25 学園祭 二日目
学園祭二日目。
今日からは学園外の人々にも開放される為、生徒達は少々緊張していた。
「カッコ良い男来ないかな~」
「良いとこのご子息とかに見初められたいよねー」
玉の輿に乗りたい女子はそうでもないようだが。
「はいはい! そろそろお出迎えの準備よろしくね?」
「りょーかーい」
「笑顔……笑顔……」
彼女たちは入口付近に整列すると、受け入れ体制を整えるのであった。
『お帰りなさいませ、ご主人様方~』
「あら可愛らしいこと」
「ははは、こういうのも良いもんだな」
「こちらのテーブルへどうぞ」
『お帰りなさいませ、お嬢様方』
「きゃー素敵!」
「こんな衣装見たこと無いわ」
「あちらのテーブルにご案内いたしますね」
『お帰りなさいませ――――』
開始早々、様々な人々が押し寄せ始め、テーブルはすぐに埋まり、給仕も大忙しとなった。
◇
当然ながら、カウンター係の面々も作業に追われていた。
「想像してたよりお客さんが多いね!」
「昨日来た子達から伝わったんじゃない?」
「皆にっこにこだったもん」
「なるほどねぇ~」
「栗のケーキ3つと紅茶3つお願いしまーす!」
『かしこまりました~!』
「あ、ケーキの追加もらってくるよ」
「お願いねー!」
◇
昼の二回目の音が鳴り、教室は少し静かになっていた。
お客達が食事系の模擬店に流れて行ったからである。
「ふー、疲れた~」
「ほんとにねー」
「去年の倍くらい人が来てるんじゃない?」
「はー、そりゃ疲れるわけだわ」
身体は鍛えていても、精神的疲労はいかんともしがたい生徒達であった。
「よし、二班と交代の時間だね! じゃあよろしく!」
「うむ、ど~んと任せ給え!」
セレスティアは胸を叩いて応える。
「もー、だからお淑やかにって……」
「おおっと……ささっ」
キーナに注意されると、セレスティアは”お淑やかな女性”の格好をする。
「ん、そのままで」
「はい。………………へふぅ。うん、むり!」
「はやっ!?」
あまり長い時間は保たないらしい。
◇
「父上、こちらのようです」
「ふむ。お邪魔しますよ、お嬢さん達」
キーナ達が引き継ぎ芸(?)をしていると、上等な服を身に纏った紳士と、紳士そっくりな青年が教室を訪れた。
『お帰りなさいませ、ご主人様方』
「これはこれは、ご丁寧に」
「はわ~……」
「こちらの席へどうぞ」
「うむ」
紳士は優しい目で応え、青年は視線を彷徨わせながら、案内された席に座る。
「お品書きはこちらをご覧くださいませ」
「ほう?」
紳士と青年が席につき、お品書きを見る。
説明文を見ながら、どれにしようかと相談しあう。
「よろしいかな?」
「あ、はーい!」
紳士が手を挙げて、給仕役を呼んだ。
「私はコーヒーと……シフォンケーキとやらを頂こう」
「僕は紅茶で。それと、このチーズのケーキをお願いします」
「かしこまりました。では、暫くお待ち下さい」
注文が終わると、青年は両手の拳を前に掲げ、興奮気味に紳士の目を見る。
「父上! あの可愛らしい衣装、うちでも取り入れましょう!」
「んー、確かに可愛らしいが我が家風には合わぬじゃろう。という事で却下じゃな」
「ええ……そんなぁ……」
青年はがっくりと肩を落とす。
「はっは、そう落ち込むでない。我が屋敷で駄目ならば、自らの家を持った後に採用すればよかろう」
「はっ! それです!」
青年はがばりと顔を上げ、腰を浮かせる。
「まぁ、いつになるかまでは知らんがな?」
「むう、父上ぇ……」
青年は再びがっくりと肩を落とし、椅子に座り直した。
「お待たせいたしました、ご注文の品です。ごゆっくりどうぞ」
「はい、そうさせて頂きますよ」
「ありがとうございます!」
注文の品が届くと、二人はしばし、ケーキの味に舌鼓を打つのであった。
◇
「ここだったよな?」
「そうですよ、あなた」
「はい、ここであってますよ~。教室にいますかねぇ?」
キーナが衝立の裏で昼食を取っていると、廊下から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「うん、この声は……?」
キーナは手にしていたやきそばの容器を置き、教室の入口へと向かう。
『お帰りなさいませ、ご主人様方』
「おおっ? こりゃまた可愛らしい」
「ホントね~、わたしも着てみたいわ」
「そりゃぁいい」
「あらやだ……」
「お父さん! お母さん! それにミルドラお姉さんまで!」
やって来たのは、両親とミルドラであった。
「キーナちゃん久しぶり~」
「お久しぶりですー!」
キーナとミルドラは手を振り合う。
「三人は、どうして?」
「ああ、今年は、王都の商会への用事と日程が合ったのでな」
「私が、じゃあ学園祭に寄って行こうって言ってね?」
「なので三人で行動しているってわけなの、わたしの護衛も兼ねて」
