26 学園祭 三日目
学園祭三日目。
「最終日も頑張っていくわよ!」
『おー!』
三日目ともなると慣れたもので、生徒達はてきぱきと接客をこなしていった。
「もう慣れたものねー」
「私こういう仕事についてもいいかなって思い始めてるわ」
「本職は大変だと思うけど?」
「何なら、本格的に喫茶店やるのも有りじゃない?」
「なるほどね……、あ! お客さんだよ」
『お帰りなさいませ、ご主人様方――』
『お気をつけて――』
『お帰りなさいませ、お嬢様方――』
何度目かのお出迎え、お見送りの声が響いた頃、廊下からは何やら怒声が飛び交っている様に聞こえて来た。
「……ん? どうしたのかな?」
「私、ちょっと見てくるね!」
キーナは廊下へ出て、怒声が聞こえた方を確認する。
「まてー! 待たんかー!」
「止まれって言ってるのがわからないっすかー!?」
「よっ……とっ」
大柄の男と小柄な男が、獣人族らしき少女を追いかけている所だった。
少女は来場者の間を縫うように逃げていく。
「誰かっ! そいつをっ! 捕まえてくれっ!」
「お願いっすよー!」
「む……」
そうやって見ている内に、少女はキーナの後ろに回り込み服を引き、
「……助けてほしい」
と呟いた。
「よし、そのまま捕まえておいてくれ!」
「たのむっすよ!」
少女が立ち止まったのを見て、男たちもこちらに迫って来た。
「えーっと、どうすればいいのかな?」
状況を知らないキーナは何も出来ずに居た。
「……おじちゃんたちがいじめるの」
キーナはその言葉を聞き、改めて男たちを見る。
「んー? どこかで見たような……?」
男たちが更に近づく。
「やっと捕まえられますね兄貴!」
「兄貴と言うなって、何度言ったらわかんだ!」
「っと、すんません」
「兄貴……大きいのと小さいの……」
その時、キーナの記憶が鮮明になった。
「あ! 亜竜の時の二人組!」
その状況に、男たちが悪と判断したキーナは手のひらを二人に向ける。
「ちょっ!? 何する気――」
大柄な男が何か言おうとするが、
「止まって! ――<蒸気噴射>っ!」
キーナの手から、勢い良く蒸気が吹き出し、中断を余儀なくされた。
「うぎゃー!? 熱っ!?」
「あちっちっちっち!?」
――ゴロゴロゴロ
男たちは床に蹲り、転がりまわって身体を冷やし始めた。
「ふう、もう大丈――」
少女を安心させようと振り返ると、そこに少女の姿は見当たら無かった。
「……あれ? さっき後ろにいた小さな娘知らない?」
「その娘なら奥に走って行ったけど?」
「あ、そうなの?」
「うん。それよりそこの人たち大丈夫なの?」
「うーん、ちょっと熱いだけだから大丈夫だと思うけ……ど……?」
キーナは首を傾げる。
「……っつー。ひどい目にあった」
「オイラは、凄く懐かしい感じがするっす」
「え……えーっと? どういうこと?」
ようやく上半身を起こした二人は、ゆっくりと胸元から警備隊員証を取り出し、キーナに提示する。
「お……わたしは、警備隊員のイクセルという者です」
「お、おいらも、警備隊員のアラモっす」
それを見たキーナの目が泳ぎ、
「……えっと、わたしはキーナと申します? あーえっと、とりあえずこちらへどうぞ?」
男たちを立たせ教室に入れると、話を聞くことにした。
◇
「すいませんでしたっ!」
キーナは深々とお辞儀をして謝罪した。
「ほんと、びっくりしたっすよ」
「まぁ何だ、ぱっと見からしたらこっちが悪いようにみえたかもしれねぇしな!」
「デカいっすからね!」
「うっさいわ」
二人は苦笑し、謝罪を受け入れた。
教室に入った後、しっかり話を聞いてみると、
”二人は飛竜事件の後に警備隊と取引をしたこと”
”それは、裏仕事を依頼した貴族の屋敷を教えること”
”屋敷を捜索した所、数々の悪事の証拠が見つかったこと”
”指定友好魔獣が、劣悪な環境で飼われていたこと”
