23 学園祭に向けて
季節は秋、心地よい風が頬を撫ではじめた頃。
本校舎の教室では、生徒達が学園祭の準備に追われていた。
今日は準備の日として、丸一日掛けて作業を行っているのだ。
「キーナ~! テーブルの配置はコレでいいのー?」
「んー? うん、バッチリだよー!」
「じゃあクロスひいちゃうねー!」
「おねがーい!」
「えっちゃん! そっち引っ張ってくれるー?」
「はいよー!」
「よっす! 食器の確認もバッチリだよん」
「ありがと~」
発案者であり、総監督のキーナは慌ただしく動きまわる。
「キーナちゃん、ケーキの試作品の味見もよろしく~!」
「はいはい……」
「はい、あーん!」
「あーん……むぐむぐ。うん、美味しい!」
手がふさがっていたキーナの口に、ケーキが投げ入れられた。
上々の出来のようだ。
「よかった~……」
「私にもー!」
「俺もっ」
続いて、全員が一口ずつ試食していった。
◇
「あ、紅茶もいれてみたよ、はいどうぞ」
「ありがと、うんおいしい。その調子でいいと思う」
「うん、任せてっ!」
「最高の味を届けてやるぜ~」
手の開いた生徒達は、ゆっくりと紅茶の味を確かめる。
入れ方の確認も大丈夫のようだ。
キーナ達のクラスの出し物は、喫茶店であるようだ。
教室の中は、甘い香りに包まれている。
「おーい! 入口の看板出来たよー!」
「お、どれどれ……」
絵を描いていた生徒の呼ぶ声に答えたキーナ達は、廊下へ出ると出来たばかりの看板をじっくりと眺めた。
「おおっ! 可愛くていいね!」
「でしょでしょ~?」
「デザイン画を参考に描いてやったぜ」
看板には、大きな”侍女風喫茶”の文字と、”此処では貴方もご主人様気分”という文字が可愛らしい衣装の侍女風の絵とともに描かれていた。
なお、侍女風喫茶という発想は、この世界にはまだ無い、少なくてもこの学園都市では。
クラス会議の中、”喫茶店をやろう”という話になった際、この世界の店員の衣装がとても地味なのが気になり、”折角だから、かわいい衣装でやりましょう”と、出迎えの所作を含めて提案したのがキーナだった。
そんなことを思い出しつつ看板を見ていると、廊下の奥から袋を抱えた数名の生徒達が、こちらへと向かってきた。
「みんなー! 頼んでおいた衣装が届いたよー!」
「ふっ……はっ……」
「衝立の裏に置けばいいよね?」
「それでお願いー!」
「よっ……ほっ……」
彼らは、本校舎の入り口まで沢山の衣装を受け取りに行っていたのだ。
『おおおー!』
女子達は、衣装が詰まった袋達に群がり、次々と開封していった。
「これが実物かー」
「下絵の時点でも可愛いと思ったけどさ」
「やっぱ出来上がりを見ると可愛さが倍増するね!」
「このフリル凄いね!」
「よし、早速着てみよう!」
「あたしもー!」
「男子ー、覗いちゃダメだよ~?」
「誰が覗くかっ!」
「クスクスっ」
女子達は、男子をからかいつつ、控室代わりの衝立の奥で、届いた衣装に着替え始めた。
「えーっと……これどうなってるんだっけ?」
「ここを先に通すのよ」
「お、なるほど~」
「ごめんそこ縛って?」
「あいよー」
「どもども」
着慣れない衣装に難儀をしたものの、無事に着られたようだ。
「じゃっじゃーん! どう? どう?」
「……可愛い服なの」
セレスティアは自慢げに手を広げてみせその場で回転し、ロッピィは少し恥ずかしそうにした。
「うわぁ……」
「これすげぇな!」
男子達はその姿に圧倒されている。
「わー! バッチリ決まってるんじゃない?」
「へっへーん! どうだー!」
「まあ、衣装がいいからなのよ」
「なんだとお~? うりうり」
「あっ、そこはだめなのよ~」
「キーナのデザインが良いってのは認めざるを得ないけどね~」
セレスティアは、メルティの喉辺りをコロコロとくすぐった。
「こら~、ほどほどにしときなさいよ? 他の皆も一度着て、おかしい所が無いか確認してね」
「はーい!」
「わかったよー」
「わたしも着よっと」
キーナも、自らがデザインした衣装を抱えて着替えに向かった。
無論、脳内に有ったイメージから掘り起こしたモノだ。
◇
「どう? 大丈夫そう?」
「みてみて~くるくる~♪」
教室には、フリルがふんだんにあしらわれたエプロンドレス姿の少女が並び、それぞれが互いのドレスにおかしな所がないかを確認しあっていた。
「みんな大丈夫みたいね?」
「うん、完璧だよ~」
「ほっ、良かったわ」
キーナは少し安心した。
「ぼくたちは学園の制服にエプロン着けるだけなんだな?」
「女子はいいなぁ……」
男子は基本、裏方を担当することになっているのだ。
「……着たいんなら言ってくれれば。ほれほれ」
「そ、そういうことじゃないんだな」
ガルザに女装の趣味は無いようだ。
「はいはい。それじゃあ、制服に戻して準備の続きね」
「はいなー」
「ドレスちゃんまた明日ね~」
従事風衣装を丁寧に畳み、明日の本番に向けて、生徒達は慌ただしく作業を進めるのであった。
◇
学園祭は三日間行われ、外部の人間が学園の敷地に入れる数少ない機会でもある。
初日は学園関係者のみで行われるが、二日目以降はそれ以外の人々にも開放される。
二日目以降は、私服警備隊員が学園内を巡回する手筈となっている。
「いよいよ学園祭です、ご来場の皆様に対し全力で事にあたるように」
「はい」
「では、順に報告を」
「はっ」
職員会議の場では、デビアスが気合を入れていた。
一般客や生徒の家族はもとより、王族や貴族も来場するのだ。
「臨時宿泊所の設営も完了しております」
街壁の外側にはテント村のようなものが設営され、都市内に宿泊しきれない人々を受け入れることが出来るのだ。
「来場予定時刻の確認及び、警備隊との連携確認完了しております」
王族、貴族らも変装や偽装をして学園祭を楽しむので、学園内での護衛のすり合わせも行われるのだ。
「装備一時預かり所の準備、完了しております」
学園内には、一切の装備の持ち込みが禁止される。
そのため、学園前には検問が置かれ、引き換え札と交換に預けることになっている。
「学園都市の各門、タグ確認要員の配備、準備完了しています」
現職の警備隊員だけでは捌き切れないため、自由交易組合の職員や冒険者を配置することになっている。
「次に――」
その他、もろもろの報告が行われていく。
「よろしい。では、確実に成功させましょう。解散!」
報告が終わり、デビアスが発破をかけると、職員たちは「はい!」と返事をして、会議は解散となった。
◇
「準備終わりーっと」
「帰ろ帰ろ~」
「明日から楽しみだねー」
「あたしは食べ物や巡りの予定~」
「ニャーもいくにゃよ!」
「……お芝居も楽しみなの」
「珍しいものがあるといいなぁ」
生徒達は、明日からの祭りにわくわくが止まらないのであった。