「そうなんだ。嬉しいなぁ」
「しかしその衣装かわいいね!」
「有難うございます。実は私が考えたんです」
「ほんとに!? 才能あるね!」
「へへへ……。 あ、そうだ」
「うん?」
「お帰りなさいませ、ご主人様方」
キーナは二歩下がって、丁寧にお出迎えのおじぎをした。
「はは、これは良いものだな」
「そうね、あなた」
「うんうん」
「じゃあ、案内するね」
「おう」
キーナは三人を案内すると、ケーキを注文して、家族とのひとときを楽しみ始めた。
◇
「ふう。美味しかったですね、父上」
「うむ。実に良く出来ている。あと少しで一流の味になるのではないかな」
「そうだ! うちの料理人にも、このケーキの作り方を教えられないでしょうか」
「ほほう、それは良いな。尋ねてみるとするか」
「すまない、どなたか話を聞きたいのだが」
紳士は手を挙げ、給仕の一人を呼んだ。
「は~い、何か有りましたでしょうか?」
「ああ何、このケーキの作り方が気になりましてな。此等を作ったのは何方かな?」
「あ、はい。作ったのは……あちらの席で休憩している女子です」
「あい判った。あとは直接尋ねるとしよう。おっと、ついでに支払いもしておこう」
「はい、有難うございます」
紳士は代金を払うと席を立ち、教えられた女子へと近づいていった。
◇
「それでね、この間なんて―――」
キーナは最近あったことを三人に聞かせていた。
「すまない、ご歓談中のようですが、少々失礼してもよろしいですかな?」
「――だっていうもんだから、えっ、はい?」
不意に声をかけられたキーナは、なんだろうと思いつつ、その紳士に顔を向ける。
紳士の斜め奥には、顔立ちの良い青年が控えていて、こちらの様子をうかがっていた。
「すみませんな。うちの息子が此処のケーキを大層気に入りまして、我が屋敷の料理人にも作らせたい、と言うものでな」
「すごく美味しかった! これがもう食べられないとか考えられなくって!」
青年は興奮気味に話した。
「あら、それは有難うございます。ですが二度と食べられなくなるという事は無いですよ? ”味市場”……学園都市の中にある喫茶店に作り方を教える予定ですので」
「なるほどの。だがしかし、通うとしても幾分遠いですなぁ」
ケーキを食べるためだけに、馬車なり何なりを出していては問題が有ると考えていた。
「あ。じゃあ、料理人をこちらへ呼んで学ばせれば良いのではないですか父上!」
青年が意見を出すと、紳士は青年を見て頷く。
「ふむ、ではそのようにしよう。おじょ……おっと失礼、私は王国の北西部に位置する”トネマール”の領主を務めておりますジェレールと申します。そして、横にいるのが」
「三男のアロニスです!」
「――というわけで、お嬢さんの名前をお聞きしても宜しいかな?」
「はい、グラストルのキーナと申します」
「キーナさんですね。うん?」
キーナが名を言うと、ジェレールは首を傾げて尋ねる。
「グラストル……というと我が商会で取り扱っているワインの産地ではなかったか?」
「なんと、お得意様でしたか」
「私達の畑から採れたぶどうで作っておりますの」
横で聞いていた両親は驚いていた。
「おお、なんという事か。世の中は狭いですな! 私も愛飲しておりますぞ!」
アレッシオ達が作るワインの殆どが、このトネマール傘下の商会を経由して販売されていたのだ。
「どうぞ、これからもご贔屓にお願い致します」
それを聞いたキーナの両親が立ち上がり、深々と礼をする。
「いえいえ、どうぞ姿勢を直してください。今はこちらがお願いする立場ですので」
「そうですか……はい、わかりました」
「話が逸れましたな。ではキーナさん、その喫茶店について詳しく教えていただけますかな?」
「はい、では紙に書きますね」
キーナはどこからか筆記用具を取り出すと、店の詳細と地図を描き、ついでに紹介状を書き加えた。
「はいどうぞ。私がマスターさんに話をしておきますので、その紹介状があれば大丈夫だと思います」
「ありがとうキーナさん!」
「これこれ」
「すいません父上」
「ん、親切に有難うキーナさん。この恩はいずれ必ず」
「いえいえ、お構いなく」
キーナはそれほどのことをしたとは、これっぽっちも思っていないのだ。
「それでは、お邪魔を致しました。私達はこれで」
「ではまた!」
「お気をつけて」
アロニスはジェレールに引っ張られつつ、キーナに手を振り続けていた。
◇
「じゃあ、私達は帰るわね」
「はいお母さん」
「また年末に会おうな」
「ええ、お父さんも頑張ってね」
「じゃあね~」
「ミルドラお姉さんも元気でね!」
午後は、時間いっぱいまで四人で学園内を巡り、そのまま本校舎入口で別れることとなった。
こうして、学園祭二日目は無事に終了した。




