30 粘体の森 中
「お、こんなとこに下へ続く穴があるぞ?」
ダンテがそう呟いたのは、大樹へと慎重に近づいたものの、ボスらしき敵は見つからず、全員で大樹の周囲を調べている時だった。
「なになに? あ、ほんとだ」
「……たくさんの蔦で隠れてたの」
大樹を覆う蔦を切り払うと、人ひとりが通れるぐらいの空洞が出来、その先には下へと続く道が存在していた。
「これは、階段だったのかなぁ?」
土や苔によって覆われているものの、螺旋階段状になっていたのだ。
「どうする? 降りてみる?」
「うーん、でも降り辛そうだねぇ」
「どうだろ? わ、すっごい滑るよ!」
ダンテが一歩降りてみると、湿った苔のおかげでよく滑るようだ。
「んー、私が何とかしてみるよ」
キーナは、苔生した階段に手のひらを向け、”凄い勢いのお湯で苔を吹き飛ばして、階段を綺麗にする感じ”というイメージを浮かべる。
そして魔力を込める。
――プシャアアアアアアアア……
その瞬間、キーナの手から、熱湯が直線状に高圧噴射され、階段上の苔や汚れが吹き飛ばされていった。
《――ポーン。未登録の属性魔法が確認されました》
《属性魔法に名――》
《『湯神の加護』により<浄めの湯>と命名されました》
(……なるほど)
「……よし、行きましょう!」
汚れを吹き飛ばしながら、一段一段降りて行く度に、白地に緑が混ざった石で出来た階段がその姿を露わにして行った。
「おー、綺麗になってく!」
「……お掃除が楽になるの」
「どこまで続いてるのかなぁ?」
一行は慎重に降りていった。
◇
「お、階段が終わった」
「目が回るぜ……」
螺旋を十回ほど降りたところで、広い空間に出た。
「奥はどうなってるのかな?」
「見た感じ何も無さそうだね」
ダンテは、降りる途中で出した<光球>を周囲に向けて観察する。
部屋はほぼ四角形で、学園の教室よりもやや広い空間であった。
「……何も見当たらないの」
「これはハズレだったかな?」
「もっとよく調べてみよう!」
ディアドラは壁沿いを移動して、なにか手がかりがないか探し始めた。
「じゃあ、ぼくはこっちを」
イオラは、ディアドラとは反対側を調べ始める。
「ふたりとも気をつけてね?」
「はーい!」
「わかったよ!」
「じゃあ、わたしは正面を調べるね。ダンテは天井を、ロッピィは床をお願い」
「かしこまり~」
「……わかったの」
「シルバは何かあったら教えてね」
「ワフッ」
キーナは正面の壁を調べ始めた。
◇
「正面には、この模様以外に何も無さそうね」
正面の壁には、幾何学的な模様が描かれている以外、特にめぼしい物はなかった。
「天井は見る限りではなにもないみたいだぜ?」
天井は、階段と同じ石で出来ており、ヒビ割れた部分から出た蔦や根が互いに絡み合っているのみであった。
「……床に怪しいところはないの」
床は比較的きれいな状態で、やはり同じ石が敷き詰められていた。
「お、ここに通路っぽいがあったぞ!」
イオラが見つけた左奥の通路は、地上と同じように根や蔦で覆われており、少し先まで繋がっているように見えた。
「こっちもあったけど、すぐ先は塞がれてるみたいだね~」
ディアドラが調べていた右手前の通路は、崩落した瓦礫に寄って完全に塞がれていた。
「よし、じゃあその通路を進んでみようか」
一行は目で合図を交わすと、通路へと入っていった。
◇
同じような部屋を三つほど抜けると、一際広い部屋に辿り着いた。
「うわー、一段と広いねーここ」
「ボスいるかなボス」
「ボスいないねボス」
「見た感じ何も無いけどねぇ~?」
階段を降りて以来、動くものは居なかった。
「ねえキーナ、全体を照らしてみて良いかな?」
「何もいないし、いいんじゃない?」
「じゃあ、強めで――<光球>」
強めに照らされ、室内の様子がはっきりする。
「あれは……穴?」
「たくさん空いてるねぇ」
「こっちの穴は斜め上につながってるみたいだ」
「こっちもだね~」
一行はそれぞれの穴の様子を伺い始めた。
入ってきた壁以外の三方それぞれに、横長の四角い穴が開いており、斜め上方向へと伸びていた。
「天井にも有るっぽいね、なんか木で埋まってるけど」
天井には、根や蔦でぎっしり埋め尽くされてる垂直の大きな穴が開いていた。
「この穴達は、通路って感じでは無さそうだね~」
「……行き止まりなの」
「ボス居なかったかー……。残念」
「ゴミ処理場か何かだったのかも?」
「あー、なんとなくそんな感じだね」
「つまり、ただの廃墟だったってことか」
「はぁ~……」
一行は肩を落とす。
「まぁ、探検ごっこも出来たし上に戻ろうか」
「戻ろ~」
その時、シルバが穴に近づいて、その奥を覗きこんだ。
「バウッ!」
「シルバ? 何かあったの?」
「ワフッ!」
シルバは、キーナの服を噛むと、部屋の中央まで引っ張っていく。
「ちょ、ちょっとどうしたの?」
「これはオレ達も下がったほうがいいみたいだな」
一行は中央まで下がっていく。
「あっ」「……くるの」
ディアドラとロッピィも獣耳を動かし、そう呟いた直後、
「…………ぁぁぁぁああああああ!」
「……ぅわぁあああああ!」
「……んだこりゃー!?」
――ドーン
――――バタバタバター
「んぎゃっ」
「ようやく止まったのよ」
先ほどまで居た壁の穴から、聞き慣れた声が響き、もう一つの班員が飛び出してきた。
「うおっ!?」
「お前ら、どこから出てくるんだよ……」
「どこからと言われても困るんだな……ってあれ?」
「キーナ達にゃ! と言うかここは何処にゃ?」
「エミリオ、大丈夫?」
「あいたたた。うん、大丈夫みたい」
「それはよかった。じゃあ、そろそろメルティから離れようか」
エミリオは落下中に、メルティを守ろうと密着していたのだ。
「あ、うん」
「ん、ありがとうなのよ」
エミリオの顔は真っ赤である。
◇
「ニャー達は、スライムの魔石を集め終わって、帰ろうとしてたにゃよ」
「その途中で迷って、高いところから見るのに、登ろうとして木に触れたら地面が抜けたんだ」
「んで、滑り落ちたらここに来たんだな」
「なるほど」
「それで、わたし達は――」
ミーシャ組の話を聞き終わると、キーナ組の話をする。
「――というわけなの。何もないみたいだから、戻ろうとしていた所ね」
「まったく、何だったのにゃ……」
「とっとと戻るんだな」
「さすがにおなか空いたわ~」
もう用事は無いと、一行が入り口へと歩き出す。
――ガコン
「ん? 何の音……だ?」
下から聞こえた音に、イオラが目を向けると、一行を囲むように赤色の線が走り、幾何学模様がその内側に浮き出ていた。
「ちょっ!? みんな足元見て!」
「どうした……の!?」
「なんだなんだ?」
「……どうやら重さで作動する装置だったみたいなの」
「もしかして、罠かしら?」
「いったい何が起こるのか……」
――パキッ……バキポキ
「上だにゃ!」
一行が天井を見ると、埋まっていた穴から何かが降り始めていた。




