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  27  学園祭 後夜祭

――♪ポンポロポーンポロポロポーン


『只今をもちまして、第百九五回、王立学園、学園祭を、終了致します』

『一般参加者の、皆様は、気をつけて、お帰り下さい。また――』


 夕方一回目の音が鳴り、デビアスの終了宣言が放送され、職員による退場案内が流れ始めた。


「終わったー!」

「終わっちゃったねぇ~」


 生徒達はそれぞれに、学園祭の終了を口にしていく。


「……あとは片付けが有るの」

「聞かなかったことにしよう、うん」

「しょうもないなこと言ってないで、とっと作業を始めるのよ」

「くっ」


 生徒達は学園の制服に着替え、なんだかんだ言いつつも撤収作業を進めていく。


「もう~、あと少しだから頑張ろう、ね?」

「はぁ~い」


 食器類は調理室に返され、机や衝立は資材室へ、布類はリネン部へ送られる。

 そして、不要になった看板などは演習場区の指定場所へと運ばれ、大きな櫓の中へと積み重ねられていく。

 日が沈んでから燃やされる櫓の盛大な炎は、後夜祭を盛り上げる主役なのである。







「おわったー!」

「うん、綺麗になった」

「ばっちし元通りよ!」


 片付け始めて半時ほどで、教室は普段の姿に戻されていた。


「よーし! あとは後夜祭で打ち上げだー!」

『おおー!』


 ノリの良い生徒達は、一斉に反応して教室を出て行った。


「じゃあ、私達もいこっか?」

「そうするのよ」

「僕も行くよ!」

「楽しみなんだな」


 キーナ達も顔を見合うと、演習場区へと歩き出す。


「あの炎は素敵に浪漫を感じるんだよね~」

「ふっふっふっ」


 ミーシャは顔に影を作りながら不敵に笑う。


「む?」


 一同はその声で、ミーシャに注目した。


「ニャーは火を見ると……」

「見ると?」

「おさかなやおにくを焼きたくなるにゃよ!」


『……』


 教室には、一時の静寂が訪れた。


「……やったら他人のふりするの」

「だな」

「オレもそうするわ」


 ミーシャ以外は再び歩き出し、ミーシャの発言にツッコミを入れた。


「う……冗談に決まってるにゃよ?」

「何故に疑問形なのか」

「うぐっ、とにかく行くにゃよ! にゃっふ~~~~~~~!」


 ミーシャは顔を赤くし、耳を抑えながら走っていった。


「……大丈夫かな?」

「向こうに着けば、ケロッとしてるんじゃないかな?」

「食べるものもあるしねぇ」

「それもそうだね」


 あまり心配はしていないキーナ達であった。







『点火まであと十……九……八』


 演習場区の手前側、土の広場の中央に積まれた櫓の周囲には、職員たちが取り囲み、点火の態勢を整えていた。


「七……六……」

「五!」

「四……三……」


 生徒達も声を合わせ、点火の時を数えていく。


『二……一……点火!』


 点火の声とともに、職員達が一斉に火属性魔法を使うと、櫓は大きな炎となって周囲を照らし始めた。


『おー!』


 普段これほど大きな炎を見ることがない生徒達は、その姿に心を踊らせていた。

 魔法の炎とは一味違う熱気に、心も身体も暖められているようであった。



「やはり良いものですねぇ……」

「ねー。普段これだけ燃やしてたら大騒ぎになっちゃうもん!」

「……とても貴重なの」


 学園都市に居ると忘れがちであるが、この世界では未だに薪や木炭が主な熱源であるのだ。

 魔道具も使われてはいるが、動力源である魔石の入手が容易な街でしか普及していないのが現状である。


「確かにねぇ~。グラストルでこんなことしたら大騒動になりそうだもの」

「それ以前に、これだけの資材が出てくることもないけど」

「そりゃそうだ」


「そんなことより、何か食べるとするんだな」

「イイネ~! 行こう行こう」


 一行はセレスティアを先頭に、土の広場の各所に儲けられた屋台へと向かっていった。

 そこには、臨海学習で展開されていた焼き台等が全学年分出されており、夜祭の雰囲気を盛り上げていた。

 料理を出しているのは職員のみならず、”味市場(フードコート)”の面々や、腕の覚えの有る冒険者なんかも参加している。勿論許可を得ての参加である。





「まぐまぐ……む、みんな遅かったにゃね? まぐまぐ……」


 焼き台のある辺りに近づくと、ミーシャが串焼きを頬張っていた。


「ミーシャが速いだけ」

「やはりミーシャはミーシャだった」

「さすが俺達のミーシャ」

「安心と信頼のミーシャでしたね」


「な、なんかバカにされてるのにゃ!?」


 なんだかんだ言って、ミーシャは愛されているようである。

