18 喫茶店にて
喉が乾いた三人は”味市場”でお茶してから帰ることにした。
「ドコ寄って行こう~?」
「この間新しく喫茶店が出来たって聞いたから、そこにしない?」
「あたしはそれでいいよ~」
「よし決まり!」
「どんなお店かな~っ♪」
三人は、中央公園に面する通用門から”味市場”へと進んでいった。
この通用門には警備隊員が常駐しておらず、定時巡回のみ行われている。
何故なら、中央公園で昼食を取る生徒達の為に、業者が弁当などを運ぶ経路であり、その業者たちと生徒しか通過しないためだ。
そもそも、本校舎は学生証または職員証を持つ者以外進入不可であり、観光客たちが来ることも少ない。常駐させる程でも無いのだ。
◇
――♪カランコロン
入口の戸を開けると、取り付けられたベルが澄んだ音を響かせる。
「いらっしゃいまセ~。三名様ですネ~? こちらの席へどうゾ~」
噂の喫茶店に入ると、最奥に有る四人掛けのテーブルへと誘導された。
独特の抑揚で話す店員は魔人族の女性で、灰髪からSの字に曲がった角を両サイドに垂れさせており、右側のそれには赤いリボンが可愛い感じに巻いてあった。
「おしゃれな感じだねっ」
「ボクは、なんか落ち着く感じがするよ」
「あたし、この香りたまらなく好きなんだよね~」
店内はテーブル席が四つとカウンターに十席ほどの広さで、珈琲豆を焙煎する香りに包まれていた。
カウンターの中では、エプロン姿の老紳士が淀みない動きで作業を進めている。
彼もまた魔人族で、こちらは白髪に渦を巻いた角を外向きに生やしていた。
ここは魔人族が経営する喫茶店のようだ。
「ご注文ハ~お決まりですカ~?」
先程の店員が水の入ったコップを置き、注文票の束を片手に尋ねる。
「アイスコーヒーをお願いします」
「ボクも同じで!」
「あたしも~♪」
「アイスコーヒーが三つですネ~、少々お待ち下さイ~」
店員は軽く礼をするとカウンターの老紳士の下へと向かった。
◇
「マスタ~。アイスコーヒー三つの注文でス~」
「あい判っタ」
マスターは注文を受けると、手際よく作業を始める。
「あァそうじゃ」
「はイ~?」
「試作品のケーキヲあの三人に出すノじゃ」
「はいでス~」
「感想を聞くヨうに頼むゾ」
「わかりましタ~」
◇
「来週の臨海学習が楽しみだねー」
「今年の海はどんな感じなんだろうね?」
「去年は断崖登りがすっごく楽しかったもんね!」
「いやそれはセレスティアだけじゃないかな……」
「エエェェ……?」
「それにしても水着が――――」
臨海学習をする場所は学年ごとに厳しい環境となる。
一年生の時はほぼ遊んで終わったが、四年生の時には断崖の攻略というイベントが有ったのだ。
上からは非殺傷系の属性魔法が降り注ぐという嫌がらせ付きで。
「失礼しまス~」
臨海学習の話で盛り上がっていると、店員がトレイを運んでくる。
「おまちどうさまでス~、アイスコーヒー三つト~、試作品のケーキでス~」
コーヒーの隣に置かれたのは、全体的に茶色で、白い粉が雪のようにまぶされたケーキであった。
「わー、美味しそう!」
「もらっちゃっていいんですか?」
「どうゾ~。あとデ~、感想を聞きにきますネ~」
「はーい」
「やったね!」
「それでハ~、ごゆっくリ~」
店員はそう言うと仕事に戻っていった。
「では……」「ん」「……ごくり」
キーナ達は目配せをすると、一斉にフォークを刺し入れ、ケーキを口に運んだ。
「ん~♪ おいし~♪」
「あまーい! でもしつこくない!」
「このほろ苦い感じが絶妙だねぇ」
「あっ、アイスコーヒーとよく合うよ~」
「むぐむぐ……ほんとだ」
「苦いのと甘いの、どんどんいけちゃう!」
三人はケーキを夢中で食べ進めた。
◇
――カランコロンカランコロン
「じいジ~! 遊ビに来たでス~!」
「ギィギィ!」
キーナ達が夢中になって暫くすると、勢い良く戸が開き、ベルが鳴り響いた。
元気いっぱいに入ってきたのは、二年生を表す緑色ライン入りの制服を着た、魔人族の少女であった。
短めの灰髪で、ちょこんと飛び出したニ本の小さな角が、その若さを語っている。
また、その肩で鳴く闇梟は少女の従魔であり、その印である銀色の足輪が輝いている。
「おォ、マオ。よくきたネ。ギギルもご苦労ダの」
「あらマ~、マオ様おひさしぶリでス~。ギギルちゃンも久しぶりネ~」
「うン! アシャママもひさしぶりなのでス!
