21 臨海学習 三
「お、来たな? それじゃあ各自この名簿にサインしていけ。あと、このバンドを着けてから海岸へ戻るように」
「はい」
「わかったにゃ」
職員の指示に従いサインをし、受け取った革製のバンドを腕に巻いていく。
「これがきちんと島に行ったって証拠なのね」
「この石なんだろうね~?」
バンドには黒色の丸い石が嵌めこまれていた。
「……嫌な予感しかしないの」
「去年の悪夢を思い出したのよ」
ロッピィとメルティの表情に影がさす。
「まさか、また?」
「むぅ、覚悟しておいたほうが良さそうなんだな」
デルトロとガルザは天を仰いだ。
「だいじょーぶ! ボクにまーかせて!」
「その自信はどこから来るんだか……」
セレスティアは胸を叩き、キーナは半眼になるのであった。
◇
「先頭はやだなー」
「おーい! 誰か先に行っていいぞー?」
「お前がいけよ……」
殆どの生徒が浅瀬に来ており、誰かが先に行かないかと様子をうかがっていた。
「さて、他の子達も記録し終わったみたいだし、そろそろ戻りますか!」
「というわけでミーシャ任せた!」
「なんでニャーなのにゃ!?」
ミーシャは威嚇のポーズで聞き返す。
「頑張ったあとのご飯はきっとおいしいのよ」
「……ミーシャのかっこいいとこが見たいの」
「晩御飯は期待してていいわよ?」
「しょーがないにゃー。ニャーに任せろにゃ!」
そんな言葉にあっけなく手のひらを返し、ミーシャは一人で海へと入っていき、
「さっきみたいにやってみるにゃよ。――<氷結> にゃっは~~~~~~~~~~~~~…………」
氷の道を作ると勢い良く走り出した。
「あれ? 何も無い?」
「うーん?」
「よし、ボク達も行こう」
五分程行く手を見守っていたものの、特に何もなかったのを見た生徒達も、ゾロゾロと海岸へ向けて進み始めた。
◇
生徒達は,海岸まであと三分の一の距離まで到達していた。
「今年は泳ぐだけで終わりとか! 楽勝だったな!」
「俺、ゴールしたら夜の自由時間に、好きなあの娘に告白しようと思うんだ」
「こうなりゃ一位はボクのものだぜ~~~!」
別クラスの生徒は、もうすっかり終わった気分である。
「あー、コレはダメなやつです……」
「キーナ?」
軽口を耳にしたキーナは、脳裏に嫌なイメージが浮かんでいた。
「たぶん、ここから酷いことにな――」
「なんじゃありゃー!?」
「――りましたね」
――ドドドドドドド
その時生徒達は、幾つもの巨大な波が、轟音と共に押し寄せているのを目の当たりにしていた。
「やっぱりかあああああ!」
「流れに巻かれないように気合を入れろー!」
「臨海学習はこうでないとね!」
セレスティアの眼は輝いている。
「とにかく対処するしか無いんだな!」
「頑張って泳ぐにゃよ!」
生徒達は迫り来る波に向けて加速していった。
「こんなの、空に逃げれば余裕だろ? ――<浮遊>からの――<大気噴射>!」
そんな中、別クラスの少年が海面から飛び出し、波を越えようとした。
「それだーっ!」
「俺も行くぜ!」
それを見た数人が追従していく。
「なっ! お前ら真似すんなよ! 一番は俺のも――痛っ!?」
――バシャーン
少年が更に前進しようとしたが、海岸から飛んできた何かに弾かれ海へと沈んでいった。
「ふぎゃっ!?」
「のほーっ!?」
――ドボーン
――――ペシャーン
続けざまに、空にいた彼らは撃墜されていった。
「何だぁ!?」
「撃ち落とされたぞ!」
その様子を目撃した生徒達は騒然としている。
少年たちを撃墜したのは、学年主任達が放った<衝撃砲>――非殺傷系の風属性魔法――の砲弾であった。
「つまり、”ズルせずに気合で泳げ”ってことなのかしらね?」
「きゃっはー! 盛り上がってきたー!」
「セレスティアは静かに」
「ええー!?」
