルバはしっぽを全開に振る。


「はいはい、落ち着いて? 中を見てくるから外で待っててね?」

「ワフ!」


 シルバを外で伏せさせ、キーナは広く開いた間口から店の中へと入っていく。


「わぁ……」


 種類が多いなぁ、眼を泳がせながらシルバのおやつを選ぶ。

 天井から吊り下げられた肉塊や、棚に並べられた加工肉、奥の部屋で切り分けて貰える精肉と、種類は豊富であった。


「ふむふむ……? 紫鶏の生ハムに、三角牛のモモの燻製。それから斑豚の腸詰……?」


 見たことも聞いたこともない名前が多く、なかなか決まらないのであった。


「ん? お嬢ちゃんみたいなお客さんは珍しいな。何か探しているのかい? つっても肉しかねぇけどな! ガハハ!」


 店の奥から現れ、豪快な笑い声を上げたのは、右頬の傷痕が目立つ獅子系獣人だった。


「あ、はい。えっと、あそこに居る従魔のおやつを買おうと思うんですけど」

「ほう? 外にいる従……魔?」


 シルバを見た男の動きが止まり、血の気が引いていく。


「ちょっ……えっ!? どういう事だ!?」

「えっ……あの、どうかしたんですか?」


 キーナが優しく背を撫でて落ち着かせると、ぽつりぽつりと話し始める。


「ああ、いや。若いころに自由交易組合(ギルド)の依頼で山に入ってな。相棒の攻撃が、うっかり山岳狼(マウンテンウルフ)に当たっちまってな……。その時の記憶がよぎっちまったのさ」

「………………なるほど。安心して下さい、うちのシルバは優しいですから」

「そうか……、あんなに大きいのに大人しくしてるんだからな。ああすまん、もう大丈夫だ」


 男はようやく、いつもの調子を取り戻した。


「っと、おやつだったな……よし、この塊なんかどうだ? 熟成してから干した極上の逸品だぜ?」

「ん、じゃあそれください」

「はいよ、驚かせたお詫びに安くしとくぜ」

「そんな、普通に払いますよ?」


 キーナは値札通りのお金を出すが、男はその半分ほどしか受けとらなかった。


「ま、いいってことよ。山岳狼(マウンテンウルフ)の記憶も少し薄れたしな!」

「有難うございます」

「おう、また来てくれよ!」

「ええ!」


 キーナが店を出ると、シルバが頭を擦り付けてくる。


「ワフン!」

「もう少し歩いたらおやつにしましょうね?」

「ワフ!」


 キーナ達は再び歩き始めた。







 日が真上に来る頃、第四区画まで到達していた。

 大通りを外れると、そこには田園風景が広がっていた。家畜小屋や農業従事者達の家がぽつりぽつりと存在している。

 馬車で通過した時には感じなかったが、とても気持ちのいい風が吹いていた。


「よし、あの休憩所でご飯にしましょう」

「ワフ!」


――ドォン!

――――ヒヒヒィン!


 休憩所へ向かって歩く途中、大きな音が鳴ったと思った直後、馬の鳴き声が聞こえてきた。


「何かしら?」

「ワフン?」


「誰かー! その馬を止めてくれー!」


 遠くからの叫び声を背に、一頭の黒い馬が第三区画方面へと迫って来る。


「暴れ馬っていうやつかしら? シルバ、あの馬を止められる?」

「ワフ《まかせて》」

「じゃあお願い」

「ワフッ《いくよ》」


 シルバは馬の正面に立ちふさがり、大きく息を吸う。


「ワォーーーーーーーーン!」


――ヒヒヒィン!?


 威圧を込めた遠吠えを聞いた馬は急停止し、その場に伏せた。


「ワフゥン《できたよ》」

「よーし、えらいえらい」


 そうして、シルバを撫でて褒めていると、上等な服にマントを羽織った男が走って来て、馬を撫で始めた。


「キミが止めてくれたのかい? 助かりました、有難うね!」

「いいえ、この子のお陰ですよ」

「ワフ」


 馬の影で見えなかったシルバが見える位置まで来た男は、目を輝かせた。


「山の神の使いじゃないですか! この目で見られるとは!」

「山の神の使い? ですか?」

「ああ、済まないね。私達の一族がそう呼んでいるだけなのですよ」

「そうなんですねー」


「ともあれ、助かりました。お礼をしたいところですが、急ぎますので……これを差し上げます」

「これは?」

「魔道具の試作品です、とても大きな音が出せますので。迷った時にでも使うといいでしょう。先程はうっかり作動させてしまってね。では失礼」


 男は馬に跨ると、第三区画の方へと駆けて行く。


「魔道具、ね」


 キーナは、すぐに再会するだろうなぁ、と微笑んだ。


「ワフ!《おにく はやく》」

「ごめんごめん、さ、行きましょう!」

「ワフー」


 休憩所で食事をした後、また散策しながら大使館に戻ったのであった。


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