24 学園祭 一日目
学園祭初日がやって来た。
教室では、開幕を告げる、朝の三回目の音が鳴るのを心待ちにしていた。
「まだかなー?」
「もうそろそろじゃない……?」
――♪ポンポロピンポン~ポンポロパンポン~
『只今より、第百九五回、王立学園、学園祭を、開始します』
音が鳴り終わり、デビアスの声が響き渡ると、生徒達が一斉に動き始めた。
「始まった~~~~~!」
「じゃあ一班のみんなよろしくね~!」
「はい、行ってらっしゃい~」
「アーちゃん! レンちゃん! 急ぐよー!」
「あいさー」
「まってー!」
生徒達は時間ごとに行動班を決め、担当班以外の生徒は他の出し物を見に行くことになっているのだ。
「さーて、どうなりますか~」
キーナは一班の担当で、最初のお客様を迎える係であった。
◇
『お帰りなさいませご主人様~』
数名の生徒が教室に訪れると、お揃いの衣装に包まれた女子たちの声が響き渡る。
「うぉっ!? 可愛い!」
「ご主人様だってよ」
「なんか背中がむず痒いな」
男子たちは視線を彷徨わせ、その雰囲気に圧倒されていた。
「この衣装可愛い~♪」
「わたしも着てみたい!」
「とにかく中には入ろうよ~」
女子達の受けも上々の様子だ。
「本日のご用意は、こちらからお選びいただけます」
キーナは予め用意しておいた”お品書き”を提示する。
お品書きには、コーヒー、紅茶、栗のケーキ、チーズのケーキ、シフォンケーキの絵が描かれ、組み合わせができることが判るようになっている。
「僕はコーヒーに栗のケーキで」
「俺は紅茶にシフォンケーキ? ってやつにしようかな」
「んじゃコーヒーとチーズのケーキで。折角だし、一口ずつ味見しようぜ?」
「おう、いいぞ」
「わかったぜ」
「畏まりました、暫くお待ち下さい」
キーナは綺麗にお辞儀をして、調理場へと向かう。
「ご注文頂きました! コーヒーが二、紅茶が一、ケーキ三種類が一です」
「承りー♪」
「わかったんだなー」
調理担当から気持ち良い返事が帰り、トレイの上に注文の品が手際よく並べられた。
「提供よろしく~」
「はーい!」
◇
「ご主人様方お待たせいたしました。ご注文の品でございます」
キーナはトレイを置くと、丁寧に給仕する。
「おぉ? 美味そう!」
「すごい綺麗だねこれ」
「早く食べようぜ」
視線はケーキに釘付けである。
「では、ごゆっくりお召し上がり下さい」
キーナは再びお辞儀をして席を離れていった。
◇
――♪ポンポロポンポロパーン
昼の一回目の音が鳴った。
「ケーキが半分出たよー! 特にシフォン早めでよろしくー!」
一班の一人が、四班のいる調理室へ報告にやって来た。
「もう!?」
「いい感じだね!」
予想より速い減り具合に驚く四班の生徒達。
「今日のケーキ、好評みたいだよ~」
「やった!」
「腕の見せどころだぜ!」
「頑張って、どんどん追加しないとだね」
「がんばろー!」
「おー!」
良い評判を聞いた調理班の生徒達は、さらに気合を入れて追加のケーキを焼くのであった。
◇
「よっし、じゃあ二班の人たちよろしくね?」
「任せてちょーよ!」
「……お淑やかにしないとダメなの」
「おおっと! こほん。お任せ下さいまし」
「……背中が痒いの」
「この娘はっ」
「クスクス……」
キーナ達一班は、今日の役割を終え、自由時間となった。
「適当に回って見ますかね? なにか美味しそうなものがあったらお昼にしましょう」
「わたしもご一緒したいのよ」
「うん、行きましょうか」
メルティと二人、本校舎内を歩き始めた。
廊下には様々な看板や飾り付けが目立つ。
ほぼ例年通りの品揃えのようだ。
「出し物はあまり代わり映えしてないみたいね?
「きっと、考えるのも面倒くさいのよ」
「まあうちのクラスも喫茶店だしねぇ」
「衣装が可愛いから大丈夫なの」
「あはは、ありがと」
「どういたしましてなのよ」
「あ、やきそばがある!」
「やきそば……? 何かおいしそうなのよ!」
六年生の教室の一つから、強烈な香りが漂っていた。
「よし、お昼は此処にしましょう!」
「賛成なのよ!」
「いらっしゃいませー!」
「やきそば二つ下さい!