キーナに突っ込まれたセレスティアは口を”3”の字に尖らせる。
「そんなことやってる場合じゃないんだな!」
「波が来るにゃー!」
「とにかく泳ぐのよ!」
「……全速前進なの」
「みんな、技能でなんとかするよ!」
「わかった――」
「おうよ――」
生徒達は、各自の技能や、得意な属性魔法を駆使して、迫り来る波に向かって行った。
◇
一方、少年が撃墜される少し前の海岸。
「そろそろ頃合いだな。よし、発動待機させてくれ」
「はい!」
学年主任は生徒たちの様子を確認すると、横に控えていた講師たちに合図を出す。
「打ち合わせ通りにお願いします! 発動まで十……九……」
海岸沿いに整列した講師陣と、同行している警備隊員達が海に向けて手を向ける。
「三……二……一……今!」
「いくぞ! ――<小嵐>」
「おう! ――<小嵐>」
「――<小嵐>」
砂浜の縁辺りに発生した風の渦が唸りを上げ、次々と大波を発生していく。
「よし、そのまま交代で波を維持してくれ!」
「了解!」
「はい!」
「それから、空を飛ぼうとする生徒は打ち合わせの通りに撃ち落としてくれ!」
「解りました!」
「承知!」
「保護班の諸君は、バンドから発する信号を随時確認せよ!」
「わかりましたー!」
「今のところ脱落者はいません」
「よし!」
学年主任はそれからの時間、双方の様子を見守リ続けていた。
◇
場面は戻り、海中の生徒達は、波の上を華麗に滑って遊ぶ突進海豚に妨害されたり、油断なく飛来する<衝撃砲>の砲弾を交わしつつ、必死になって海岸へと泳ぎ続けた。
「もうすぐよ! みんな頑張って!」
「うおおおおおっ!」
「ぜぇ……ごぼぼぼ……はぁ……」
「頑張って! <癒しの湯>」
「おう……これはありがたい」
キーナは周囲に眼を配りながら泳いでいた。
「横から一匹来たにゃ!」
「危なっ! ――|氷壁《アイスウォール>!」
――キキィ!?
横から突進してきた突進海豚が、氷壁の上を滑って飛んで行った。
「でかした!」
「ってまた来るぞー!」
「いや大丈夫、あっちで何とかしたみたいだ!」
「ひぃー……」
◇
「お、波が無くなったぞ!」
「やったー! 終わりだー!」
幾度も波を越え、夕陽が差し始める頃。
生徒達はようやく海岸へと辿り着き、砂浜に倒れ伏していた。
「よーし! よく戻ってきた! バンドを返納した後は自由時間とする!」
学年主任の声が響くが、大半の生徒はまだ動くことが出来ずにいた。
「し……しねる」
「どのへんが楽勝なのか詳しくききたいのにゃ……」
「お……おなかがペコペコなんだな」
「……もうだめなの」
イオラ、ミーシャ、ガルザ、ロッピィの四人は横になって居る。
「さすがに辛かったわ」
「キーナはボクとは逆で~体力系って苦手だもんね~」
「それにしても、セレスティアは何でそんなに元気なのよ」
メルティは不思議そうな顔でセレスティアを見る。
「ナントカは疲れを知らないって言うし?」
「あっ、ダンテってば酷っ!」
「はっはっはー! 俺は逃げるぜウェーイ!」
「あっこら待てー!」
「待ちませーん!」
セレスティアは、言い逃げしたダンテを追いかけていった。
「はー。あの二人の元気を分けて欲しいよ」
「やめといたら? ナントカが伝染るよ?」
「……あー」
「あーじゃないわよ。否定はしないけど」
デルトロの呟きにエミリオが返し、ディアドラが納得して頷き、キーナが乗っかった。
割と余裕そうである。
「そんなコトより、はやいとこバンドを返してキャンプでじっくり休憩しましょう?」
「わかったにゃ~」
「はやくなにか食べないと保たないんだな」
キーナ達は最後の力を振り絞り、バンドを返却してキャンプへと帰っていった。
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