33 自由交易都市へ
やや説明回です
「では出発致します」
二頭引きな学園長仕様の馬車が、学園都市の西門を出発した。
一週間後に行われる魔法技術研究会の為、中央自由都市へと向かうのだ。
少し早めに入り、事前の打ち合わせ等をする予定である。
あっと言う間に学園の姿が見えなくなった。
「わぁ、この馬車は随分と乗り心地がいいんですね~。しかも速い」
魔道具を多く取り入れた、黒色を貴重とした客室は、格調高い雰囲気を放っている。
速度も早く、車輪からの衝撃も緩やかなものへと抑えられていた。
「ふふ。これでもまだまだ質素な方よ?」
「はぁー、王族の方々って凄いんですねぇ……」
御者二人は御者席に。
キーナ、デビアス、老執事は客室で雑談をしていた。
時より、飲み物が給仕され、不自由ない旅路を過ごすことが出来そうだ。
シルバは、これ幸いと外で並走している。時々先行しては戻ってくるを繰り返す。普段、全力で走る機会が無いということで許可を得たシルバは、とても楽しそうに走り回っていた。
◇
「今日はここまで。一泊して、明日には自由交易都市に入れるわ」
「わかりました」
「ワフッ」
一行は、整備街道の駅街ヘーンスールへと到着した。
整備街道とは、自由交易組合が大陸の主要地を結ぶように整備した街道で、馬車は元より、地竜が牽引して走る高速竜車などが走っている。
整備街道の付近の指定魔獣は優先して狩られ、徒歩でも安心して旅ができる様になっているのだ。
駅街は、そんな整備街道の中継地として作られた駅が発展し、人が集まり街として成長した街なので、”駅街”と呼ばれるようになったのである。
閑話休題。
キーナ達は、既に階ごと抑えてあった最高級の宿に入った。
「キーナはこの部屋ね。あといつものアレをお願いね」
「はい、お安いご用です」
湯を張った後、夕食はデビアスの部屋でとることとなった。
テーブルに上がったのは厚切りステーキ、生ハムのサラダ、青魚と茄子のトマトグラタン、オニオンスープにふわふわパン。
一流の料理人の気合が入った逸品は、どれも最高の味であった。
「んー、美味しいです」
「ふふ、足りなければ追加していいわよ?」
「いえいえ、これだけあれば大満足ですよ」
「あらそう?」
デビアスは、ふふっと微笑む。
「シルバ、お肉おいしい?」
「……ワフ!」
シルバは、肉の塊を美味しそうに食べていた。
「では、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
「ワフ!」
キーナとシルバは、自分たちの部屋に戻ると入浴し、明日に備えてすぐに眠りについた。
◇
翌日、馬車は整備街道を北へ北へと進む。
王国最北端の砦で手続きを済ませ、中立地帯へと入っていった。
「ここからは王国の領土じゃないんですよね?」
「一応は、どこの国の領土でも無い、っていう事になってるわね」
「ワフ?」
砦を抜けてからは、シルバも客室内で大人しくしていた。
魔物や魔獣が多くなり、それに比例して狩猟専門の冒険者も増え出すためである。
「山脈に挟まれた地域で資源も少なく、荒れた土地も多い。敵性魔物、魔獣も多く存在する。維持管理費を考えると、領土とするには適さないでしょうね」
「それを有効活用したのが自由交易組合の人達ってことですよね?」
「改暦前後の努力が、今の世界を支えていると言っても過言ではないわね」
改暦よりもかなりの昔、大陸北部に覇を唱えていた帝国と、南部の諸地域を統合して成長した王国、それに巻き込まれる形の諸国や魔王が主戦場としていたのが、現在の中立地帯であった。
終戦直前に行使された大量破壊系魔法は、大陸全土を荒廃に導き、疲弊した両国は停戦に合意。
中立地帯を恒久的に置くことで、次の戦争を起こさないと誓い合ったのだ。
その後の復旧に於いて、各国からの人員を集めて作られたのが自由交易組合であり、整備街道のであり、自由交易都市であった。
「で、そんな自由交易都市の自由交易組合の一番偉い人に会いに行くんですよね……?」
「グランドマスターといっても、そこまで緊張する必要はないわよ?」
「それはデビアスさんだからですよ……」
デビアスは王族なのである、その辺りの経験は豊富なのだ。
「私が一緒なのですから、胸を張っていればいいのですよ?」
「はい、頼りにさせていただきますっ」
「ワフン!」
「うん、勿論シルバも頼りにしてるからね」
「ワフ」
シルバは心の安定剤としても大活躍なのであった。
◇
「うわぁ……」
山を超え、少し下って暫く。
広大な高原に立つ要塞都市が眼に飛び込んできた。
「あれが自由交易都市よ。今見えているのは第四防壁ね」
「ここから見ても高いって解りますね! 凄いです!」
都市をぐるりと囲む防壁は、学園都市のものに比べても圧倒的な高さだと直感出来た。
「ふふ、近づいたらその姿に驚くわよ?」
「なんだかわくわくしてきました!」
「ワフワフ!」
◇
馬車は順調に進み、日が明るい内に南門へと到着した。
「…………」
キーナは首を真上に向けて、防壁の先を見ようとしていた。
「たっか」
口調もおかしくなるぐらいの高さに唖然としていた。
目算でも、わたしの身長で二十人分ぐらいは有るだろうか、などと考えていた。
「キーナ、手続きが終わったから中に入るわよ?」
「あ、はい!」
キーナが場車に戻ると、自由交易組合本部の有る第一区画へと進んでいった。
車窓からは、多くの人の姿を見つけることが出来た。
王国では見たことのない種族の人々が闊歩し、物に溢れ、飲食店や武器屋などが賑いを見せていた。
「すごい活気ですね」
「いまや公益の要ですからね」
「顔合わせが済んだら、研究会前日までは自由に散策するといいわ」
「はい、そうさせてもらいますね!」
「ワッフ!」
緊張は解けたかしら? と微笑むデビアスであった。
◇
建立当時の街壁である第一防壁の門をくぐると、やや古めかしい雰囲気の町並みが広がっていた。
「なんだか古めかしい建物が多いですね?」
「そうね。このあたりは建立当時の雰囲気を残そうという事で、建て替えの際に古材を装飾したりして、わざわざこういった雰囲気にしているそうよ?」
「そうなんですね。ちょっと素敵かも」
そんな話をしていると、馬車はとあるお屋敷へと入っていった。
「ここは?」
「王国の大使館よ。元々は建立時の職人宿舎だった所ね」
当時、多くの職人たちが駆り出され、真っ先に作られたのが各国の宿舎であった。
現在は大使館として利用されており、大使や職員、警備隊員などが暮らしている。
「王国としての商取引なんかも、こちらで行われているわ」
「なるほど」
「お待ちしておりました、デビアス夫人」
「久しぶりね、ダニエル君」
屋敷の中から現れた金髪の人族は、王国の大使ダニエルであった。
「そちらのお嬢さんがキーナさんですね?」
「はい、キーナと申します。それと、こちらが従魔のシルバです。よろしくお願い致します。」
「ワフッ!」
ダニエルは一瞬固まったものの、笑顔を取り戻した。
「これはご丁寧に、王国大使のダニエルです。期間中はこちらで気兼ねなくお過ごしください。何か有りましたら、使用人を控えさせておきますのでお申し付け下さい」
「お気遣い有難うございます」
「さ、中へどうぞ」
「では行きましょう」
「はい」
「ワフ」
一行は、応接室へと案内されて行った。