”結果、その貴族は平民に落とされ、以降何処かへ連れて行かれたこと”
”二人は、更生指導要綱に基いて、臨時の警備隊員として務めていること”
”今日は私服での巡回中、盗難の疑いのある少女を追いかけていた”
という流れであったそうだ。
「しかし、お嬢ちゃんも成長したっすねぇ」
「熱いのを食らうまでは解らなかったからな」
「ほんとに申し訳無く……」
「いいってことよ」
「兄貴はやさしいっすからね」
「だからっ」
「あてっ!」
「ふふっ……、あ、ごめんなさい」
キーナは、目の前のやりとりに思わず笑ってしまった。
「うちのキーナがすいませんね。はい、こちらをどうぞ」
「……いつのまにセレスティアのモノになったのわたし」
「えっと、最初から?」
「むう、なんと! ……って駄目ですよ?」
セレスティアがそんなことを言いつつ、コーヒーとケーキを二人に給仕した。
「これは?」
「お詫びの印ですので、遠慮なくどうぞ」
「ふむ、ではもらおうか」
「いただきやす」
イクセルとアラモは、ゆっくりとケーキを味わい始めた。
「それで、あの少女は何をしたんです?」
「……ん。ああ、六年の教室前を巡回していたんだが、急に走り出す少女がいてな」
「その時、売り子の生徒が”ここにあったぬいぐるみが無い!”って叫んだんすよ」
「それで、その怪しい少女に話を聞こうと追いかけていたんだが……な」
「そういう事でしたか」
キーナは、額に手を当てて考える。
「では、後ほどそのぬいぐるみ売り場に行って事情を聞いてみましょうか」
「いや、俺達が行くさ」
「これが仕事っすからね」
「その仕事の邪魔をしてしまった訳ですし、盗んだのが事実なら謝りたいので……」
「うーむ」
「どうしやす?」
「ま、キーナがそう言うのなら同行して貰おうか」
「はい!」
三人は一旦、その教室へ向かうこととなった。
◇
「ここだ」
「ああ、ここだったんですね」
その教室には、ぬいぐるみだけではなく、様々な手作りの品が並べられていた。
「何度か来たんですけど、食べるものを探しながらでしたので、ささっと通過していたんですよねぇ」
「なるほど……なるほど?」
イクセルは納得しかけて……首を傾げた。
「失礼しやすよ」
「はい、何でしょうか?」
「俺達は――」
イクセルとアラモは警備隊員証を提示すると、ぬいぐるみ盗難の件で聞き取りを始めた。
「結局、失くなったのはそのぬいぐるみ一つだけ、と」
「はい」
聞き取り調査はすぐに終わった。
「あの! その代金分のお詫びをさせてもらえませんか?」
「えっ?」
「ああ、実はな――」
「そんなことがあったんですね」
廊下で起こったことを話すと、売り子の生徒は首を横に振る。
「大丈夫ですよ、そんなに高いものでは有りませんし」
「そう……ですか」
キーナは自分の失敗について何とかしたい気持ちであった。
「あ、そうだ! ならせめて、私達のケーキを食べていただけませんか?」
「ケーキ、ですか?」
「はい、まだ沢山残っていますので! すぐ持ってきますね!」
キーナは返事も訊かずに教室を出ようとしたが振り返り、
「コーヒーと紅茶、どちらにします?」
「え、ええっと紅茶で?」
「かしこまりましたー!」
飲み物を確認すると、今度こそ教室を出て行った。
「ふふっ、なかなか面白い娘ですね」
「ああ、そうだな!」
「全くでやんす」
「はぁ……はぁ……。はい、これどうぞ」
「ど、どうも」
「それでは、失礼します!」
キーナはすぐに戻り、持参したケーキを渡すと、そそくさと自分の教室へと帰って行った。
「では俺達はこれで」
「巡回に戻るっすよ」
「あ、はい。ありがとうございました」
イクセルとアラモは教室を離れ、巡回の仕事を再開した。
「あっ……これ美味しい……」
売り子の生徒は、運ばれてきたケーキの味に驚くのであった。
凸凹コンビ更生中。
謎の少女……一体何者なんだ?