「あいよー!」
キーナ達は、久しぶりにやきそばを堪能するのであった。
◇
やきそばを堪能し、順に歩いて二年の区域に来た時だった。
「あ! キーナおネぇちゃん! メルティおネぇちゃん! こんにチは、でス!」
「あ、マオちゃん。はいこんにちは」
「こんにちはなのよ」
声をかけてきたのは、”味市場”の喫茶店で仲良くなっていた、魔人族のマオであった。
「マオちゃんはこれからどうするの?」
「おかしのアるところを探しに行くでス」
「ふむふむ……」
キーナがメルティの表情を伺うと、メルティはコクリと頷く。
「私達のクラスでケーキを出してるんだけど、よかった――」
「行くでス!」
「――ら……うん、行きましょうか」
「凄い食いつきなのよ」
「はヤく、いコ!」
マオはキーナの手を掴むと急かした。
「ケーキ! ケーキ!」
マオは掴んだ腕をブンブンと振る。
「ケーキは逃げないから落ち着くのよ」
「ケーキ! ケーキ!」
しかし、マオの耳には聞こえていないようだ。
◇
「お帰りなさいませ嬢さま方」
「可愛いお客様をお連れしたわよ~」
「おネぇさん達、とっテも可愛いでス!」
マオは目を輝かせる。
「あらありがと。良かったら後で着てみる?」
「着テみたい、でス!」
「じゃあ、ケーキを頂いた後にね」
「はーイ!」
「かわいいお嬢様、ご注文はお決まりすか?」
「セレスティアおねぇさんもかわいい、でス!」
「えっへん」
セレスティアは胸を張る。
「こらこら、お淑やかお淑やか」
「そだった。で、どうする?」
「ケーキを三種類とコーヒー。メルティは?」
「コーヒーでいいの」
「マオちゃんはどうする?」
「マオも、コーヒーがいいのでス!」
「承りました~。暫くお待ち下さい♪」
「わくわく、でス!」
マオが両手を胸の前でにぎにぎしていると、すぐにケーキが運ばれ、マオの前に並べられる。
「わあぁ!」
「さ、召し上がれ♪」
「たべる、でス!」
マオは左から順番に、栗のケーキ、チーズのケーキ、シフォンケーキと口に運んだ。
「どレも、美味シいのでス!」
「どういたしまして」
「ドれも、じぃじのお店には無い味なのでス」
マオは次々に口へ運び、もきゅもきゅと味わっている。
「そうなんだ」
「はいでス」
「じゃあ、学園祭が終わったら、作り方を教えにいこうかしら?」
「ぜひおねがいするでス! じぃじもよろこぶでス!」
「そうだよね~、ちょくちょく食べたいもんね~」
「おー、それなら私達も気軽に食べられるようになるね!」
「それはいい考えなのよ」
「ふぅ、ごちそうさまなのでス!」
マオはぺろりと平らげると、満足気な笑顔を振りまいた。
「どういたしまして。あ、じゃあ衣装着てみる?」
「はいでス!」
◇
「着れたでス!」
バンザイの格好でくるりと一回転するマオ。
「キャー可愛いー!」
「こんなお店があったら通っちゃうかも」
「わかる~」
愛くるしいフリルエプロンドレス姿になったマオに対し、生徒達が歓喜の声を上げた。
「ここまで似合うとは思わなかったわ」
「学園祭終わったらお店で使ってもらいたいぐらいだね」
「あ、それいいかも。マオちゃん、この服、お店で使ってみない?」
「マスターも喜ぶかもよ?」
「じぃじが喜ぶでス?」
「間違いなく、ね」
「そうでスか! じゃあ、この服もらえるでス?」
「あとで、みんなが許可してくれたらだけどね?」
「はう。わかったでス! よろしくお願いするでス」
マオは自分をぎゅっと抱く仕草をすると、手を広げて丁寧なお辞儀をした。
「ああもう、許可でも何でも出しちゃう」
「可愛いって正義よね~」
女子達はメロメロのようだ。
「ああいう妹が欲しかったなぁ」
「妹じゃなくてもいいけどな」
「警備隊員さんこの人です!」
「ちょ、なんでだよ~!」
「くっ、ははは!」
男子は違う意味でメロメロのようである。
その後、マオを探しに来たマスターもめろめろになったのは言うまでも無く、ケーキの作り方に関して話も纏まったのだった。
学園祭初日は、そんな和やかな雰囲気のまま過ぎて行った。




