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  28  招待状

お読み頂き有り難う御座います。

最上級生になりました。

 季節が春から夏へと移り変わる頃。

 六年生になったキーナは、放課後の学園長室を訪れていた。






――コンコン


「キーナです」

「入りなさい」

「失礼します」


 前日に招集を受けていたキーナは放課後、学園長室を訪れていた。


「よく来たわね。そちらへ座って頂戴」

「はい」


 キーナがソファーに座ると、デビアスは老執事に合図を出す。


「はっ。しばしお待ちを」


 老執事が紅茶を入れ始めると、デビアスも対面のソファーに座った。


「それにしても、競技大会は惜しかったわね?」

「魔法無しではあれが精一杯なんですよねぇ……」


 春の競技大会は、己の肉体のみで競い合うクラス対抗戦だ。

 短距離走や長距離走、投擲種目に的当て、跳んだり超えたりの点数競技と、個人や勝ち抜き、団体での模擬戦が行われるのだ。


 キーナは、長距離走と走り高跳びに出場し、上位入賞。

 模擬戦へは、格闘技個人の部に出場し、準々決勝敗退であった。


「それでも十分な活躍だと思うわよ? クラスは優勝したのだし」

「うーん……。どうなんですかねぇ……」

「あまり卑下するのも良くないわよ?」

「はーい」


 雑談をしていると、老執事がカップを持ち、紅茶を注ぎ入れた。


「ふぅ。さて、飲みながらでも聞いて頂戴。キーナ、あなたに招待状が届いているわ」

「招待状ですか? どちらからです? ……頂きます」


 キーナは紅茶を一口含み――


自由交易組合(ギルド)本部からよ、ほらこの通り」

「ブフッ! ゴホッ……ケホケホ」


 デビアスが見せた差出人の名前を見て吹き出してしまった。


「あらあら、驚かせすぎたかしら。 ……じいや」

「はっ。さ、こちらをお使い下さい」

「……有難うございます」


 キーナは老執事から受け取った布巾で汚れを拭った。


「……もう大丈夫です。グランドマスターって……本物なんですか?」

「ええそうよ、内容を読んでご覧なさい」


 キーナは招待状を手に取ると読み始めた。


”はじめまして、キーナ嬢。”

”貴女については、デビアス学園長から幾多の話を聞かせて頂きました”

”特に、肌を美しくする入浴法が有るとか(中略)私も体験してみたいですわね”

”さて、本題となりますが”

”来月、中央自由都市(セントリッジ)にて行われる”魔法技術研究会”に参加して頂きたく、本状を送付した次第で御座います”

”詳細は別紙にてご確認下さい”

”――――――自由交易組合(ギルド)グランドマスター コアトロイ・バアルマナフ・ペルセトリア”


 要約すればこんな内容であった。

 別紙には開催要項が記されている。


「なんか凄そうな催しなんですけど……」

「大丈夫よ、私が推薦しておいたのだから」

「え~……」

「あなたなら平気よ? パッと行って、ザッと披露して、なにか聞かれたら”なんとなく出来ました”って誤魔化しておけばいいのよ」

「そんなことでいいんですか……」


 キーナは内心、ほんとかな~、と呟いた。


 別紙には、世界的に有名な人達が、ずらりずらりと書き連ねてあったのだ。


「そうそう。現地には、私とじいや、そしてキーナ……にシルバも一緒の方がいいか。その四人で向かう事になるわ」


 老執事をちらりと見ると、お任せ下さいと言わんばかりの表情をしている。


「……因みに断れたりなんかは――」


 デビアスはとてもよい笑顔で、首を横に振る。


「――ですよね。わかりました、招待をお受けします」

「あらよかったわ。では手続きしておくわね」

「……はい」


 キーナは、もうどうにでもなれ、と、少し冷めた紅茶を飲み干した。


「あ、それと」

「まだ何か?」


「いつものアレ、お願いね」

「……お願いされます」


 キーナは立ち上がり、隠れ家の浴槽を満たすと学園から退出したのだった。







――カランコロン



「いらっしゃいまセ~、あらキーナちゃんこんにちハ~」

「はいこんにちは」


 キーナはカウンターに座ると、そのまま突っ伏した。


「はぁ~……」

「あラ~、どうしたんでス~?」


 店員のアシャが水を置きながら心配そうに声をかけた。

 

「あのですね、実は――」


 キーナは、ギルドマスターから招待された事を話す。


「ほほう、ずいぶんと面白そうな話をしておるようじゃな」

「あ、マスターさん。別に面白い話じゃないですよ?」


 ずいぶんと話し言葉が流暢になったマスターが、いい笑顔で声をかけてきた。


「正直面倒くさいんですけどねぇ……。あ、コーヒーと今日のおすすめケーキください」

「ま、何事も経験じゃよ? それで、コーヒ-と……お薦めは、メロンの巻きケーキじゃがよろしいかの?」

「あ、それでお願いします」







「んー、美味しい」


 キーナは一旦悩むのを止め、食べることに集中する。


「ふぅ、ごちそうさまでした」


「どういたしまして。で、さっきの話なんじゃがのう?」

「あ、はい」

「結局は、珍しい魔法を使う者を招いて、可能ならば魔道具やゴーレムで再現できないかを話し合う場なんじゃよ」

「……お詳しいですね?」


 まるで現場を見てきたような感じで話すマスターに、首を傾げるキーナ。


「なに、我も会員の一人じゃからして当然の事よ」

「そうなんですか!?」


「うむ、こうみえても我、元魔王じゃし?」

「…………はい?」


 一瞬の静寂。


「ええええええ!? どうしてそんな重要人物が喫茶店のマスターなんてやってる……やってらっしゃるんですかー!?」

「普段通りに話してくれて構わぬよ。で、喫茶店はただの趣味じゃ」

「マオ様とノ~ふれあいモ~ありますしシ~」


 アシャが補足すると、キーナはハッとする。


「つまり、マオちゃんは魔王の娘ってことですか?」

「いや、倅達は皆継承せなんだのでな、マオが現役の魔王じゃぞ? まあ、実務は倅達がやっておるんじゃが」


「マオちゃんが……魔王?」

「うむ、魔力の質が段違いでな。まあいろいろあって継承させたんじゃ」


 キーナは、呆気にとられた。


「なんじゃ、マオが魔王だったら付き合い方を変えるとでも?」

「……い、いえ。そんな事はしませんけど」

「うむ。これからも仲良くしてやってくれ」

「はい」


 キーナは、マオちゃんはマオちゃんだものね、と呟くと立ち上がる。


「じゃあ、今日はこれで」

「うむ、また研究会について訪ねてくるが良いぞ」

「ええ、そうさせていただきますね」


 キーナは支払いを済ますと、店を後にした。


「ありがト~ございましタ~」


――カランコロン




「お話してしまっテ~宜しかったのでス~?」

「はっは、グランドマスター(あやつ)に呼ばれるぐらいじゃ、問題なかろうて」

「はイ~、それもそうですネ~」

「さて、今日はもう終いにするかの」

「は~イ」


 魔人族の喫茶店”グランドファーザー”

 ここは、元魔王の趣味の空間なのである。


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