 たぶん、おそらく。


「はいはい、そのぐらいにしておきましょう」

「うーい」

「お腹すいたし、そうする」


 ミーシャいじりは一旦やめて、ひとまず食べることにした一行はそれぞれ好きな屋台へと散っていった。







「さーってと。何を食べましょうかね~?」


 キーナは一人、なにか珍しい食べ物があればそれにしよう、などと思いつつ屋台通りをふらふらと歩いていた。


「あれも見た……それも食べた……うん?」


 キーナの目に止まったもの、それは――


「これは……”ちゅうかまん”かな?」


 もうもうと沸き立つ湯気に包まれた”ちゅうかまん”であった。

 勿論、知識から得た情報である、味までは解らないのだ。


「すいません、これひとつ下さい」

「はいよ。……はい、熱いので気をつけてな」

「有難うございます!」


 キーナは、紙に包まれたそれに息を吹きかけて冷まし、慎重に口へと運ぶ。


「はっ、はふっ……」


 溢れ出る肉汁と蒸気に舌をやられつつ、一口、また一口と食べ進めていく。


「美味しい……」


 その美味しさに夢中になっていると、あっと言う間に食べきっていた。


「お兄さんすいません! もう一つ下さい!」

「気に入ってくれたかい? はいよ!」

「凄く美味しいですこれ!」

「そいつは良かった。中身さえ作っちまえば、あとは皮で包んで蒸すだけでいいからいろいろ試してみると面白いぞ?」

「なるほど! 試してみますね!」

「おう!」


 キーナはおかわりを楽しみつつ、蒸気ならば湯属性魔法が使えそうだ、と考えていた。







 小腹を満たしたキーナが炎の櫓へと向かている時だった。


「あら、ちょうどいい所に居たわね?」

「あ、デビ……んんっ。学園長こんばんは、なにか御用ですか?」


 何度も学園長室に通っている間に、私的空間では名前で呼び合うまでになっていたキーナは、つい”デビアスさん”と呼びそうになったが、言い直すことに成功していた。


「ええ、少し疲れてしまって。いつものアレ、お願いできるかしら?」

「アレですか。はい、大丈夫です」

「よかった、じゃあ早速お願いね?」


――スッ

――――スタッ


「はっ。……では付いて来て下さい」


 お願いね、の後に右手で合図を送ると、何処からとも無く老執事が現れた。


「はい、お願いします」


 キーナは老執事の動きに慣れている為、何食わぬ顔で後をついていくのだった。







 やって来たのは学園長室の奥にある資料室。


――ゴゴゴゴゴゴ


「では、お願い致します」

「はい」


 その二重棚の奥にある隠し扉を抜けた所にあるデビアスの私邸であった。


 警備や移動の手間を考えた結果、学園に隠れ住むという結論に至ったのだ。

 通勤時間は、徒歩一分にも満たない優良物件である。


 キーナは、勝手知ったるなんとやらで浴場へと進み、浴槽内に手を翳す。


「今日は琥珀色のにごり湯で、――<美人湯(びじんのゆ)>」


 浴槽には、なみなみと琥珀色のにごり湯が溜まっていった。

 温度を高めに設定したので、戻ってくる頃には適温になっているはずだ。


「よし、こんなところかな?」

「ご苦労様でした。ではお送り致します」

「はい」


 キーナは、何食わぬ顔で元居たところへと帰っていくのであった。







「学園長先生の肌、最近磨きがかかったような」

「どんなお手入れしていらっしゃるのですか?」

「ふふ、特に何もしていませんわよ?」

「実にお美しい……。時が時なら口説いているところでしたよ」

「あらお上手なこと、ほほほ」


 一方その頃の学園長は、美しさを称える人々に囲まれ、ご満悦であったようだ。



「理事長、そろそろお時間です」


 老執事が現れ、時間であることを告げる。


「そうですか」


 デビアスは周囲の人々に目礼をすると、所定の場所へと歩いて行った。







―――♪ポーンポンポンポンポンパンポン


『後夜祭終了の時間となりました――』


 夕方三回目の音が鳴り、デビアスが終了の挨拶を行い、続いて職員が引き継ぐ。


『生徒の皆さんは速やかに帰寮するように。他の方々は火の始末をしてお帰り頂き、明日の片付けをお願い致します』



「ホントのホントに終わりだねぇ~」

「今年も楽しかったー!」

「さて、帰ってオンセン入って寝るのよ」

「はいはい、お任せあれ」


 生徒達は、小さくなった櫓の炎に見送られ、土の広場を去っていった。



 学園祭、これにて無事終了である。

学園行事辺はこれで終わりです。

次回は閑話を挟みます。

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