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  31  粘体の森 下

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――ズズズゾゾゾゾ……


 ソレは勢いを増し、天井にへばりつくように体積を増していく。


「ボスかな?」

「ボスだろ」

「ボスじゃないかな」

「まぁ、ちょっと覚悟しておこうか」


 一行は武器を構え、今にも落ちてきそうなソレに対峙した。


「……退路も確保しておくの」

「そうだな!」


 ロッピィとダンテは入り口へと向かう。


――パシャーン

―――ゴゴゴゴ……ガシャン


 ソレは湿った音を立てて床に降りると、部屋の五割にも達するであろう巨体を揺らし始める。

 それと同時に、入り口が上から降りてきた石柱で塞がれる。


「な!? 閉じ込められた!?」

「……固そう石なの」

「俺達の攻撃じゃ壊せそうに無いかな?」


 いくつかの属性魔法を放ったり、蹴りを入れてみたがびくともしなかった。



「おい、どうする?」

「ソレを倒さないとどうしようも無さそうなのよ」


「うーん……?」

「悩んでる暇は無さそうだよ!」


 ソレは魔力に反応したのか、にじりにじりと接近していた。


「指揮はキーナに任せようとおもうけど、みんなはいいかな?」


 ディアドラがそう言うと、一行は了解の意を表す。


「んーと、とりあえず武器でやってみましょう! 突撃!」


 キーナの声に反応して、一斉に攻撃を始めた。


「よっ! ほれ! ……やっぱ、斬ってもコアに届かないな!」

「蹴りは妙な弾力で弾き返されるよ!」

「連続で切りつけても、すぐに元通りだね~」


 その後も物理攻撃を試してみるが、効果が薄いようだ。


「物理攻撃は駄目みたいね! じゃあ燃やす以外の属性魔法を試してみて!」


「待ってたぜ! ――<氷結(フリージング)>」

「守って! ――<氷壁(アイスウォール)>」

「削りとれ! ――<小旋風(ウィールウィンド)>」

「弾けて! ――<衝撃砲(ショックカノン)>」

「喰らえ! ――<岩銃弾(ロックバレット)>」


 次々とソレに向かって、属性魔法が打ち込まれていく。


――バキッ

――――ガリガリ


「うにゃにゃにゃにゃー!」

「こぶしが! うなるん、だな!」


 粘体は凍り、刻まれ、吹き飛び、黒い靄となってその体積を減らしていく。


「あの粘体の柔らかい部分は、本体から離れると消滅するみたいだね!」

「確かにね! 凍った、部分からは修復も、できない、みたい、だし!」


 キーナは、凍った部分を砕きながら考える。


(核さえ砕ければ良いんだから……通路さえ作れれば……そうだ!)


「みんな聞いて! このまま少しづつ削ってても時間がかかると思う! だから、核までの隙間を作るのに専念してもらえる?」

「わかった!」「了解!」


「斬れた所からどんどん凍らしていくよ!」

「幅は一人分でいいかな?」

「それで行けると思う!」


 キーナ達は、核へと通じる道を作っていく。

 凍らせては接近して砕き、切り取り、また凍らせては離脱する。


 巨大なソレは、一行を飲み込まんと迫り来るが、氷の壁に阻まれる。


「もう少しで届きそう!」

「いっけー!」


 戦い始めてから十数分、ようやく巨大なソレの核を晒すことが出来た。

 あとは砕くのみである。


「行きます!」

「行くにゃ!」

「やっちゃうよー!」


 近接組が交互に攻撃していく。


――ガガガガガガッ


 ソレは、なおも抵抗を続けるが弱々しくなっていく。


「核の中心が見えたよ!」

「トドメは任せるにゃ!」


「任された!」


 キーナは慎重に機会を伺うと、全力で棍を核に打ち込んだ。


――バキッ!


「よし!」


 核がひび割れると、ソレは動きを止め、通常のスライムのように霧散していった。


《――ポーン。特異魔物の討伐を確認しました》

《称号【大粘体討伐者】を得ました》


「やったー!」

「やったのよ」

「ボス倒したボス」

「ボス倒したねボス」

「お、称号もらえた」

「【粘体討伐者】なんだな」

「ニャーも同じにゃよ」


 どうやら、とどめを刺すと少し変わるようだ。


(これは黙っておこうかしら?)


