29 粘体の森 上
※活動報告を更新しました
六年生の授業は、学園でもより実践的なものとなり、初級ダンジョンの探索、各種ギルドでの体験実習などで寮を開けることが多くなるのだ。
これは、学園を卒業した後の身の振り分け方の参考にしてもらうための措置である。
この事情により、寮長は五年生が請け負っている、という訳なのだ。
クラス毎に行く場所は、順繰りに振分けられている。
今回、キーナ達のクラスが居るのは、初級ダンジョンの”粘体の森”である。
午後からの攻略に辺り、打ち合わせが始まろうとしていた。
◇
「さて、これからダンジョンに入るわけだが、ダンジョンがどのようなものだったか理解しているか?」
『はい!』
「ではそこの――」
指導教官役の冒険者が、一人の生徒を指名する。
「はい。ダンジョンとは、魔神と呼ばれる存在が創りだした実験装置の成れの果てで、変質した魔素によって生まれる魔物や、凶暴化した魔獣が巣食う遺跡、若しくは地域だと習いました」
「うむ、だいたいその通りだな。さて、他に何かあるか?」
『はい』
「お、じゃあ――」
続いて、手を上げた数人から指名する。
「はい。ダンジョンの中には罠があったり、古代文明の遺産による防衛装置が仕掛けてあったりすると聞いています」
「はーい! えっと、ダンジョンの何処かにはボス部屋? とかいうのがあって、倒すことが出来ると、何らかの褒美を得られるという噂を聞いたことがありまーす!」
「えーっと、ダンジョンはある意味、変質した魔素の拡散を防いでいる為、無闇に破壊しない方がいいとか」
「ふむ、よく学んでいるな」
教官が、生徒達を見回して頷く。
「ここ”粘体の森”は初心者向けで、危険性は低い。……だが油断は禁物だ、そこを間違えないように」
『はい』
「今回の模擬依頼は、各自”スライムの魔石を五個集める”だ。把握したか?」
『把握しました!』
「では、各班ごとに行動開始!」
『了解!』
生徒達は元気良く答えると、五~六人で班を組み、森の中へと入っていった。
◇
「スライム居ないね~?」
「まだ入ったばかりだからじゃないかな?」
「早く済ませて帰りたいぜ」
「ワフ」
キーナは、ダンテ、イオラ、ディアドラ、ロッピィの五人、それからシルバを加えた班を組んでいた。
シルバは随伴するだけ、という約束のもとで随伴している。
「森は広いんだし、そのうち出会うって」
「……暗い森は嫌いなの」
「ジメッとしてて、確かに雰囲気は良くないよねー」
一同は周囲を伺いながら進んでいく。
――ガサッ
「あ、いた!」
「どこどこ!?」
「……あっちに群れてるの」
十五分ほど移動すると、右前方の草地の隙間から、十数匹のスライムを発見した。
「さてどうする?」
「んー、とりあえず一斉に攻撃してみる?」
「でも危なくない?」
「マズイと思ったら全力撤退ということで……」
「……脳筋どもめ、なの」
「あはは、まぁいいんじゃない?」
「キーナがそう言うんなら、やってみるか」
「あ、燃やすのは駄目だからね?」
『わかった』「……わかったの」
一行は茂みに近づくと、それぞれの武器を出して構え、シルバは後方で見守る。
キーナは棍、ダンテとイオラは剣、ディアドラは短剣、ロッピィは鉤爪だ。
――スッ
キーナは指を三本出して掲げ、二本、一本と減らしていき、最後は進行方向へ人差し指を向けた。
「よっ!」
「そりゃっ!」
ダンテとイオラは、いち早くスライムを切りつけ、核と呼ばれる部分を叩き切る。
「えいっ……そぉい!」
ディアドラは、スライムを横蹴りして転がし、核に短剣を突き刺す。
「……刻むの」
ロッピィは、二匹のスライムの間を駆け抜け、鉤爪で核を引きずり出すかのように刻んた。
「ブレイクショット! なんちゃって?」
キーナは、前傾姿勢でスライムに近づき、棍を水平に向け、脇を閉めて構えるとスライムの核を思い切り突き込んだ。
それらのほぼ一撃で、スライムの身体は崩壊し、黒い靄となって消えていった。
あとには、拳大の半透明な結晶が残った。これが魔石である。
「お、いけるいける! よっ! そりゃ!」
「これなら簡単に行けるねぇ! よいしょ!」
「この、調子で、はやく、終われるねっ!」
「……ぜんぜん手応えがないの」
「まあ、スライムだからねぇ。よし、全滅だね!」
ものの数分で群れを片付けると、魔石を回収してつぎの群れを探し始めた。
◇
「よし! 目標達成だね!」
「スライムを探すほうが大変だったね~」
「……スライムは弱すぎるの」
「授業の目的は、探索メインなだけだと思うよ?」
「ああ、なるほど」
この授業は、視界の良くない森を、目標を求めて歩く経験をさせる目的であるのだ。
「さて、戻ろうか」
「どっちに行けばいいかな?」
「えーっと、どっちだ?」
見回してみるものの、景色はほぼ変わらず、方向も定かではなかった。
「……みんなちょっと静かにするの」
「ん」
ロッピィは、うさ耳を立て、ゆっくりとその場で回転する。
――ピクピク
「……あっちから教官の声がするの」
「おおっ、やるぅ~」
「む、あたしもやってみるよ!」
「おう」
ディアドラも負けじと、狐耳を立てて、意識を集中させる。
――ぴこぴこ
「お! そっちからミーシャがにゃーにゃー叫んでるのが聞こえた!」
「あっちも頑張ってるみたいね」
「ワフッ!」
「シルバも調べてくれたの?」
「ワフ」
「ありがとー、もふもふ~」
「ハッハッハッ」
どうやら両方共正解であるらしい。
「んじゃあ、どうする? あっちの様子を見に行く?」
「……入り口に戻って休憩したいの」
「多分すぐ終わるだろうし、戻るに一票かな」
「じゃあ戻りましょうか」
「ほーい!」
「ワフ」
一行は、教官の声がする方へと歩き出した。
◇
「……あれ?」
「どったのイオラ?」
「ほら、あの太い木あるだろ? あそこだけ異様に魔素が濃い感じするんだけど」
「どれよ……あ、あれかぁ。確かに雰囲気違うねぇ」
視線の先には、周囲の木に隠れるように聳える大樹が有り、独特な雰囲気を醸し出していた。
「キーナ、ちょっと待って」
「はい? どうしたの?」
「実は、――」
イオラとディアドラは、先ほど見つけた存在について話した。
「んー、ボスでも居るのかしらね?」
「でもスライムのボスとかなら、倒しても大したこと無さそうな気がする」
「それでも、ボスの核を持っていけば自慢できるんじゃない?」
「……キーナに任せるの」
「あたしは戦ったみたいなー」
キーナは少し考え、シルバを撫でながら”何かあったら援護してね”と耳打ちした。
「よし、居るかどうかはわからないけれど、ボスに挑んでみましょう!」
「おう!」
「いいぜぇ~」
「あたしの華麗な蹴りをお見舞いしちゃうよ!」
「……がんばるの」
「ワフッ!」
一行は、大樹へと近づいていった。




