28 招待状
お読み頂き有り難う御座います。
最上級生になりました。
季節が春から夏へと移り変わる頃。
六年生になったキーナは、放課後の学園長室を訪れていた。
◇
――コンコン
「キーナです」
「入りなさい」
「失礼します」
前日に招集を受けていたキーナは放課後、学園長室を訪れていた。
「よく来たわね。そちらへ座って頂戴」
「はい」
キーナがソファーに座ると、デビアスは老執事に合図を出す。
「はっ。しばしお待ちを」
老執事が紅茶を入れ始めると、デビアスも対面のソファーに座った。
「それにしても、競技大会は惜しかったわね?」
「魔法無しではあれが精一杯なんですよねぇ……」
春の競技大会は、己の肉体のみで競い合うクラス対抗戦だ。
短距離走や長距離走、投擲種目に的当て、跳んだり超えたりの点数競技と、個人や勝ち抜き、団体での模擬戦が行われるのだ。
キーナは、長距離走と走り高跳びに出場し、上位入賞。
模擬戦へは、格闘技個人の部に出場し、準々決勝敗退であった。
「それでも十分な活躍だと思うわよ? クラスは優勝したのだし」
「うーん……。どうなんですかねぇ……」
「あまり卑下するのも良くないわよ?」
「はーい」
雑談をしていると、老執事がカップを持ち、紅茶を注ぎ入れた。
「ふぅ。さて、飲みながらでも聞いて頂戴。キーナ、あなたに招待状が届いているわ」
「招待状ですか? どちらからです? ……頂きます」
キーナは紅茶を一口含み――
「自由交易組合本部からよ、ほらこの通り」
「ブフッ! ゴホッ……ケホケホ」
デビアスが見せた差出人の名前を見て吹き出してしまった。
「あらあら、驚かせすぎたかしら。 ……じいや」
「はっ。さ、こちらをお使い下さい」
「……有難うございます」
キーナは老執事から受け取った布巾で汚れを拭った。
「……もう大丈夫です。グランドマスターって……本物なんですか?」
「ええそうよ、内容を読んでご覧なさい」
キーナは招待状を手に取ると読み始めた。
”はじめまして、キーナ嬢。”
”貴女については、デビアス学園長から幾多の話を聞かせて頂きました”
”特に、肌を美しくする入浴法が有るとか(中略)私も体験してみたいですわね”
”さて、本題となりますが”
”来月、中央自由都市にて行われる”魔法技術研究会”に参加して頂きたく、本状を送付した次第で御座います”
”詳細は別紙にてご確認下さい”
”――――――自由交易組合グランドマスター コアトロイ・バアルマナフ・ペルセトリア”
要約すればこんな内容であった。
別紙には開催要項が記されている。
「なんか凄そうな催しなんですけど……」
「大丈夫よ、私が推薦しておいたのだから」
「え~……」
「あなたなら平気よ? パッと行って、ザッと披露して、なにか聞かれたら”なんとなく出来ました”って誤魔化しておけばいいのよ」
「そんなことでいいんですか……」
キーナは内心、ほんとかな~、と呟いた。
別紙には、世界的に有名な人達が、ずらりずらりと書き連ねてあったのだ。
「そうそう。現地には、私とじいや、そしてキーナ……にシルバも一緒の方がいいか。その四人で向かう事になるわ」
老執事をちらりと見ると、お任せ下さいと言わんばかりの表情をしている。
「……因みに断れたりなんかは――」
デビアスはとてもよい笑顔で、首を横に振る。
「――ですよね。わかりました、招待をお受けします」
「あらよかったわ。では手続きしておくわね」
「……はい」
キーナは、もうどうにでもなれ、と、少し冷めた紅茶を飲み干した。
「あ、それと」
「まだ何か?」
「いつものアレ、お願いね」
「……お願いされます」
キーナは立ち上がり、隠れ家の浴槽を満たすと学園から退出したのだった。
◇
――カランコロン
「いらっしゃいまセ~、あらキーナちゃんこんにちハ~」
「はいこんにちは」
キーナはカウンターに座ると、そのまま突っ伏した。
「はぁ~……」
「あラ~、どうしたんでス~?」
店員のアシャが水を置きながら心配そうに声をかけた。
「あのですね、実は――」
キーナは、ギルドマスターから招待された事を話す。
「ほほう、ずいぶんと面白そうな話をしておるようじゃな」
「あ、マスターさん。別に面白い話じゃないですよ?」
ずいぶんと話し言葉が流暢になったマスターが、いい笑顔で声をかけてきた。
「正直面倒くさいんですけどねぇ……。あ、コーヒーと今日のおすすめケーキください」
「ま、何事も経験じゃよ? それで、コーヒ-と……お薦めは、メロンの巻きケーキじゃがよろしいかの?」
「あ、それでお願いします」
◇
「んー、美味しい」
キーナは一旦悩むのを止め、食べることに集中する。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「どういたしまして。で、さっきの話なんじゃがのう?」
「あ、はい」
「結局は、珍しい魔法を使う者を招いて、可能ならば魔道具やゴーレムで再現できないかを話し合う場なんじゃよ」
「……お詳しいですね?」
まるで現場を見てきたような感じで話すマスターに、首を傾げるキーナ。
「なに、我も会員の一人じゃからして当然の事よ」
「そうなんですか!?」
「うむ、こうみえても我、元魔王じゃし?」
「…………はい?」
一瞬の静寂。
「ええええええ!? どうしてそんな重要人物が喫茶店のマスターなんてやってる……やってらっしゃるんですかー!?」
「普段通りに話してくれて構わぬよ。で、喫茶店はただの趣味じゃ」
「マオ様とノ~ふれあいモ~ありますしシ~」
アシャが補足すると、キーナはハッとする。
「つまり、マオちゃんは魔王の娘ってことですか?」
「いや、倅達は皆継承せなんだのでな、マオが現役の魔王じゃぞ? まあ、実務は倅達がやっておるんじゃが」
「マオちゃんが……魔王?」
「うむ、魔力の質が段違いでな。まあいろいろあって継承させたんじゃ」
キーナは、呆気にとられた。
「なんじゃ、マオが魔王だったら付き合い方を変えるとでも?」
「……い、いえ。そんな事はしませんけど」
「うむ。これからも仲良くしてやってくれ」
「はい」
キーナは、マオちゃんはマオちゃんだものね、と呟くと立ち上がる。
「じゃあ、今日はこれで」
「うむ、また研究会について訪ねてくるが良いぞ」
「ええ、そうさせていただきますね」
キーナは支払いを済ますと、店を後にした。
「ありがト~ございましタ~」
――カランコロン
「お話してしまっテ~宜しかったのでス~?」
「はっは、グランドマスターに呼ばれるぐらいじゃ、問題なかろうて」
「はイ~、それもそうですネ~」
「さて、今日はもう終いにするかの」
「は~イ」
魔人族の喫茶店”グランドファーザー”
ここは、元魔王の趣味の空間なのである。