 キーナはちょっと悩むのであった。



 やがて、ソレが霧散し終わり、床に残ったのは人の頭ほども有る魔石であった。


「よっ、と。結構重いわね」


――ゴゴゴゴゴゴ


 キーナが魔石を拾い上げると、入り口の石柱が動き、外に出られるようになった。


「これが、ボスの魔石なのね?」

「すごく……おおきいです」

「なんだか神秘的な色をしてるにゃね」


 その魔石は独特な雰囲気を放っていた。


「そんなことより戻ろうよ、早くゆっくりしたい」

「賛成なんだな!」

「あたし、もうくたくた~」

「そうね、今度こそまっすぐ戻りましょう」


 一行は何事も無く地上へと上がり、教官の声がする方へと歩いて行った。




◇




「あ、居た!」

「おー、ホントだ」


「教官、ただ今戻りました」

「おう、お前らか」


「集めたスライムの核は、どうすればいいですか?」

「ああ、あそこに居る冒険者に渡して、討伐証明をもらってくれ」

「わかりました!」


「お疲れさん……ん? おい、そのでっかい魔石は何だ?」

「えっと、おそらくボスの魔石だと思います。偶然見つけた遺跡で――」


 シルバの背中に括りつけてあった魔石を見て尋ねた教官は、一部始終を聞かされて眼を点にした


「なるほど……。ココにそんな場所があったとはなぁ」

「今まで見つからなかったんですか?」

「ここは学園の授業でもなければ入るものも少ない上に、特に旨味もないダンジョンだからな。スライムを倒しまくったところで技能(スキル)が上がるとも思えないから人気も少ないんだ」


 スライムでは弱すぎて、修行にもならないのだ。 


「そうなんですね。あ、この魔石はどうしたら良いですか?」

「授業で使うのは通常の魔石だけだ。その程度の魔石なら記念に持ち帰ってもいいぞ?」

「あ、じゃあそうします。では失礼しますね」

「おう、時間まで休憩しておけよ」

「はい」




◇




 その後、討伐証明を貰ったキーナ達は、即席の足湯で休憩し始めた。


「あー、気持ちいいね~」

「足を入れるだけでも、疲れが取れてとてもいいのよ」


 なかなか好評であった。


「ワフッ」

「ん? シルバどうしたの?」


 シルバは、円形に作られた足湯の中央に置かれた、ボスの魔石に鼻先を寄せ、キーナの表情を伺っている。


「……魔力の強い魔石は、魔獣を引き寄せるって聞いたことが有るのよ」

「美味しい香りに引き寄せられる、ミーシャみたいなもんじゃね?」

「にゃっ!? 酷いにゃ!?」

『わははは!』


 粘体の森に笑い声が響く。


「んー?」

「ワフッ!」


 シルバは口を大きく開けてじゃ閉じてを繰り返し、食べるふりをすると、再びキーナの表情を伺う。


「……もしかして、魔石を食べたいのかな?」

「ガウッ!」


「当たりみたいなの」

「ワフッ!」


 シルバのしっぽが全開で振られている。

 どうやら正解らしい。


「わたしは構わないんだけど、害は無いのかしら?」

「どうなんだろうね?」

「シルバは賢いから、そのへんもわかってるんじゃないか? なーシルバ?」

「ワフ!」

「ほら」


 ダンテが尋ねると、もちろん! という感じで吠える。


「んー、じゃあ食べて良いよ」

「ワフッ!」


 キーナの許可が出ると、シルバは魔石にかぶりついた。

 砕いては飲み、砕いては飲みを繰り返すこと数分で、魔石は全てシルバの腹に収まっていった。


「……何も起こらない?」

「クフゥ」


 食べ終わり、満足気なシルバの見た目には、特に異常は出なかったのだが、一瞬だけ淡く光った気がした。


「うん? 今何か……」


《――ポーン。特定条件により、称号【魔獣の友】が【魔獣の主】に変化しました》

《【魔獣の主】の詳細により、従魔”シルバ”のステータスが閲覧可能です》


「わっ!?」

「ん? どしたの?」


 セレスティアが首を傾げる。


「えっと。称号が変わって、シルバのステータスが見られるようになったみたい?」

「ワフッ!」

「あ、言わないほうが良かったかな?」


 ステータスは基本的に隠すもので、ましてや魔獣のものとなればなおさらであるのだ。


「うーん、気にはなるけど、今のは聞かなかったことにするよ。なーみんな?」

「そうだね」

「そうなのよ」

「ま、何か見れたとしてもシルバはシルバだし、ねーシルバ?」


「ワフッ!」

「うん、みんな有難うね。シルバは愛されてるね~」

「ワフー」


 キーナは、若干毛艶が良くなったシルバを撫でながら笑顔で礼を言うのであった。

シルバのステータスは次回に。

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