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  25  学園祭 二日目

 学園祭二日目。


 今日からは学園外の人々にも開放される為、生徒達は少々緊張していた。


「カッコ良い男来ないかな~」

「良いとこのご子息とかに見初められたいよねー」


 玉の輿に乗りたい女子はそうでもないようだが。


「はいはい! そろそろお出迎えの準備よろしくね?」

「りょーかーい」

「笑顔……笑顔……」


 彼女たちは入口付近に整列すると、受け入れ体制を整えるのであった。





『お帰りなさいませ、ご主人様方~』


「あら可愛らしいこと」

「ははは、こういうのも良いもんだな」


「こちらのテーブルへどうぞ」




『お帰りなさいませ、お嬢様方』


「きゃー素敵!」

「こんな衣装見たこと無いわ」


「あちらのテーブルにご案内いたしますね」



『お帰りなさいませ――――』




 開始早々、様々な人々が押し寄せ始め、テーブルはすぐに埋まり、給仕も大忙しとなった。






 当然ながら、カウンター係の面々も作業に追われていた。


「想像してたよりお客さんが多いね!」

「昨日来た子達から伝わったんじゃない?」

「皆にっこにこだったもん」

「なるほどねぇ~」


「栗のケーキ3つと紅茶3つお願いしまーす!」

『かしこまりました~!』


「あ、ケーキの追加もらってくるよ」

「お願いねー!」







 昼の二回目の音が鳴り、教室は少し静かになっていた。

 お客達が食事系の模擬店に流れて行ったからである。



「ふー、疲れた~」

「ほんとにねー」

「去年の倍くらい人が来てるんじゃない?」

「はー、そりゃ疲れるわけだわ」


 身体は鍛えていても、精神的疲労はいかんともしがたい生徒達であった。



「よし、二班と交代の時間だね! じゃあよろしく!」

「うむ、ど~んと任せ給え!」


 セレスティアは胸を叩いて応える。


「もー、だからお淑やかにって……」

「おおっと……ささっ」


 キーナに注意されると、セレスティアは”お淑やかな女性”の格好をする。


「ん、そのままで」

「はい。………………へふぅ。うん、むり!」

「はやっ!?」


 あまり長い時間は保たないらしい。


 



「父上、こちらのようです」

「ふむ。お邪魔しますよ、お嬢さん達」


 キーナ達が引き継ぎ芸(?)をしていると、上等な服を身に纏った紳士と、紳士そっくりな青年が教室を訪れた。


『お帰りなさいませ、ご主人様方』


「これはこれは、ご丁寧に」

「はわ~……」


「こちらの席へどうぞ」

「うむ」


 紳士は優しい目で応え、青年は視線を彷徨わせながら、案内された席に座る。


「お品書きはこちらをご覧くださいませ」

「ほう?」


 紳士と青年が席につき、お品書きを見る。

 説明文を見ながら、どれにしようかと相談しあう。



「よろしいかな?」

「あ、はーい!」


 紳士が手を挙げて、給仕役を呼んだ。 


「私はコーヒーと……シフォンケーキとやらを頂こう」

「僕は紅茶で。それと、このチーズのケーキをお願いします」

「かしこまりました。では、暫くお待ち下さい」


 注文が終わると、青年は両手の拳を前に掲げ、興奮気味に紳士の目を見る。


「父上! あの可愛らしい衣装、うちでも取り入れましょう!」

「んー、確かに可愛らしいが我が家風には合わぬじゃろう。という事で却下じゃな」

「ええ……そんなぁ……」


 青年はがっくりと肩を落とす。


「はっは、そう落ち込むでない。我が屋敷で駄目ならば、自らの家を持った後に採用すればよかろう」

「はっ! それです!」


 青年はがばりと顔を上げ、腰を浮かせる。


「まぁ、いつになるかまでは知らんがな?」

「むう、父上ぇ……」


 青年は再びがっくりと肩を落とし、椅子に座り直した。



「お待たせいたしました、ご注文の品です。ごゆっくりどうぞ」

「はい、そうさせて頂きますよ」

「ありがとうございます!」


 注文の品が届くと、二人はしばし、ケーキの味に舌鼓を打つのであった。







「ここだったよな?」

「そうですよ、あなた」


「はい、ここであってますよ~。教室にいますかねぇ?」


 キーナが衝立の裏で昼食を取っていると、廊下から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「うん、この声は……?」