「グギィ!」
ウエイトレスの名はアシャと言い、魔王領に於いては、乳母兼教育係であった。
魔人族の三人と一匹は、少女が入学して以来の再会を喜び抱擁を交わす。
「えへ~。あ、そうダ! 開店おめでとうナのでス!」
「ギッギ~」
少女、マオはバンザイのポーズで満面の笑顔を見せる。
ギギルも祝いの声を捧げた。
「おオう……こんなに嬉しいことはナい」
「マオ様、お祝いお言葉有難うございまス~」
マスターはマオの頭を撫で、アシャは深く礼をした。
「マオや、カウンターに座るがヨい」
「はいでス!」
マオはカウンターの椅子に座ると、店の様子をキョロキョロと見回した。
「じぃじ! あのおかシが食べたいでス!」
マオは、キーナたちの食べているケーキを指さして要求した。
「オう、まだ残っておるゾ。今切ってやるからノ。……ほレ」
「やったー! じぃじありがとうでス!」
マオの前には、キーナ達に出されたものと同じケーキが差し出された。
「ではたべるでス!」
マオは小さな口でもきゅもきゅとケーキを食べ始めた。
老紳士と店員は、その様子を見て和むのであった。
「ギィ?」
「んぐ。んー? ギギルは帰ったラご飯だから待っててネ」
「ギィギィ」
ギギルは大人しく見守るのであった。
◇
あっと言う間にケーキを食べ終わった三人は、先ほど入ってきた少女が食べる姿を見つつ、コーヒーの残りを楽しんでいた。
「うわぁ~~あの子可愛い♪」
「ほんとにねぇ」
「あの従魔も見たこと無いね」
「すごく仲良さそうだよ」
三人は、魔族の少女になにか光る物を感じ取っていた。
やがて飲み終わるころ、夕方二回目の音が聞こえてきた。
「あ、もうこんな時間なのか」
「そろそろ帰ろうか?」
「そだね」
「すいませーん! 支払いお願いしますー!」
「はイ~。あ、ケーキはどうでしタ~?」
「とっても美味しかったです!」
「もっと大きくてもいいかも!」
「白いやつがもっと多くてもいけそうですね」
「わかりましタ~。マスタ~に伝えておきまス~」
「また来ますね~」
「ありがト~ございましタ~」
――カランコロン
「いいお店だったね、また来よ!」
「皆も誘ってだね」
「もちろん!」
キーナ達は感想を伝えると、支払いを済ませ、寮へと帰っていった。
◇
「ん~。まんゾく、でス!
マオは焼き菓子も追加で食べ、ご満悦であった。
「それはよかっタ」
「マオさマ~、そろそロ~、寮に戻られませんト~」
アシャは柱時計を見て寮に帰るように促す。
「わかっタ-! また来るでス!」
「しっかり勉強するんじゃゾ? 立派な魔王と呼ばれるようにナ」
「はいでス! じぃじ! アシャ! またでス~!」
「ギギッ!」
――カランコロンカランコロン
マオ達は元気よく帰っていった。
「……帰ってしもうタな」
「またすぐ来ますヨ~」
「このお店ハ~、マオ様を近くで見守れテ~、いい所ですからネ~」
「うむ。我の趣味も生かせるデな。ザルザの奴モいい仕事をしよっタわい」
喫茶店を準備したのは、”味市場”の顔役であるガレット屋のザルザであった。
「魔王領は側近が何とかすルじゃろ。引退シた我は、可愛い孫を見守るだけの只の爺ジゃて」
「先代様ハ~、マオ様にメロメロですものネ~」
「然り」
マオは現魔王であり、老紳士は孫バカな先代魔王なのであった。