 キーナは手にしていたやきそばの容器を置き、教室の入口へと向かう。


『お帰りなさいませ、ご主人様方』


「おおっ? こりゃまた可愛らしい」

「ホントね~、わたしも着てみたいわ」

「そりゃぁいい」

「あらやだ……」


「お父さん! お母さん! それにミルドラお姉さんまで!」


 やって来たのは、両親とミルドラであった。


「キーナちゃん久しぶり~」

「お久しぶりですー!」


 キーナとミルドラは手を振り合う。


「三人は、どうして?」

「ああ、今年は、王都の商会への用事と日程が合ったのでな」

「私が、じゃあ学園祭に寄って行こうって言ってね?」

「なので三人で行動しているってわけなの、わたしの護衛も兼ねて」


「そうなんだ。嬉しいなぁ」

「しかしその衣装かわいいね!」

「有難うございます。実は私が考えたんです」

「ほんとに!? 才能あるね!」

「へへへ……。 あ、そうだ」

「うん?」


「お帰りなさいませ、ご主人様方」


 キーナは二歩下がって、丁寧にお出迎えのおじぎをした。


「はは、これは良いものだな」

「そうね、あなた」

「うんうん」


「じゃあ、案内するね」

「おう」


 キーナは三人を案内すると、ケーキを注文して、家族とのひとときを楽しみ始めた。







「ふう。美味しかったですね、父上」

「うむ。実に良く出来ている。あと少しで一流の味になるのではないかな」

「そうだ! うちの料理人にも、このケーキの作り方を教えられないでしょうか」

「ほほう、それは良いな。尋ねてみるとするか」



「すまない、どなたか話を聞きたいのだが」


 紳士は手を挙げ、給仕の一人を呼んだ。


「は~い、何か有りましたでしょうか?」

「ああ何、このケーキの作り方が気になりましてな。此等を作ったのは何方かな?」

「あ、はい。作ったのは……あちらの席で休憩している女子です」

「あい判った。あとは直接尋ねるとしよう。おっと、ついでに支払いもしておこう」

「はい、有難うございます」


 紳士は代金を払うと席を立ち、教えられた女子へと近づいていった。







「それでね、この間なんて―――」


 キーナは最近あったことを三人に聞かせていた。


「すまない、ご歓談中のようですが、少々失礼してもよろしいですかな?」

「――だっていうもんだから、えっ、はい?」


 不意に声をかけられたキーナは、なんだろうと思いつつ、その紳士に顔を向ける。

 紳士の斜め奥には、顔立ちの良い青年が控えていて、こちらの様子をうかがっていた。


「すみませんな。うちの息子が此処のケーキを大層気に入りまして、我が屋敷の料理人にも作らせたい、と言うものでな」

「すごく美味しかった! これがもう食べられないとか考えられなくって!」


 青年は興奮気味に話した。


「あら、それは有難うございます。ですが二度と食べられなくなるという事は無いですよ? ”味市場(フードコート)”……学園都市の中にある喫茶店に作り方を教える予定ですので」

「なるほどの。だがしかし、通うとしても幾分遠いですなぁ」


 ケーキを食べるためだけに、馬車なり何なりを出していては問題が有ると考えていた。


「あ。じゃあ、料理人をこちらへ呼んで学ばせれば良いのではないですか父上!」


 青年が意見を出すと、紳士は青年を見て頷く。


「ふむ、ではそのようにしよう。おじょ……おっと失礼、私は王国の北西部に位置する”トネマール”の領主を務めておりますジェレールと申します。そして、横にいるのが」

「三男のアロニスです!」

「――というわけで、お嬢さんの名前をお聞きしても宜しいかな?」

「はい、グラストルのキーナと申します」

「キーナさんですね。うん?」


 キーナが名を言うと、ジェレールは首を傾げて尋ねる。


「グラストル……というと我が商会で取り扱っているワインの産地ではなかったか?」


「なんと、お得意様でしたか」

「私達の畑から採れたぶどうで作っておりますの」


 横で聞いていた両親は驚いていた。


「おお、なんという事か。世の中は狭いですな! 私も愛飲しておりますぞ!」


 アレッシオ達が作るワインの殆どが、このトネマール傘下の商会を経由して販売されていたのだ。


「どうぞ、これからもご贔屓にお願い致します」


 それを聞いたキーナの両親が立ち上がり、深々と礼をする。


「いえいえ、どうぞ姿勢を直してください。今はこちらがお願いする立場ですので」

「そうですか……はい、わかりました」


「話が逸れましたな。ではキーナさん、その喫茶店について詳しく教えていただけますかな?」

「はい、では紙に書きますね」


 キーナはどこからか筆記用具を取り出すと、店の詳細と地図を描き、ついでに紹介状を書き加えた。


「はいどうぞ。私がマスターさんに話をしておきますので、その紹介状があれば大丈夫だと思います」

「ありがとうキーナさん!」

「これこれ」

「すいません父上」

「ん、親切に有難うキーナさん。この恩はいずれ必ず」

「いえいえ、お構いなく」


 キーナはそれほどのことをしたとは、これっぽっちも思っていないのだ。


「それでは、お邪魔を致しました。私達はこれで」

「ではまた!」


「お気をつけて」



 アロニスはジェレールに引っ張られつつ、キーナに手を振り続けていた。







「じゃあ、私達は帰るわね」

「はいお母さん」

「また年末に会おうな」

「ええ、お父さんも頑張ってね」

「じゃあね~」

「ミルドラお姉さんも元気でね!」


 午後は、時間いっぱいまで四人で学園内を巡り、そのまま本校舎入口で別れることとなった。



 こうして、学園祭二日目は無事に終了した。


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